ストーリーとしての競争戦略

この本のメモ書きです。

1章 戦略はストーリー

・現実のビジネスの8割は「理屈ではないこと」で決まっている
→2割の理屈を突き詰めていないと「理屈じゃない」部分がわからず、野生の勘が働かない
→戦略に「論理」は大切

・戦略とは「違いをつくって、つなげる」こと
 違いとは、競合他社との違いのこと
 つなげるとは2つ以上の構成要素の因果論理

・さまざまな打ち手が静止画ではなく動画のようにつながり、ストーリーを持つことが大事
 戦略の本質は「シンセシス」(ばらばらのものを1つにまとめること)にある

・ストーリーの戦略論とは
 アクションリストではない
 法則ではない
 テンプレートではない
 ベストプラクティスではない
 シミュレーションではない
 ゲームではない

・戦略ストーリーはビジネスモデルとも違う。流れや動きが加味されているのがストーリー

・戦略ストーリーは、文脈に依存した因果理論のシンセシスなので短い話ではない

・組織に戦略を語る際は、数字よりも筋が大事

・海外の企業は機能分化に対して、日本企業は提供する価値を切り口に分化している
 マーケティングのスペシャリストですというのか、このサービスを担当していてマーケティングをしていますというのかの違い
 マーケティング=機能 サービス=価値
 機能のお客さんは組織 価値=組織が提供するアウトプット
 だから日本企業こそ、戦略ストーリーを組織で共有することが大事

2章 競争戦略の基本論理

・競争戦略と全社戦略
 競争戦略は特定の業界、競争の土壌が決まっていて、その中で特定の事業がどう戦うか。
 全社戦略はある企業がどういう事業ポートフォリオで戦うか
 戦略ストーリーは前者が対象

・競争戦略の勝ち負けは「利益」で決まる
 SSP Sustainable Superior profit 長期にわたって持続可能な利益
 利益に狙いを定めれば、他のよいことも自然と達成できる

・利益の源泉はいくつかある
第1の源泉は「業界の競争構造」

利益が出やすい業界とそうでない業界がある
松井がバスケやバレーでなく野球を選んだことが第1の勝利

ポーターのファイブフォース
 どんな業界でも、その業界の利益を奪おうとする圧力がかかっている
  第1の圧力は「業界内部の対抗度」
  対抗度とはすでに参入している既存企業間の競争の激しさ
  第2の圧力は「新規参入の脅威」
  参入するのにかかるコストが参入障壁
  第3の圧力は「代替品の脅威」
  写真フィルムがデジタルカメラにとって代わられたみたいなこと
  第4と第5は「供給業者の交渉力」と「買い手の交渉力」
  業界と供給業者、買い手はいつも利益の綱引きをしている
  お客様は神様ではなく敵という見方
  交渉力が弱い客が良い客
  この観点だと冠婚葬祭やパチンコ業界が魅力的
この5つの圧力が全て低ければ5つ星業界、ハワイに住むようなもので、そこで頑張っていれば利益がでる
 製薬業界はそれに近い。タバコ業界も
 製品の差別化がしやすく、企業は自分のつよいところに特化して棲み分けている(対抗度が低い)
 供給業者は化学品業界、彼らは装置生産の業界なので恒常的に過剰供給力(交渉力が弱い)
 製品やチャネルの開発に時間がかかるため参入障壁も低い
 代替品もさほどない
 普通の業界と違って意思決定者(医師)と使用者(患者)と支払者(国)が分かれていて、買い手の交渉力が小さい
 現実にはそんな業界はなかなかないため、戦略ストーリーが必要になる

それゆえ第2の源泉は戦略

・戦略ではないもの
 目標設定(戦略の第一歩でしかない)
 組織編成(戦略を実行する手段でしかない)
 分析

・競争がある中でいかにして他社より優れた収益を達成し、それを持続させるか、その基本的な手立てを示すものが競争戦略
 その業界の中で、競合他社に対して「違い」を構築することが大事

・違いには2種類ある
 種類の違い:ポジショニング SPの戦略(Strategic Positioning)
 程度の違い:組織能力 OCの戦略(Organizational Capability)
 種類の違いには、その程度の違いを指し示す物差しがない(性別、職業、趣味みたいな。身長体形髪型とは異なる)

・SPの戦略論
 他社と違うところに自社を位置づける 他社と違ったことをする
 他社よりも良いことをするのは程度の問題でSPとは違う、OE(Operational Effectiveness)
 SPの戦略論はdoing different thingsであり、doing things better(OE)ではない
 SPがはっきりしていないと企業は全ての要素をベターにしようとしてしまい、結果報われないことにお金を使ってしまう
 SPの戦略とは活動の選択、なにをやりなにをやらないか
 SPの戦略を支えているのはトレードオフ、カスタマイゼーションと標準化の両立は無理
 なにをやらないかをはっきりさせれば他社との違いを持続できる
 「より頑張る」はSPの戦略ではない。同じ方向で他社も頑張っていればSPにならない

・OCの戦略論
 SPが「他社と違ったことをする」のに対しOCは他社と違った物をもつこと
 企業の内的な要因に競争優位の源泉をもつこと
 さまざまな経営資源のなかで「組織特殊性」をもつ物のこと
 組織特殊性とは他社が簡単に真似できず、市場でも容易には買えないもの
 OCの鍵は「模倣の難しさ」
 全く同じことをするときに、生産効率が勝敗を決めるみたいな状況
 その正体は組織のルーティン(物事のやり方)にある
 OCで有名なのはセブンイレブン、店長による仮説検証発注と、それを支える地域マネージャーのような組織構造
 トヨタのトヨタ生産方式もそう

・OCがなぜまねできないかの3つの理由
 暗黙性、外から見たときの因果関係の不明確さ
 経路依存性、その組織で長い時間をかけて紆余曲折あって造られる
 OCそのものが時間をかけて進化する

・SPとOCではマネジメントの仕方も異なる
 SPでは意思決定者が直接、OCでは間接的

・現実の戦略はSPとOCの組み合わせである
 設立当初はSPの戦略で競争優位をつくり、業界の成熟とともにOCが大きくなる
 実際にはSPとOCにはテンション(対立関係)があり、どちらかに偏った企業が多い

・まとめると持続的な利益を出すためには
 「業界の競争構造」か「競争戦略」が必要
 「競争戦略」にはSPとOCがあり、どちらも重要だがテンションがある

第3章 静止画から動画へ

・SPにしろOCにしろ1個1個の打ち手をつなぎ合わせることが決めてになる

戦略ストーリーの5C
・競争優位(Competitive Advantage)
 ┗ストーリーの「結」 利益創出の最終的な論理
・コンセプト(Concept)
 ┗ストーリーの「起」 本質的な顧客価値の定義
・構成要素(Components)
 ストーリーの「承」 競合他社との違い SPもしくはOC
・クリティカル・コア(Critical Core)
 ┗ストーリーの「転」 独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
・一貫性(Consistency)
 ┗ストーリーの評価基準 構成要素をつなぐ因果論理

シュートの軸足を決める
・根本的な考え方として
 WTPーC=P
 WTP:Willing to Pay 顧客が支払いたいと思う水準
 C:コスト
 P:利益

業界の平均的な利益水準と比べて取るべき戦略は
・コスト優位
・WTP優位
のいずれかしかない

パスを出し、つなげる
・軸足を決めたら、それに向けたさまざまな構成要素を考える
・そしてそれらを一貫性を保つようにつなげる
・一貫性の次元として、下記の3つ
 ストーリーの強さ
 ストーリーの太さ
 ストーリーの長さ
 →強くて太くて長い話が良いストーリー

ストーリーの強さ
・XとYという構成要素の間の繋がりが強いこと、因果関係の蓋然性が高いこと。XがYをもたらす可能性の高さ
例:量産すればコストが下がる

ストーリーの太さ
・構成要素間のつながりの数が多いこと
・一石で何鳥にもなるパス

ストーリーの長さ
・時間軸でのストーリーの拡張性、発展性が高いこと
・因果理論が前へ前へと繋がる。「それで、どうなるの?」という問いに対して、次々と答えが繰り出されること
・そのストーリー、戦略を縦や横に展開できること

・筋の良さ
・筋が良いストーリーは、実行に関わる人々への浸透力が強い
・複雑な状況をどうやってシンプル化するか、リーダーがそこにいる人々にシンプルなストーリーを提示できるかどうか

戦略構築のプロセスにおいて、最初から完全なストーリーがあったわけではない。
けれど最初からストーリー化する思考をもって戦略構築されていて、個々のうちでがストーリーに合うかどうか、という思考で構築している

ストーリーの一貫性では「何を」「いつ」「どのように」やるかよりも「なぜ」打ち手が縦横につながるかの論理が大切

ベストプラクティスに惑わされず、ストーリー全体の一貫性、筋の良さに着目しないといけない。
人目をひく派手な打ち手に飛びつくのではなく、それを取り巻く構成要素とのつながりの論理を追いかけること。

第4章 始まりはコンセプト

どのシュートにするか(WTPかCか)と同じくらいコンセプトが大事。
個別具体的な構成要素を考える前に、コンセプトを考えておく必要がある。

コンセプトとは「本質的な顧客価値の定義」であり、「本当のところ、誰に何を売っているのか」という問いに答えること

「本当のところ」誰に何を売っているのか、どのような顧客がなぜどういうふうに喜ぶのか、要するにわれわれはなんのために事業をしているのか、こうしたイメージが鮮明に浮かび上がってくる言葉でなくてはならない

「どのように」よりも「誰に、何を」
・コンセプトから「誰に」と「何を」が抜け落ちて「どのように」が前面に出てくると、コンセプト不全になる
・数値目標の設定をしても、コンセプトになることはない。数字より筋

コンセプト作りに大切な3つのこと
1.すべてはコンセプトから始まる 
・これだというコンセプトが固まれば、ストーリーづくりの半分は終わったも同然
・ストーリーの起点となるコンセプトがしっかりしていれば、そこから出てくる構成要素には初めから骨太の因果論理が備わっている
・裏を返すと、すべての構成要素がコンセプトの実現に向かっていないといけない

2.誰に嫌われるかをはっきりさせる
・ターゲットを明確にし、喜ばせるということは、ターゲットでない顧客に明確に嫌われること

3.人間の本性を捉えるものでなくてはならない
・なんとなく耳障りのよい「良いこと」を並べるだけではダメ
・本性とは、人はなぜ喜び、楽しみ、面白がり、嫌がり、悲しみ、怒るのか、何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないのか
・生身の人の気持ちや動きを捉えるものでなくてはならない

コンセプト例
 ホットペッパー:狭域情報誌
 アスクル:小規模事業所(欲しいときに欲しいものを が実現されてない)に向けての速達サービス
 コンビニ:自分の部屋の延長(デパートの延長で長時間開店しているお店、ではない)
 Eコマース:自動販売機 というコンセプトで参入した企業はことごとく失敗
 Amazon:モノを売るのではなく、人々の購買の意思決定を助けるサービスを提供する
 楽天:エンターテイメントとしてのショッピング(そのためにアナログなコミュニケーションを維持した)
 サウスウエスト:空飛ぶバス(我々は航空業者ではない) 直接便を格安で
 スターバックス:第3の場所(コーヒーショップではない)
 ベネッセ:人を軸としたコミュニティの継続的提供
 カーブス(小型フィットネスクラブ):気軽なフィットネス(運動習慣のない主婦をターゲット。3つのM(ミラー、メイクアップ、メンズ)を排除)

第5章 キラーパスを組み込む

キラーパスとはクリティカルコアのこと
・ゴール(長期利益)へのシュート(競争優位)に向けて様々なパス(構成要素)を出す中でも、キラーパスになるもの

クリティカルコアの定義は「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的に競争優位の源泉となる中核的な構成要素」
・第一の条件は「他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりをもっている」こと。「一石で何鳥にもなる」打ち手のこと。
・第二の条件は「一見して非合理に見える」こと。ストーリーから切り離すと競合他社からは非合理でやるべきではないことに見える。
・部分でみたら非合理、全体で見たら合理 の「賢者の盲点」をつくこと

キラーパスの例
 スターバックス:直営店にすること
 マブチモーター:モーターの標準化
 デル:自社工場での組立
 サウスウエスト航空:ハブ空港を使わない
 アマゾン:巨大な物流センターとそのための情報技術の継続的な開発
 アスクル:既存のローカルな文具店などをエージェントとして組織化

第6章 戦略ストーリーを読解する

シュンペーター:これまでの要素のつながりを破壊し、そこに新しいつながりを構築する「新結合」にこそイノベーションの本質がある

ガリバーの話
 コスト優位の戦略
 これまでの中古車モデルと違い、展示場での小売をしない
 買取専門として、いろいろな打ち手を打っていった

第7章 戦略ストーリーの骨法10カ条

1.エンディングから考える
・戦略の目的は長期利益の実現
・エンディングを固めるために、実現すべき「競争優位」と「コンセプト」の2つをはっきりイメージする
 競争優位→コストかWTPか
 コンセプト→ターゲット顧客の心と体の動きを思い浮かべる。どのような状況と動機で、どのようにその製品やサービスとかかわり、どのように使用し、その結果としてどのように喜ぶか。
 誰に、何を、なぜ、が抜け落ちて、どのようにという方法ばかりが先行したコンセプトからは優れたストーリーは生まれない
 特に「なぜ」はストーリーを動かすエンジンとしてとりわけ重要

2.普通の人々の本性を直視する
・コンセプトを構想するには「誰をどのように喜ばせるか」のイメージが重要
・そこでは「誰に嫌われるか」という視点が大切

3.悲観主義で論理を詰める
・優れた戦略ストーリーの条件は一貫性
・一貫性の高いストーリーのためには、打ち手の間の因果論理が詰まっていないといけない
・因果論理を詰める際は悲観主義で臨むとよい
・ひとたび決まったコンセプトについては楽観主義でよい
・ストーリーが過度の楽観主義に傾倒して因果論理が甘くなる最大の理由の一つは、戦略をつくるリーダーがストーリーの実行にかかわる人々の動きについてのリアルなイメージを思い浮かべずにやり過ごしてしまうため。現場で目で見ることが大事
・悲観主義になるには、お金も時間も制限されている(ギリギリの)状態がなりやすい。資源が潤沢な強者では、因果論理が緩くなりがち
・一撃で勝負がつくような「飛び道具」や「必殺技」がどこかにあるという考えが間違い。戦略ストーリーが意図する強みは。個別の打ち手の中にはなく、打ち手をつなげる因果論理の一貫性にある

4.物事が起こる順序にこだわる
・ビジネスモデルが戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を合わせているのに対して、戦略ストーリーは打ち手の時間的展開に注目している

5.過去から未来を構想する
・ビジネスを継続的に成長させるには「長い」ストーリーが必要になる
・「これから」と「これまで」のフィットをよく考える必要がある
・従来の自社の戦略ストーリーの延長上に自然とつながる構想でなければ、競争の中で他社に打ち勝つのは容易ではない
・これまでのストーリーの延長線上に将来が描けなくなったら「革命」が実用。これまでのストーリーを捨て、ストーリーを全面的に書き換える(成功率は低い)

6.失敗を避けない
・避けられないものである失敗を避けようとすると、その時点で立ち止まってしまい、前に進めなくなる
・唯一可能な手は、試行錯誤を重ねストーリーを修正していくという実験的なアプローチ
・どんなに秀逸なストーリーでも、それが本当に成功するかどうかはやってみるしかない
・事前にできることは2つだけ
 1つは戦略ストーリを事前にもち、組織で共有すること
 もう1つはストーリの作り手が、事前に失敗を明確に定義しておくこと
・成功と失敗の境界条件をいくつか設定し、いついつまでにこういう条件をクリアできなかったら、そのストールーは失敗として即座に引っ込めるとい出口を設けておく
 ホットペッパーにしても「18ヶ月での黒字達成」と「累積キャッシュアウトは20億円が上限」という条件
・アンハッピーエンディングを織り込んでおく
・大切なのは失敗を避けることではなく「早く」「小さく」「はっきりと」失敗すること

7.賢者の盲点を衝く
・その業界を知り尽くしている「賢い人」が聞けば「何を馬鹿なことを」と思う
・しかしストーリー全体の文脈においてみれば、一貫性と独自の競争優位の源泉になっている
・部分の非合理を全体での合理性に転化する
・個別の構成要素の一段上にあるシンセシスのレベルで戦略の宿命的なジレンマを解決する
・賢者の盲点を衝くためには、その時点で業界で広く共有されている「常識」を疑って見ること
・良いことと信じられている常識の「逆を行く」という思考様式
・日常生活でのちょっとした不便や疑問が出てきたときに「なぜ」を考えることを惜しんではいけない
・その根本にあるものが、賢者の盲点かもしれない

8.競合他社に対してオープンに構える
・その戦略が本当に優れたストーリーになっていれば、実際のところ模倣の脅威はそれほど大きくない

9.抽象化で本質をつかむ
・どんな情報に接するときでも、その背後にどういう論理があるのか、Whyを考える癖をつけることが大切
・具体的事象の背後にある論理を読み取って、抽象化することが大切

10.思わず人に話したくなる話をする
・一番てっとり早くわかる優れたストーリーの条件は、そのストーリーを話している人自身が「面白がって」いること
・自分の仕事がストーリーの中でどこを担当しており、他の人々の仕事とどのように噛み合って、成果とどのようにつながっているのか、そうしたストーリー全体についての実感がなければ、人々は戦略の実行にコミットできない
・「なぜ」についての全員の深い理解がなければ実行にかかわる人々のモチベーションは維持できない
・経営者から出てくる戦略が機能部門ごとの無味感想な静止画の羅列であれば、総力戦はとうてい期待できない
・人々を興奮させるようなストーリーを語り、見せてあげることが、戦略の実効性を確保するうえでとても大切

一番大切なこと

・切実さ:戦略ストーリーにとっての切実さとは「自分以外の誰かのためになる」ということ
・直接的には顧客への価値だが、その向こうにある社会に対する「構え」なり「志」のようなもの
・結局のところ「世のため、人のため」ということ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?