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ピエトロ・アレティーノ『ラジョナメント』第6回(毎週月曜更新)

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ナンナ ……大聖堂に勤める司祭の一人、つまり、司教座聖堂の参事会長が姿を見せ、すぐ近くまで司教が来ているという知らせを運んできたの。そこで付属司教は立ち上がり、司教を出迎える準備をするために司教館へと急ぎ、去り際に、鐘を鳴らして歓迎の意を表するようにとわたしたちに言い置いていったのよ。こうして付属司教が姿を消すなり、一人、また一人と、もといた場所へ戻ってきたの。学士候補生だけは、いとも尊とき司教さまの御手に、女子修道院長の名のもとに口づけをするため、その場から離れざるをえなかったけれどね。恋人のもとに戻っていく男たちの姿はまるで、鳥にオリーブの木をつつかれて自分の心臓をつつかれる思いだった農夫から、「おい、こら、おい」という掛け声でもって追いはらわれたムクドリたちが、時も措かずにまたオリーブの木に戻ってきたかのようだったわ。

アントーニア わたしね、乳母のお乳を口に含ませてもらうのを待つ赤ん坊みたいに、あなたが本題に入るのを今か今かと待っているのよ。そんな風にぐずぐずされたら、四旬節の断食を終えたあとの聖土曜日に卵の殻を剥いているときよりも、もっと苦しい思いになるわ。

ナンナ ここからが核心よ。わたしはそこに、一人ぼっちで取り残された。修道院の慣習に背くのは良くないと思ったから、わたしはもう、自分の愛を学士候補生に捧げようと決めていたわ。そして、修道院で過ごした五時間だか六時間だかのあいだに見たり聞いたりした事柄について、一人で考えをめぐらせていたの。わたしはまるで、サンタ・マリア・デル・ポポロ教会にぶら下がっている蜥蜴を〈こんな恐ろしいものは見たことがない〉という面持ちで眺めている人のように、自分の手に握られているガラスのすりこ木をまじまじと眺めはじめたのよ。すると、コルネートの海岸に打ち上げられて干上がっていた、身の毛もよだつ魚の骨を見たときと同じくらい、わたしの頭は混乱してしまったの。わたしには、修道女たちがガラスのすりこ木をあんなにも有難がっていた理由がさっぱり飲み込めなかったのね。ああでもない、こうでもないと、いろいろな考えを戦わせていると、隣から突然、死体さえ陽気づけかねない遠慮のない笑い声がどっと押し寄せてきたのよ。その声は時間とともにどんどん強まる一方だったから、笑いがどこから響いているのか突きとめてやろうと決心したの。わたしはすっくと立ち上がり、割れ目に耳を押し当てたわ。そして、暗がりでは両目より片目の方が良く見えるから、左目をつぶり、レンガとレンガのあいだの穴に右目をぴたりと当てたのよ。そしてわたしが見たものはね……あっはっは!

アントーニア 何を見たの? お願いだから、言ってちょうだい。

ナンナ 独房のなかには、四人の修道女、修道会の総会長、それに、乳の白と血の赤が肌の上でほどよく調和した、三人の見習い修道士の姿があったの。この三人は、いと尊き総会長さまの修道服を脱がし、代わりにサテンの胴衣を着せると、剃髪した頭に金の頭巾をかぶせ、その上に、剣の小尻のような形の水晶にびっしりと覆われた、白い小羽飾りのついた縁なし帽をかぶせたのよ。腰に剣を下げた聖なる総会長殿は、「ちみ」とか「ぼき」とか喋りながら、ボルトラメオ・コリオーニみたいな重々しい足取りで歩きまわっていたわ。そのあいだ、修道女はスカートを、見習い修道士たちは修道服を脱ぎすてて、四人のうち三人の修道女が修道士たちの服を身にまとい、一方の見習い修道士たちは修道女の服に着替えたの。残ったもう一人の修道女は、総会長の僧服に袖をとおし、司教さまのように重々しく腰を下ろすと、神父の真似事をしてお仲間たちに戒律を授けていたわ。

アントーニア なんて愉快な悪ふざけかしら。

ナンナ 愉快になるのはこれからよ。

アントーニア どうして?

ナンナ 説明しましょう。尊き総会長さまは、三人の見習い修道士を呼びつけて、歳の割にはしなやかにすっくりと成長した、いちばん背の高い少年の肩にもたれかかったの。そして残りの二人に、よれよれ皺くちゃになった小さな雀を巣のなかから引っ張り出させたのよ。すると、三人のうちいちばん器用で、いちばん魅力のある少年が、手のひらの上に雀を乗せて、その背中を撫ではじめたの。もし猫が尻尾をあんな風に撫でられたなら、喜びを抑えられずに喉をごろごろ鳴らし、ぜぇぜぇ息を切らしてしまうでしょうね。雀がやがて頭をぐっと持ち上げると、いちばん可憐でいちばん幼い修道女の背に、総会長は爪をかけたわ。それから、少女の服を頭の方まで捲り上げると、ベッドの縁に額を当ててそこに寄りかかるよう彼女に指示を出したのよ。御居処に開かれしミサ典書のページを総会長は両手で優しく撫でまわし、心からうっとりとした様子で性器に見惚れていたの。ミサ臀書の表面は、痩せて骨ばっているわけでもなく、太って形が崩れているわけでもなく、柔らかに震える線が真ん中をすっと通り、全体はふっくらと丸みを帯びて、まるで霊魂を持った象牙が白く光を放っているようだったのよ。美しい女たちの顎や頬にできる小さなくぼみが、少女のおケツ(フィレンツェ風に言うならね)にも浮かび上がっていたの。水車の傍らに生まれ、小麦粉のなかで育ち生きてきたネズミすら、その柔らかさには敵いそうもなかったわ。修道女の体はどこもかしこも信じられないほどすべすべで、腰の上に手を置こうものなら、氷の上に置かれた足がつるりと滑るよりもっと速く、腰から腿、腿から膝へと、その手が滑っていってしまうほどなのよ。卵の殻に生えてくるような大胆な毛が存在しないのと同じように、少女の肌の上にもまた、顔を出そうとする不届きな毛は一本も見当たらなかったわ。

アントーニア それじゃ総会長さまは、ミサ典書に見惚れるうちに、一日を使いきってしまったわけ?

ナンナ そんなはずないでしょうに。自分の筆を唾で濡らした総会長が、絵の具を混ぜる小鉢のなかへそれを突っこむと、筆を入れられた修道女はまるで、陣痛やら母の病[ヒステリー]やらで苦しむ女のように、はげしく身をよじらせたわ。穴のなかに釘をしっかり打ちこむため、牛の飼い葉のように長くしなやかな例の少年に、自分のうしろへ回りこむよう総会長が合図を送ると、少年は下着をくるぶしまでずり下げ、明らけき尊師さまの穴のなかに自らの浣腸を突き刺したの。総会長の眼差しはそのあいだも、ベッドの上で二人の修道女とゆったり手際よくお愉しみに耽っている、二人の見習い修道士へ注がれていたわ。修道士たちが乳鉢のなかでソースをこねくりまわしてるあいだ、残りのもう一人の修道女は絶望に暮れていたの。というのも、この修道女はちょっぴり藪にらみで、肌も浅黒かったものだから、誰からも相手にしてもらえなかったのよ。そこで彼女は仕方なく、殿方たちが手を洗うためのぬるま湯でガラスの性器のなかを満たし、床に枕を置いてその上に身を預けると、部屋の壁に両足の裏を押し当て、あたかも剣を鞘のなかに収めるように、計り知れないほど大きな司教杖を股のあいだにぶち込んだの。あの人たちの味わっている快楽の匂いを嗅いで、高利貸しに預けられた質草よりもっとへとへとにすり減ってしまったわたしは、一月の猫が屋根にお尻をこすりつけるのと同じようにして、アソコを自分の手でこすっていたわ。

アントーニア あっはっは! おふざけの締めくくりはどうなったの?

つづく

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