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近頃の老人は戦争を知らない

本日は、「近頃の老人は戦争を知らない」ということにつきまして、みなさまにお知らせしたく思います。

近頃の老人は、戦争を知らない。いくつかの面から、そのようなことが言えるかと思います。

1つは、年代の問題であります。

私の父は今年米寿(88歳)になります。
旧満州で生まれ、終戦当時は10歳で、終戦直後は父母や弟妹(私の祖父母やおじ・おば)とともに日本に逃げ帰ってきました。そして戦後の貧しい時代を体験していることでしょう。その意味では一般には戦争を知っている世代と言われます。

しかし、これは多少なりとも誤解を生む表現ではないかと思っております。戦争体験と申しましても、実際に戦闘行為に参加したわけではありません。体験したのは戦争から逃げ帰った経験です。それは「戦争の悲惨さ」であり戦争そのものではありません。もっと言えば「戦争に負けたらどうなるか」という体験であって、「どうやったら戦争に勝てるか」などということは、恐らく考えたこともないはずです。

ではもっと上の世代、例えば100歳になる人だったら知っているかというと、私はこれにも否定的です。

当時20歳を超えていたのなら、実際に兵士として戦争に参加し戦闘行為を行った経験もあるかもしれません。しかしこれでもやはり「戦争を知らない」と言って差し支えないと思います。

どういうことかというと、「当時の戦争」は知っているが「現代の戦争」は知らないのではないか、ということです。

現代の戦争は、戦場で火器を用いて相手を撃ちあうことばかりではありません。情報戦や心理戦、世論戦、法律戦、その他通商や通貨など、あらゆるリソースを用いて行われます。

金銭面その他で政治家や官僚に働きかけるなど、戦闘行為以前の分野で、今でもすでに戦争は行われています。テレビのコメンテーターや新聞の論調に影響を及ぼすことも、広い意味で戦争の一部です。ほかにも、合法的に土地を買収したり、特定の分野で需要を独占して経済的に依存させるなど、その手段は多岐に渡ります。

このようなことは、第二次世界大戦以前にも行われていたことではありますが、現代ではその比重が高まり、もしかしたらこれらの非戦闘的手段が勝敗を決することになるかもしれません。ロシアによるクリミア半島の一方的併合など、その例です。

それに、戦闘行為そのものも、昔とは違います。

日本は米国による空襲で甚大な被害を受けましたが、それは遠く南の島から戦闘機が何時間もかけて飛んできて爆弾を落とすという手段です。現代はそんなのんびりしたことは言ってられません。北の指導者が決断すれば、10分程度で日本に核爆弾が着弾します。まったくスピード感が違うのです。

そして、サイバー攻撃も現代ならではの戦闘行為です。目には見えませんが、相手の防御手段を無効化するのですから、れっきとした戦争です。そして、今もその戦闘行為は毎日何千・何毎回という頻度で行われています。

知るべきことは、
・現代の戦争において(過去の体験に捉われることなく)
・どうすれば戦争を防げるか(いかに相手に攻撃をさせないか)
・どうすれば戦争に勝てるか(万が一戦争になった場合に備えて)
です。

そうした意味で、老人世代の実体験は、個人の人生経験として傾聴する価値はありますが、必ずしも今、私たちに必要な知識や経験ではありません。

もちろん、最終的に泥沼の戦闘になった場合は80年前と変わらない光景が繰り広げられるかもしれません。今のウクライナやパレスチナなどは、その様相を呈しています。

ですから100%否定するわけではないのですが、あくまで当時は当時、現代は現代として、戦争に関する知識もアップデートする必要があるのです。

私たちには私たちの戦争観が必要なのです。

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