生命保険の必要保障額を計算してみる
自分が亡くなった際に、どのくらいのお金を遺せばいいのでしょう?
生命保険の必要保障額とは、この「遺すべき金額」のことで、一般的には「今後必要となる支出の総額」から「今後見込める収入の総額」と「既に用意できている預貯金等」を差し引いた金額となります。
言葉で書くとシンプルですが、実際に計算するのは意外と厄介なので、今回は細かく解説してみます。
必要保障額の考え方
人が亡くなった際にお金を遺すために契約するのが生命保険です。共済と呼ばれるものもありますが、基本的な機能は同じですから、ここでは生命保険という言葉で統一します。
さて、必要保障額の計算を簡単な例でみてみましょう。
例えば、あなたがローンを組んで住宅を購入したとします。
これから長い期間ローンの返済を続けるわけですが、その返済資金はどこから来ているのでしょうか?通常は家族の誰かが働いて得ている収入から支払っているはずですよね。
こうした状況で、収入を得ている人が交通事故や病気などで亡くなってしまったらどうなるでしょうか?
単純に考えますと、家族の収入が途絶えますからローンを返済できなくなります。かといって残された家族の誰かがすぐに同じだけの収入を得る事は難しいかもしれません。
貯金もない。親も助けてくれない。というわけで、経済的にとても困った状況になってしまうわけです。
そこで生命保険の登場です。このケースでは「私に必要な保障額」は「残ったローンが支払えるだけの金額」です。死亡時に2,000万円のローンが残っているとするなら、2,000万円の生命保険に加入しておけば、支払われた保険金でローンを全て支払えるため、残された家族がローン返済で困る事はないというわけです。逆を言えば、死亡時点で2,000万円の貯金があったり、残った家族が得る収入で返済を続けられたりするのならば、保険がなくても大丈夫というわけです。
実際にこのような仕組みになっている保険が、住宅ローンを組む際についている「団体信用生命保険」なのですが、保険の考え方の基本はまさにこれなのです。
必要保障額の計算
では、自分自身に必要な保障額を実際に計算してみましょう。算数のように1つの決まった正解はありませんが、計算の流れは次の通りです。
① 今後必要な支出を計算する
遺された家族(遺族といいます)の今後の生活費や子どもの学費、住居費など、今後の支出を見積もります。
② 今後見込まれる収入を計算する
見込まれる収入は、国からの保障である「遺族年金」が柱になります。
そう、私たちが老後に受け取る公的年金は、いざという時の保障機能もついているのです。遺族年金は、会社員や公務員などの家庭で小さい子どもがいる場合、年間150万円以上もらえるケースもありますが、加入されてる年金制度と家族構成などによって随分と違ってきます。
また、残った家族の誰かが働くならばその収入も加えます。
③ 現在の貯蓄など、すでに準備済みの資金を計算する
現在保有している金融資産の合計額を出します。
以上の数字を出した上で、①-(②+③)の答えが必要保障額ということになります。「必要保障額の計算」などというと何か難しいことのようですが、考え方はいたって単純なのです。ただ、それぞれの数字を出すのに少々手間がかかるだけです。では、具体的に1つずつ確認していきましょう。
STEP1:今後必要な支出を計算する
遺族には、今後どんなお金が必要でしょうか。
まずは生活費です。そして、お子さんがいれば教育費が必要です。例えば、毎月の生活費が20万円だとしたら1年間で240万円。あとは、これを何年分準備するのかを考えなくてはいけません。「遺された夫婦の一方の平均余命まで」とする考えもありますが、期間が長くなる分、金額は大きくなり、現実的ではないので、一つの目安として、子どもが学校に通っている間としましょう。仮に一番下の子が2歳だとすると、大学を卒業するまであと20年間。実際には高校を出たら働くかもしれないし、逆にもっと長い間学生でいるかもしれませんが、一応の目安としてこう考えます。240万円の20年間分で4,800万円。これが今後必要な生活費なわけです。
次に学費。これは子どもの人数や教育方針によって大きく違いますが、大学までの学費を考えると、子ども1人あたり約1,000万円~1,500万円が目安です。細かい根拠が気になる方は、文部科学省の「子どもの学習費調査」や日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査」をお確かめください。
その他の大きな出費としては住居費がありますが、持ち家の人で前述の「団体信用生命保険」に加入済みならばローン返済は無くなります。
ただし、持ち家ならば固定資産税が毎年かかるでしょうし、マンションであれば管理費や修繕積立金などは必要となるので、そうした金額を加味してください。
なお、実家に戻るのであれば今後の住居費はとりあえず考えなくて構いません。引っ越し費用ぐらいを見積もっておきましょう。
これらの計算を行うのに威力を発揮するのが「ライフプランに基づくキャッシュフロー表」ですが、今回は触れません。
「生活費」と「学費」と「住居費」が出れば、その金額を合計してください。あとは、現実問題としてお葬式費用なども必要なため、「死後の整理資金」として200万円を加えておきましょう。
STEP2:今後見込まれる収入を計算する
次のステップは「今後見込める収入」です。一家の働き手の方が亡くなったとしても、遺族の誰かが同じように収入を得られるのであれば、そもそも生命保険は必要ありません。ただ、それが厳しい場合は、どの程度の収入が確保できるのか?を考えます。
ここで柱になるのは公的年金です。
年金と聞けば、高齢になったときに受け取る「老齢年金」をイメージしがちですが、それは年金の受け取り方の1つにすぎません。「老齢年金」以外にも「障害年金」と「遺族年金」があり、これらは名前の通り「障害状態になったら」あるいは「遺族となったら」受け取れる年金なのです。
年金制度は専門用語が多かったり、仕組みが複雑であったりして、判りにくい部分が多いのですが、ようするに「公的年金の加入者が亡くなったとき、一定の要件を満たす遺族は年金を受け取れる」ということです。
では、いったいいくらもらえるのでしょうか?
これは、亡くなった方の職業やその際の年収、そして18歳の年度末(つまり高校卒業まで)の子どもが何人いるのかによって決まります。
一つの例として、平均月収が30万円だった会社員が亡くなり、パート勤務だった奥さん(年収100万円程度)と10歳と7歳の二人の子どもが遺されたケースを考えましょう。細かい計算はさておき、このケースでの遺族年金受給額は年間約160万円になります。月にするとおよそ13万円。上のお子さんが高校を卒業すると金額は少し減りますが、生活費のベースぐらいにはなりそうです。遺族年金について詳しく知りたい方は、日本年金機構のサイトをご確認ください。
そしてもう一つ。お勤めの方の場合、所属されている組織で保障が準備されていないかどうかを確認しましょう。亡くなった時に勤務先から1,000万円のお金が受け取れるなら、その金額も「見込める収入」に含めるわけです。
まとめますと、「今後見込める収入」とは、遺族が働いて得る収入と遺族年金、そして勤務先からの保障の合計です。
STEP3:現在の貯蓄など、すでに準備済みの資金を計算する
これは文字通り「すでにあるお金」のことです。
極端な話、1億円とか2億円の貯金があれば、その貯金を取り崩すことで、今後の生活に必要なすべてが賄えるかもしれませんよね?そういう人に生命保険は不要です。
それは極端だとしても、「上の子の入学資金は貯金で用意できている」とか「学資保険に加入している」という場合、その金額は必要保障額から差し引いくことができます。
これら3つのステップを式にしますと、冒頭にご紹介した先ほど出した
「今後必要となる支出の総額」ー「今後見込める収入の総額」+「既に用意できている預貯金等」となり、これが「生命保険で用意するべき保障金額」つまり「必要保障額」となるわけです。
このように、自分に合った生命保険を作り上げるには、
① 今後の必要な支出を計算する
② 今後見込まれる収入を計算する
③ 現在の貯蓄など、準備済みの資金を計算する
ことが必要だという事です。
ちなみに、すでに生命保険に加入されている方で、こんな計算をした覚えがないぞという方は、ここで出した数字と、実際に加入している契約の保障額を比べてみましょう。もし多すぎるのならば減額を検討できるでしょうし、少ないのならば増額を検討しないといけないかもしれません。
保険会社の営業職員に相談するときも、こうした考え方を知っておけば、不必要に高額な契約を締結する心配がなくなるでしょう。