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「翻訳」はいつでもどこでも行われている あなたの身近なところで

非常事態の東京の街中を映画監督と写真家が歩く。日本の映画芸術の火を絶やさぬために。

この記事にでてくる映画監督、泉原航一は従弟である。

<泉原航一(いずはら・こういち)> 1987年、大阪府岸和田市出身。監督を務めた2013年の自主制作映画「祭に咲く花」で賢島映画祭準グランプリなどを受賞、16年のショートフィルム「Girls Night Out」で少年短編映画祭観客賞を受賞している。中野区在住。

現在は東京に住んでいるが、私たちの出身は大阪。
岸和田出身の彼はばりばりのどぎつい泉州弁だ。

他国と比べて日本は、映画産業への支援がそもそも少ない、と泉原さん。「遅かれ早かれ、こうなったと思うが、コロナがとどめを刺した」と指摘する。「見聞を広められる映画は絶対に必要。生きていく中で、映画から得られたことは大きい。日本の映画芸術が残ってほしい」。今回の撮影には、そんな祈りを込めた。

…インタビューテープ聞き起こしでは絶対こんな標準語で喋ってへんやろ、従弟よ。

関東の人には伝わりづらいかもしれないが、彼の話す「泉州弁」は、おそらくテレビでみなさんがよく聞く「関西弁」とはちょっと違う。

セリフっぽいけどこの映画がわかりやすいかな(ネイティブからはつっこみが入りそうやけど)。岸和田の人には「朝ドラのカーネーション出さんかい」と言われそうやけどあえて出さない(笑)。

ちなみに、箕面出身の私が話す関西弁はこの映画のイメージが近い(タレントだとE-GirlsのAMIちゃんの関西弁がばっちり地元)。

関東で例えるなら、木更津キャッツアイと…阪急電車の例えがうまくでてこない。電車男?

他地域の人からすると「両方関西弁じゃない?」と言われそうだが、ちゃんと聞いてみて。違うから。従弟が阪急に乗ったときに「みんな標準語喋ってるやんけ」って言ってたことがあるねんけど、実際、岸和田愚連隊を見てから阪急電車を見ると、まるで関西弁が標準語のように聞こえるはず。

私たち親族の言葉の細かい違いはどうでもいいのだが、何が言いたいかというと、

「見聞を広められる映画は絶対に必要。生きていく中で、映画から得られたことは大きい。日本の映画芸術が残ってほしい」

この「セリフ」が従弟の言葉として頭の中で音声再生されないのだ。音声の元ソースは日本語だし、意味も意図も問題なく伝わるのだが違和感がある。この言葉は「翻訳」されている。

もちろん、広い読者層・視聴者層を想定している文章・セリフであれば「標準語」で表す必要はある(何が「標準語」かという議論は少し横に置いといて)。

大河ドラマをみながら「なんで京都のシーンやのに標準語やねん」というつっこみはしょっちゅうするが、歴史を扱うドラマで当時の言葉で話されても全く理解できない。

だから「翻訳」は必要な作業なのである。

そして、「翻訳」には訳者の解釈や意図が図らずとも入る。Aさんが翻訳した文章とBさんが翻訳した文章はソース(元の文章)が同じでも別物である。

記事においては、従弟が取材時にがんばって標準語っぽく話しているけど泉州イントネーションが抜けないセリフをきれいな標準語に翻訳して記事化する記者さんの意図がそこにはあり、記事に載っているセリフはは従弟の生の声とはまた別の意味を持つ。

当然だが、外国語から日本語への翻訳もそうだ。言語が違うので、翻訳者の意図がより反映されやすくなる。

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例えば、海外のニュースを伝える番組でインタビューされているおばちゃんのセリフに「(強盗が)殴る蹴るなどして走り去っていった」という字幕がついていたが、おばちゃんは「ばーんえんどしゅー」みたいなことしか言ってないように聞こえたことがあった。「he punched and kicked, and ran away」なんて一言も発していなかった。

翻訳を生業にしている者がいうことではないが、翻訳ってそういうものなのだ。原文の雰囲気や意図、内容を言葉通りに全て別言語で表そうと思ったら注釈だらけになる。限られた時間と予算と能力で最大限のパフォーマンスを出すように努力はするが、全方面に対して「完璧な翻訳」を生み出すのは不可能で、第三者から「それ違う」というつっこみが入るのは仕方がない。

言い訳がましくもなるが、翻訳を受け取る側も「完璧な翻訳なんてないよね」という寛大な気持ちを少し持っていただけると嬉しい。「ここ間違ってる」「そんなこと言ってない」「翻訳ありえなくね?」と誤訳を指摘していただくのもいいが、「このほうがよくなるんじゃない?」という前向きなフィードバックをいただけると翻訳者も仲介者も受け取りやすいし、議論して修正するなり、次回の翻訳に反映しやすくなる。翻訳者さんは繊細な人も多いから言い方がきついと傷つきやすいのだ(訳に関する厳しいお言葉をにいただいた場合、私が10倍くらい希釈「翻訳」して翻訳者さんに伝えることもある)。

最後に、話を戻して従弟が撮った映画の宣伝も。

本編映画には一瞬エキストラで私も出てるんやけど「泉州弁喋れんけどええん?」と聞いたら「祭りを見にほかの地方から来た従姉って設定でええやんけ」とめっちゃ適当な設定を宛がわれたわ。

ただでさえ厳しい映画業界で生きる映画監督泉原航一。いつか海外映画祭で通訳で付いたるからー!頑張れ監督!

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