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「レビー小体型認知症かもしれない私」の備忘録 ④幻触/体感幻覚/体感異常



「幻触」などというと、幻聴と同様、統合失調症としての深刻な症状を想像する方が多いかもしれない。

私の幻聴が、統合失調症のそれとは違って単なる一瞬の音や声であるように(統合失調症の姉がいたので、多少はリアリティをもって実感できているつもり)、幻触もまた私の場合、単なる「触覚の勘違い」みたいなものである。

ガスコンロの火を消してケトルを持ち上げた瞬間、腹部に刺すような熱感を感じた。沸騰した湯が飛び散ったのかと思った。

ケトルを置き慌てて腹部に目をやったが、着衣には水濡れの痕もない。今の痛みは何だったのかと思う。

反対に、冬場に洗面台で水を使っていたら、やはり腹部に、一瞬鋭い冷感を感じた。水滴が跳ね、服を濡らしたと思ったのだ。しかし着衣が濡れた様子はない。

そもそも実際に水滴が飛び散ったとしても、即座に厚着の私の皮膚まで水分が伝わるはずもない。これも「気のせい」だと気づく。

極度の冷え性の私は、しばしば肩や腰にカイロを貼る。ある日「背中のカイロが熱すぎる!」と思って手をやると、不思議とそこにカイロはない。その日はカイロを貼っていなかったのだ。「熱い」と感じたのはやはり「気のせい」だったのか。

先日、洗濯して乾いたバスタオルを片付けようとした時のことだ。収納棚の奥にある他のタオルがビショビショだった。指先の濡れた感覚に驚いて、タオルを取り出し確認してみると、いくらか湿度は感じるものの濡れているとは言い難かった。

昨年末に一泊の検査入院をした晩、病室の暖房が効かず、身体が冷えて寝つけなかった。「足が冷えすぎて…」と看護師に訴えると、「ホットタオルで温めようかしら」と呟きながら看護師は私の足首に触れ、「足は温かいわね」と言った。

私はその時、足首が凍りつきそうに、泣きたくなるほど冷たかったのだ。この異常なほどの冷感は、現実のものではないのだろうか。私の脳が冷たいと勘違いしているだけなのだろうか。

こんなふうに私の「触覚」は、度々なんらかの誤作動を起こす。かつて身体が経験した熱感や冷感、痛みなどの記憶と、時にそれはつながっているような気もしている。


去年から、花粉を感じると歯の先端が沁みるようになった。アレルギー薬で鼻炎は抑えられているので、副鼻腔炎による歯痛とは違う。ただなんとなく、上下の前歯の先端あたりがゾワゾワと、知覚過敏のようなのだ。

花粉症歴の長い娘に訊いてみると、「そんなの聞いたことがない」と言われる。何が本当で何が気のせいなのか、自分でもよく分からない。


聴覚、視覚、嗅覚、触覚、どれもが中途半端にあやふやで怪しげだ。あとひとつ「味覚」に関しては、今のところほぼ正常ではないかと思っている。

毎夕食べているヨーグルトの4個パックのうちのひとつを、「今日のは甘味が弱くて味が薄いな」と時々感じたりするが、それがその日の私の舌や脳の具合によるものなのか、製造過程で微妙に味のバラつきが生じているものなのか、それは正直分からない。

五感の誤感。気づけば身体中、嘘か本当か分からない。すべて曖昧な身体で、明日も生きていく。

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