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夢。

彼とはもう何年も会話をしていない。
それが理由だからなのか最初に会った頃から今まで印象が全く変わらないのがなんとも不思議だ。

彼を見て最初に思い浮かべるのは「飛行機」だ。
悪く言えば変な人だが、良く表せば大変情熱がある人だ。

自分は休み時間をよく好物のシュークリームを買いに売店に行っては、少人数の友人と過ごすか一人カフェテリアの椅子に座ったりしていた。

ある日の休み時間中、新しく入ってきた転校生はやけに分厚い本を教室から持ち出し近くの椅子に腰をかけた。
その分厚い本に齧り付く様に、と表現したら良いのか解らないが、舐める様に目をキラキラさせながら隅々の文字まで読むその姿はまるで熱心に未来の想像を膨らましながら学校のパンフレットを眺める新入生の様であった。bookworm(本の毛虫)とはよく言った物だ。

友人の一人が彼に「それ何の本?」と尋ねた。

彼は黙って分厚い本の一面を両手で友人の前に広げて見せた。そこには飛行機の図や一機一機の詳細説明などが丁寧にびっしり書かれていた。
どうやら分厚本の正体は飛行機の図鑑の様だ。

「パイロットになりたいんだ」
腰掛けていた椅子から立って彼はそう言った。

その出来事をきっかけに、毎日休み時間になっては分厚い本を抱えて教室を出る彼の後ろ姿を見送っては密かに彼の夢を応援している自分がいる事に気づいた。

ある時彼は、広場でドッジボールをしている子供達がいる中で一人ポツンと空を見上げていた。
その視線に合わせ上を見上げると、一機の飛行機が澄んだ青の空に小さく見えた。
彼はその飛行機をじっと見つめ、腕をピンと伸ばして指を刺しながらこの広場から見えるはずもないその飛行機の便名を言い当てたのだ。

いくら目が良くても背が高くても、人間の目で便名を確認できる事は不可能と断言しても良い程の文字を何故自信満々に言えるのかさっぱりわからなかった。
後から聞いた話だが、彼は毎朝飛ぶ飛行機の瓶名を調べていてその的確な時間すらも暗記していたという事らしい。
流石と言って良い程の飛行機オタクっぷりだ。

月日が流れ、この飛行機オタクとは学校では会わなくなり、何かの行事に参加した際にしか会う事がなくなった。
元々自分が無口な方と言う理由もあり、ちゃんとした会話をした記憶は一、二回程しか無い。
だが五年以上経った今でも稀に彼に会う事があると彼の夢は今どうなったのか気になる事がある。

将来の夢を考え、想像を膨らます事は決して難しい事ではない。その夢を叶える為に一生懸命になり、やりたい事を貫き通し諦めない事が一番の難題だ。ましてや小さい頃の夢をそのまま実現できる人なんてほんの一握りだ。
諦める事は決して悪い事ではない。人は変わって行く生き物であって、最初から信じていた物を後から間違っていると気づく事だってある。

「夢」というのはその時その時の「理想」だ。
自分は理想がコロコロ変わるタイプで“変わらない夢”を持った事が無い。
だからこそ一つの夢に全力を尽くせる人に憧れを抱くのだ。

今朝、同級生たちが今年書いた「未来の自分」についての作文集を読んだ。
その中に直筆で丁寧にびっしりと書かれた彼の名前が載っているページを見つけた。書かれた文章を全て読み、その作文に他で感じたことのない感動を覚えた。
彼の作文を読んで分かった事は、彼は夢を諦めていなかった事。そして、現在進行型で飛行機オタクである事だ。

今の世の中を強い乱気流に見舞われている一機の飛行機に例えるユニークな表現、
そして向かい風があってこそ安全に着陸が出来る
と言う文章に温かさを感じた。
それは小学生の頃、図鑑に目を輝かせていた彼の過去をこの目で見たからという事もあるだろう。
みんな其々自分なりの生き方や考え方を持って日々を歩んでいるのだなと感じた。夢を諦める人も新しい夢を見つけた人も沢山居るだろう。しかし、何が間違いで何が正解か、将来何をやりたいのか、本当に大事にしたい物は何なのかは自分自身が決めるべき事だ。

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夢があるって良いですよね。

夢に向かって頑張っている方々、これからやりたい事を見つけて行く方々、無理しない程度に頑張ってください。応援しています。📣



では。🌰🐈


🕊:   栗猫
📷:   kurineko_

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