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夏の日々

2008/08/09
(この記事は2008年のものです)


夏は過ぎていくわ。
昨日は立秋だったのね。

私は今日も昨日も一昨日も、病院通いの日々でございます。毎日姉たちと、「じゃあ明日の昼は私で夜はアナタね」「あさっては一日ダメなのよ、明日の夜なら大丈夫」などと手分けをして、どうにか凌いでいるのでございます。

母が介護ホームへ移るのが、16日の午前と決まり、退院をするのが14日午前。自宅に戻って、二晩を過ごしてもらうことにした。

「家へ帰ったら、何か食べたいものない?」と今日母に訊いてみた。「お寿司とか食べたい?」(なかば誘導尋問)と訊くと、「食べたいっ!」と答える。そうっかそうっか。よしよし。じゃあホームへ行く前日はお寿司をとろうね。

「みんな集まって、快気祝いだわ」って母は言う。だけどすぐに、自分の部屋がすでに模様替えされてしまったことを思い出し、「そんなに集まれないか…」と言う。

母の部屋のダイニングテーブルと、寝室のセミダブルベッドは、ずいぶん前に下の姉が入れ替えた。確かにみんなが集まれるようなスペースはない。

母は今病院で、昼間だけはなるべくポータブルトイレで用を足しましょうということになっている。それがせめてものリハビリなのだ。だけど立ち上がるのも大変で、一人が支え、一人がサンダルを履かせ、トイレの前で一人がパジャマとオムツを取り外し…という厄介さなので、母もあまりやりたがらない。母はオムツのラクにすっかり慣れてしまったようなのだ。

排尿障害もあるので、「出たんだか出ないんだかわからなくなってきた」と言う。トイレに腰掛けさせると、顔は蒼白になり、目が死んでしまう。怖ろしい形相になる。おそらく血圧がとんでもなく下がっているんだと思う。意識がなくなりかけている。声をかけると、どうにか小さく頷く。

そうしてしばらくするといくらか顔が生き返り、「あ、出る…」と言う。「おしっこ、出た…」と、静かに喜ぶ。「あ、ウンチも出る…」と言って、薬で調整した緩い緩い便をする。もう、誰の前でも平気になってしまった。

「わあ、たくさん出ましたね!良かったですね!」と、いつもすごく優しいナースに言われ、病室に明るい雰囲気が漂う。「ほんとだ、お母さん! すごい量よ、泥みたいよ!」なんて、つい私も明るく言ってしまう。

言ってしまってから、不思議だなとちょっと思う。歳をとると、赤ちゃんと同じだな。おまるにチーが出ると嬉しくなって、おまるにウンチをすると、すごく褒められて…。

それでも母の正常な部分は怖ろしいほどで、工務店への謝罪の仕方、信用金庫の担当営業者への連絡のつけ方など、事細かに指示を与えてくる。それがまた、ひどく的確で常識的だから困る。壊れてしまうなら、いっそバランスよく壊れればいいのに、なんて、思ったりもする。

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