ディープインパクトとインリアリティのニックス再考察

 ディープインパクトと『インリアリティ』の血のニックス。僕が最初に取り上げたのは12年あたりだったでしょうか。あれから年月が経ち、現在このパターンからは23頭の重賞勝ち馬が誕生しています。

 ただ当時と比べると、相性の良さは変わらずとも、その中身に関しては結構イメージが変わってきています。このタイミングであらためて考察してみることにしましょう。


★オス馬優勢

 ディープの初年度産駒となる08年産から11年産の4世代で、重賞を勝ったインリアリティ内包馬はダノンバラード、ダコール、リアルインパクト、トーセンホマレボシ、ヒストリカル、トーセンスターダムといずれも牡馬。一方、おなじ世代の牝馬の稼ぎ頭は5勝馬のサイレントソニック、その次が3勝馬のエルノルテですから、牡馬限定のニックスというイメージが定着していました。
 

★変化の兆候

 その下の3世代にはアンドリエッテ、ブランボヌール、アンジュデジールと、牝馬の重賞馬が3頭出ています。いま考えると、このあたりで牝馬にもインリアリティのプラス作用は現れはじめていたのかもしれません。ただアンドリエッテが初めて重賞を勝ったのは、18年のマーメイドSとかなり先のこと。アンジュデジールはダートを主戦場としており、ディープ産駒としては参考にしづらい特殊な存在。常識的な功績(と言ったら失礼ですが)を残していたのはブランボヌール1頭のみでした。おなじ世代の牡馬はダノンプラチナ(朝日杯FS)、サトノラーゼン(ダービー2着)が早期からGⅠ戦線を賑わせていたうえ、アンドリエッテがようやく重賞を制覇したころには、すでに下の世代からダノンプレミアム(朝日杯FS)、ケイアイノーテック(NHKマイルC)、ワグネリアン(日本ダービー)が登場。あの当時に変化の兆しに気づくのは難しかったように思います。
 

★牝馬の躍進

 牡馬優勢の傾向が変わりつつあることを僕自身が気づいたのは、18年のサウジアラビアRCをグランアレグリアが勝ったときでした。その4ヶ月前にアンドリエッテがマーメイドSを勝っていたことに加え、グランアレグリアの勝ちっぷりもインパクトがありました。この時点で変化の考察も兼ねつつ、お試しのつもりで当時1歳だったリアアントニアの18をブログで紹介したのですが、それが現在重賞2勝のリアアメリア。後出しで褒めることに定評がある僕にしては、珍しく先見の明がありましたね(笑)
 今年はとくに牝馬の勢いがすごく、グランアレグリアのその後の大活躍は言うに及ばず、サウンドキアラが重賞3勝、リアアメリアがローズSを、センテリュオがオールカマーを勝ち、かつてのイメージは完全に消えています。
 

★時代のトレンドへ

 牡馬のほうは当時から現在にいたるまで、ダノンキングリー、レッドベルジュールなど大物を出しつづけています。そして今年、コントレイルが史上3頭目となる無敗の三冠を達成。歴史的名馬を支えるニックスとして、ついにトレンドの中心にまで躍り出てしまいました。現2歳馬でもレッドベルジュールの全弟・レッドベルオーブが兄につづいてデイリー杯2歳Sを制覇。勢いは衰えそうもありません。
 

★データあれこれ

 ここからはもう少し詳しく掘り下げてみたいと思います。まずは以下の成績データを見てください。
 

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 一番上の行は全ディープインパクト産駒(インリアリティの有無は関係なし)における、デビュー戦の馬体重の平均を出した数字です。真ん中の行は、重賞を勝ったディープ産駒に限定し、その馬たちのデビュー時の馬体重の平均値。下の行は重賞勝ち馬が初めて重賞を勝ったときの馬体重の平均値となります。

 牡馬・牝馬ともに、全産駒の平均値より、のちに重賞を勝つ大物のほうがデビュー時の数値が大きく、また重賞勝利時はさらに増えています。もちろんこれは平均のはなしですから、個別でみれば重賞勝利時に大きく馬体重を減らしている馬もいます。あくまでも傾向としてですが、基本的にディープインパクト産駒は牡馬・牝馬ともに、「もともと馬格があるほうが将来性が高く、重賞を勝つときはさらに成長している(ことが多い)」イメージになります。

 では「インリアリティをもつディープインパクト産駒」の場合はどうでしょうか。今回は牡馬・牝馬分けて表を作成しました。まずは牡馬だけをご覧ください。
 

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 さっきとおなじ、全ディープインパクト産駒のデビュー時、重賞馬のデビュー時、重賞馬の重賞初勝利時の馬体重の平均をだした数字です。縦列の左はインリアリティをもたない馬も含めた牡馬全体、右(IR内包)がインリアリティをもつ馬限定の数字となっています。

 さきほどお話したように、ディープ牡駒全体の傾向は「全体のデビュー<重賞馬のデビュー<重賞初勝利」というふうに、綺麗に数字が増えています。それに比べてインリアリティ内包のディープ牡駒の場合は、未勝利馬なども含めた全インリアリティもちの平均値がもっとも高く、後に重賞を勝つ馬のデビュー時の馬体重、その馬が重賞を勝ったときの馬体重は微減となっています。
 

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 重賞勝ち馬を個別にみると、重賞初勝利時に大きく増えている馬もいれば減っている馬もいて、これといった法則はなさそうです。先に記載した馬体重の比較は平均値のはなしですから、それで個々の能力を語ることはできませんが、インリアリティ内包馬は未勝利馬と重賞馬の将来性が馬格によって影響されなくなるうえ、馬体重の増加が重賞勝利に結びつくこともないようです。“小さいディープ”でも大物が出る一方、“大きいディープ”が強みにならない。これは非常に面白い傾向ではないでしょうか。

※過去におなじテーマで記事を書いているので、よかったらそちらもお読みください


 ところが牝馬になると傾向が一変します。まずは以下のデータをご覧ください。
 

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 注目すべきは中段と下段の差です。重賞勝ち馬を比べたとき、ディープ牝駒全体とインリアリティ内包牝駒では、デビュー時の馬体重こそ差がありません。しかし初めて重賞を勝つときには、大きく数字に差が開いているのです。
 

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 個別に見ても、それは顕著に出ています。重賞初勝利時に馬体重を減らしていたのはブランボヌールのみ。ほとんどの馬が大きく馬体重を増やして重賞を勝っています。アンドリエッテ、サウンドキアラ、センテリュオの重賞勝利は古馬になってからのため、サイズアップ自体は不思議なことではないとはいえ、アンドリエッテの42kg増はかなりのものですね。グランアレグリア、リアアメリアは2歳時にそれぞれ+18kg、+20kgと増やしており、牡馬顔負けの馬格に成長しています。

 もともとのサイズが大きいほうが安心はできますが、それよりもその後しっかりと成長できるかがポイントになりそうです。馬体重の増加という客観的なデータが伴うことによって、はじめて真の能力が開花するようなイメージでしょう。
 

 無敗の三冠馬になったコントレイルは、新馬戦の馬体重が456kgと決して大きくなく、初重賞勝利となった次走の東京スポーツ杯2歳Sも増減なしの456kg。三冠目となる菊花賞でも458kgしかありませんでした。ふつうの感覚なら「成長していない」となるのですが、インリアリティもちの牡馬はこれでいいのでしょう。

 ロードカナロア以来となる史上2頭目の、JRA短距離GⅠ年間3勝を挙げたグランアレグリアの新馬戦は458kgでした。もともと馬格に恵まれた馬であったにも関わらず、2戦目のサウジアラビアRCでは+18kgの476kgにいきなりボリュームアップ。さらに古馬になった今年も走るごとに馬体重を増やしており、マイルCSでは502kgにまで成長しています。これこそインリアリティもち牝馬の理想的な成長曲線なのです。


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