君たちの青春は君たちだけのものであって。
畳まれるテントの音。
夜の色を迎える橙の提灯。
だんだんと歩みを遅める人達。
静寂を切り取るように、地面を擦るブラシの音が響く。昼間の喧騒がなんだか嘘みたいだ。
眠りにつこうとする建物たちを横目に、まだまだ走り回るジャンパー達。
寂寥と虚無が押し寄せてくるようで。
美しく儚げなこの瞬間は、あまり好きではない。
久々に、祭りの最後に立ち会った。
こんなことなら、最終日になんて行くんじゃなかった。どうして初日や中日に行かなかったんだろう。いや雨が降っていたしやはり今日が正解か。
書かなければならない。今日書かないと,たぶんこの気持ちは大量の数字と日々に摩耗され、忙殺されて消える。思い出すことも、多分できない。
たいへん情けないことに、どうやら僕は未だ提灯の光に当てられては文を綴り続ける妖怪のようだ。あれからもう月日も環境も成り変わり、既に想い出のアルバムに丁寧に挟んだはずなのに。
去年の秋、教育実習に行った時もそうだった。
祭りは、人を勘違いさせる。過去の自身が青い時間を過ごした学び舎という場所がそうさせるのかもしれない。
なんだか、まるで自分が当事者になったかのような。
そんな気分になる。
だが、違う。
お揃いの上着に身を包み、インカムマイクに口元を寄せながら、手には下敷きを或いは警棒を持って駆ける君たちこそ主役である。
君たちの青春は君たちだけのものであって。
当然疲労はあるだろう。
連日の激務に、体力的には限界を超えているはず。
その疲れを幸せと噛み締める者、周りには見せまいと作り笑いを貼り付けている者、そんな余裕もなくただすべきことを必死でする者。
どれも煌めいていた。
僕のよく知る文言を背に刻んだ君たち全員、とんでもなくいい顔をしていた。
いい祭りだった。
身内贔屓かもしれないが、この上ないほど素晴らしい宴で。
当事者でなく学内を練り歩くのは本当に楽しかった。古くからの、或いは新しい友人たちと時間の制限なくお話しできるのも。
昔話に花を咲かせ、外から見た内情を笑い飛ばすのも。
なんの責任もなくただ楽しむだけ。もはやご褒美と言ってもいい。
けれどね。
だいたいいつも、今,ここ,自分こそが最も恵まれていると信じてやまないようにしているけれど。
今夜はほんの少しだけ、君たちが羨ましい。
過去は振り返りたくないから、もう今年で行くのは終わり。そんな決心が脳震盪を起こすくらいに。何度も何度も恐縮だが、感謝ばかりだ。
素晴らしかった。ずっと仲を繋いでくれている僕の大切な人たち。もちろん。
そして初めて知り合えた勇気ある未来たち。
どうか、君たちの纏っていた黒の外套に色とりどりの思い導くメッセージが宿らんことを。
きっとそれは、何度も何度も読み返してはため息をつくくらい、宝物になるから。