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「米国大統領選の行方と米国株式市場」について考えてみました

「米国大統領選の行方と米国株式市場」

今回のnoteでは「米国大統領選の行方と米国株式市場」について考えてみました。なぜ取り上げたかというと、11月3日の投票日まで2ヵ月を切った米国大統領選が米国株式市場の最大の関心事であり、その選挙戦に大きく影響する重要イベントが目白押しであることに加えて、民主党大統領候補のバイデン氏優位の構図が少し変化してきているためです。また、コロナウイルス禍のなかでも6ヵ月強で2月高値圏まで回復してきた米国株式の株価変動が大きくなる兆しが表れ始めていること、アップル、テスラというようなこれまで米国株式を牽引してきた注目銘柄の株価が反転し始めたこと、なども取り上げてみた背景です。

大統領選に関する世論調査では、激戦州といわれる南東部のフロリダ州などで民主党バイデン氏が優勢なことに加え、共和党トランプ大統領が前回選挙で勝利することとなった工業地帯(ラストベルト)の諸州でも優位が伝えられています。一方、全国レベルだとバイデン氏がトランプ大統領に支持率で一時10ポイント以上の差をつけていたのに足元ではその差が1ケタ台後半にまで縮んでいます。差が少しずつなくなってきている理由として、
①雇用面など一部経済指数で回復が見られる、
②積極的な財政出動、
③トランプ大統領の持つマイナス面に対する意識の低下、などが考えられます。

さらに、9~10月にかけて従来のリードを覆してしまう程の影響力を持つ重要イベントが控えています。こうした重要イベントとして、9月末からスタートする3回に渡るTV討論会、投票日直前に予定されるトランプ政権による「ワープ・スピード作戦」と呼ばれる計画の一環であるコロナウイルス対策ワクチンの実用化(FDA(米食品医薬品局)諮問委員会、10月22日開催)に向けた投与準備(各州地域の政府に対して11月1までに準備するように通達)を指摘できます。TV討論会の予定日及び開催地は、9月29日のクリーブランド(オハイオ州)、10月15日のマイアミ(フロリダ州)、そして10月22日のナッシュビル(テネシー州)です。

過去の大統領選でも優勢だった候補者が敗れた事例として1988年の民主党マイケル・デュカキス氏の共和党ジョージ・ブッシュ副大統領(ブッシュ父)との討論会での失敗が挙げられます。舌戦が得意というよりは毒舌で知られるトランプ大統領、過去の大統領選予備選討論会でも対抗候補者を引きずり降ろした事実はよく知られています。トランプ大統領からすれば、民主党バイデン氏には「痴呆症」疑惑、曖昧な対中政策、息子に関する問題など攻撃しやすい材料に事欠かないのです。

また、コロナウイルス対策ワクチンの開発成果が大統領選直前に公表されると、トランプ大統領支持率という点ではコロナウイルス対策の遅れがこれまでマイナスに作用してきただけに、支持率の差をなくす決定打になる可能性も考慮しておく必要があります。

これら重要イベントの帰結には不確実性が付き物で、人気TV番組の司会者だったこともあるトランプ大統領相手となればなおさらです。11月3日大統領選には、投票日の投票率と若年層・女性・有色人種の参加率も勝敗に影響すると言われています。こうした諸事情からは、民主党のバイデン氏、現状でやや有利だというということだけで、今後の展開次第では大接戦、大逆転ということもありることも想定しておいた方がいいかもしれません。

ところで、ゲリマンダーという言葉をご存じでしょうか。ゲリマンダーとは200年以上前にある米国州知事が考えた所属政党に都合のいい州議会・選挙区割りです。米国各州の下院議員数はゼロのつく2010年、2020年に国勢調査が行われ、その結果に基づき決まります。選挙区割りを決めるのが同年の選挙で選出される地方議員。州知事・州議会が選挙区割りを見直すので絶対に負けられない選挙になるそうです。日本でも小選挙区制にしたら勢力図が変わり支持率以上の議員数を与党が獲得出来るようになったのとやや似通っています。

次に、株価の動向を考えてみます。NYダウは今年3月23日のボトム1万8591ドルから9月初には2万9100ドルと56%強上昇し、2月高値までもう少しという水準まで回復してきました。ですが、足元の株式市場では株価のボラティリティが今年2月末~4月上旬同様高まる兆しが出始めていることに加えて、市場を牽引してきたアップル、テスラ、主要IT関連の株価が調整し始めています。この要因は、
①GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などIT関連に投資資金が集中し関連銘柄の割安感が薄れてきたこと、
②連邦政府による手厚い失業給付などにより手元資金に余裕のできた個人投資家による主要IT株短期売買活発化、
③重要イベントに係る不確実性の高まりと長期金利の反転などです。

短期売買目的の個人投資家資金のウエイトが高まると、株価のボラテリティが高まりやすくなりますが、米国大統領選に係る不確実性も株価の変動率を高めている訳です。重要なことは、不確実性のある米国大統領選を見据えた当面の米国株見通しということになります。もちろんIT関連株には割高感が否めませんが、妥当性を示唆する株価指標も見出せますし、FRB緩和政策を勘案するとまだ米国株式投資から降りる時期ではないと考えます。

例えば、S&P500指数の益利回り(株価収益率(PER)の逆数)から長期金利を差し引いて算出するイールドスプレッドは3.6%近辺(平均値は3.5%前後)で十分許容できるる水準です。FRBがゼロ金利政策・流動性供給を当面続けることもあり、長期金利が上がらがなければ平均値を多少上回るような予想PERでも割高に感じられないことになります。

最後に、共和党トランプ大統領と民主党バイデン氏の政策の違いと同時に行われる上院・下院議員選挙の結果における銘柄選択・株価動向の留意点に触れてこのnoteを終わりたいと思います。民主党バイデン氏の共和党トランプ大統領と大きく異なる政策上の特徴は、連邦法人税の引き上げ・キャピタルゲイン課税の強化、クリーンエネルギーなどを対象とした巨額インフラ投資、薬価引き下げ等によるオバマケアの継続強化などです。

どちらの候補が勝利するかにより、エネルギー業界、医薬品業界の株価への影響は無視できないと考えられます。もう1つお伝えしたい注目点が、大統領選の所属政党と上院・下院の支配政党が一緒の場合の株価動向です。これまでの選挙戦直後の株価データには、共和党が独占した場合マチマチの動きですが、民主党が支配すると下落傾向がはっきりしています。少し長い目で見れば回復するのですが、民主党政権の大企業に厳しい諸政策が株価のマイナス材料として反映されやすいようです。今回の米国大統領選では民主党独占の可能性が共和党支配より高いと見られていますので、株価面では共和党上院にエールを送りたいものです。

今回の米国大統領選に関するネタ本は「アメリカ大統領選 勝負の分かれ目」(日経プレミアシリーズ)です。日本には馴染みの少ない米国大統領選における寄付文化、供応や買収もありの選挙戦、最高裁・裁判官の政党色と重要性などの話題にも言及しています。日本の選挙制度とはだいぶ異なりますので読んでみるとかなり参考になりますし、専門家の解説にも抵抗がなくなると思います。購読をお勧めします。

Malon, 9. 9. 2020

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