ゲーム機における「ハードが先か、ソフトが先か」についての考察
任天堂を世界的大企業へ押し上げた山内元社長は、ご存知の通り数多くの名言を残されていますが、中でもこの言葉は非常に有名だと思います。噛み砕いて言うなら「ハードはソフトのために仕方なく買うもの」ということです。
一方で、東洋証券の安田さんは、「【月間総括】遺訓を打破した任天堂と,常勝不敗に囚われるソニーグループ」の記事において、次のようなことを主張しています。
なるほど。
文章全体を見ると結構過激なことを言っている部分もあるものの、ソフト主導型に対する反論だけ切り抜いてみると、安田さんの言説には納得できるところがある。
では、結局のところ、消費者はハードが欲しくて買うのだろうか? ソフトが欲しくて買うのだろうか?
私の考えをまとめると、こんな感じになりました。
ハードの発売初期はソフトが主であり、ソフトの人気がハードの売上を牽引する。
一方で、ライフサイクルの中盤に差し掛かる頃には、ハードそのものが主となり、ソフトの売上を牽引するようになる。
要するに、山内元社長と安田さんの意見の折衷案ですね。どちらが合っていて、どちらが間違っているわけではない、と私は考えています。
ここからは例として、Wii UとNintendo Switchがどのような経緯を辿ったか、比較しながら振り返ってみましょう。
このnoteを読んでいる方ならおそらく全員がご存知だと思いますが、Wii Uは任天堂の据置型ゲーム機としては最も売れなかったハードであり、もう一方のNintendo Switchは発売から6年が経った今も人気を維持し続けている化け物ハードです。同じ任天堂ハードなのもありますし、何よりNintendo Switchの成功はWii Uの失敗があってこそな側面もあるので、比較しやすいと思います。
まずはロンチタイトルを比較してみましょう。
以下がWii Uのロンチタイトルです。
こうして見ると、結構悪くないですよね。
2Dマリオ新作にパーティーゲームのNintendo Land、ゲーマーを呼び込むためにアサクリやバットマンなども盛り込まれていて、なかなかバランスの良さを感じます。
では、Nintendo Switchの場合はどうでしょうか?
あれ? 意外と少ない?
任天堂タイトル以外は他ハードからの移植ばっかりですし、ロンチタイトルだけ見たらWii Uの方に軍配が上がりますね。
まあ、Nintendo SwitchはWii Uが思い切りコケた後に出たので、他のメーカーのやる気のなさが透けて見えるという側面もあるのですが、こうして見ると安田さんの意見がもっともらしく見えてきます。
ただ、Nintendo SwitchとWii Uはここからのソフトリリースに大きな差がありました。
Wii Uは任天堂ハードとしては初めてのHDゲーム機でした。つまり任天堂にとって、HDゲームの開発は初めてだったわけです。その結果、自社の主力タイトルの開発が軒並み遅れてしまいます。
こうして、年明けの2013年には早くもソフト不足に陥ってしまうのでした。
もちろん、任天堂も黙っていたわけではなく、2013年の年末からは自社の人気タイトルを続々と投入していきます。ただ、結局のところ「どこかで見たことのあるタイトル」で、新鮮味には欠けていました。『Wii Fit U』は『Wii Fit』のアッパータイトルだし、『スーパーマリオ 3Dワールド』は『スーパーマリオ 3Dランド』と何が違うのかぱっと見で分かりづらい。
『Splatoon』や『スーパーマリオメーカー』のような新機軸のタイトルがもう少し早く出ていれば……と思うところではあります。
一方のNintendo Switchはどうかというと、まずロンチタイトルとして発売された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』がゲーム史に残る傑作として高く評価されます。アメリカでは一時期ハードよりもゼルダの方が売れるというわけのわからん現象まで起きるくらいでした。
そしてNintendo Switchが良かったのは、年内に『スプラトゥーン2』『スーパーマリオ オデッセイ』『ゼノブレイド2』が立て続けに出ると発表され、実際に延期もなくちゃんと発売されたことでした。
スプラ2はWii Uを持っていなくてスプラを遊べなかった動画勢に刺さりましたし、マリオオデッセイの世界観やキャプチャーシステムには新鮮味がありました。ゼノブレイド2も1とデザインを変えてきたことが話題になりましたし、一つ一つの作品が存在感を放っていたと思います。
加えて、Wii Uで開発されたソフトの移植も功を奏しました。5月に『マリオカート8 デラックス』がリリースされた頃には既に品薄状態になっていて、発売から一年間はずっと人気を維持していました。
もちろん、新機軸のタイトルも定期的にリリースしています。例を挙げると『ARMS』『Nintendo Labo』『リングフィットアドベンチャー』などがあります。全てが成功したわけではありませんが、特にリングフィットが口コミでヒットを記録したのは記憶に新しいですね。
ソフトの供給が序盤の明暗を分けたWii UとNintendo Switchですが、ハードとして比較した場合はどうなのか。
実を言うと、Wii Uはハードそのものにも大きな問題を抱えていました。
私は発売直後のWii Uを知っていますが、とにかくロードが長かったのをよく覚えています。マジでありえないくらい長かった。
ソフトを起動したら数十秒待たされ、Wii Uメニューに戻ったら数十秒待たされ……何をするにもロードの連続。
この問題はファームウェアアップデートによって改善されたのですが、このアプデに人員を割いたこともソフト開発が遅れた要因の一つになってしまったようです。
また、ゲームパッドの搭載によって他社製ゲーム機と比較して特異なハードになったことも災いし、ソフトメーカーのマルチタイトルも出にくい状況になってしまいました。
一方のNintendo Switchは、実際に購入&使用して感じたのが、「ハードとしてのクオリティーが高い」こと。電源を切るのではなく、スマホのようにスリープモードを基本とすることで、起動の早さを実現していたり、ホーム画面がサクサク動き、起動も終了もスムーズだったり。何より持ち運びができる特徴によって、ゲームを遊ぶハードルを大きく下げていました。近年、ポータブルゲーミングPCと呼ばれるSwitchに似た形式のパソコンが増えていますが、それがNintendo Switchの先見性を何よりも証明していると思います。
UnityやUnreal Engineに早くからサポートしていたのもあり、Wii Uと比べてマルチタイトルの選択肢に入りやすかったのも功を奏していたと思います。
とまあこんな感じで、Wii UとNintendo Switchはハードの観点から見てもソフトの観点から見ても大きな差があることが分かると思います。というか差がありすぎて比較になってないかも。
長々と語ってきましたが、ゲーム機は結局のところ、勢いのビジネスなんだと思います。
Wii Uは発売してから勢いづく瞬間がほとんどなく、Splatoonが出る頃には既に時遅しだった。Nintendo Switchはゼルダの伝説で最高のスタートダッシュを決めた後、それを上手く持続させることができた。勢いが落ちてくる4年目にコロナ禍が起きて、ちょうど発売されたあつ森が爆発的に売れたのだって、単純に運が良かったのです。
ビジネスは不確定要素が非常に多い。だからこそ、常に高いクオリティーのゲームを作り続ける任天堂は強いのでしょうね。
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