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翻訳市場と翻訳エージェントの役割(と悩み)

翻訳市場の構成

現在、日本での翻訳の市場規模は2,500億円前後だと言われています。

ただ、この数字の正確な根拠がなかなか見つかりません。なぜなら、一言に「翻訳」と言っても、人によって定義が様々だからです。

「翻訳」を辞書で調べると

翻訳
( 名 ) スル
① ある言語で表現されている文を、他の言語になおして表現すること。また、そのなおされた文。 「 -家」 → 反訳
② 〘生〙 tRNA が、 mRNA の指定する順序にアミノ酸を配列し、タンパク質を組み立てる過程。細胞質にあるリボソームで行われる。 → 転写
出典:三省堂大辞林 第三版

とありますが、一般的には①を思い浮かべる人が多いかと思います。

そして、仕事としての「翻訳」となると、一般の人の多くは、書店で手にする外国語小説の翻訳作業、「出版翻訳」、人気の映画の字幕を翻訳する「字幕翻訳」を思い浮かべるでしょう。

「出版翻訳」であれば年間を通して出版される翻訳書数が約千冊程度、おおよそ年間10億円くらいの市場ではないかと推定されます。映画の「字幕翻訳」は年間に日本で公開される映画が約600本(2018年は579本 出典:日本映画製作者連盟)でこちらも5億円〜10億円くらいの市場規模。出版翻訳と字幕翻訳、合わせて20億円。この金額は2,500億円の1%にも満たないのです。

では、2,500億円と言われる翻訳の市場はどのよのうに成り立っているのでしょうか。

2,500億円のほとんどを占めるのは「産業翻訳(または実務翻訳)」と言われる分野です。フリーランスの翻訳者が、企業から直接、または翻訳会社を通して仕事を受けます。出版や映画ほどは目立ちませんが、ウェブサイトやマニュアルの翻訳という形で一般の人が目にすることもあります。フリーランス翻訳者として生計を立てている人のほとんどがこの「産業翻訳」に従事しており、日本国内でも数万人のフリーランス翻訳者がいると言われています。

更に、市場の数字に表れない翻訳仕事に「社内翻訳」があります。各企業に所属し、社内、または社外とのやりとりの翻訳を担う翻訳者です。ビジネスのグローバル化が進む昨今、社内翻訳者はおそらく増えており、一時的なプロジェクトに翻訳者・通訳者として派遣される人も一定数存在します。しかし、社内翻訳者(通訳者)は翻訳通訳のみを業務としていることは少なく、その他の業務も兼任されている方も多いかと思われます。

翻訳エージェントの役割

翻訳エージェントが関わるのはほとんどが「産業翻訳」(ごく稀に出版、映画)の分野です。「産業翻訳」はクライアント(お客様)によって翻訳への要求(量、言語、納期、品質)にばらつきが大きいため、クライアントと個人であるフリーランス翻訳者との間に入り、各プロジェクトの調節役(プロジェクトマネジメント)を担います。クライアントから直接受注されるフリーランス翻訳者の方もいらっしゃいますが、業務内容によっては要求のばらつきが大きくなる(例えば、今回は英語翻訳が必要だけど来月は中国語が必要、今回は10ページだけど来月は100ページの翻訳が必要、など)ので、間にエージェントが入る方が全体的な業務が円滑に進むのです。

そして、この「要求のばらつき」にはクライアントと翻訳者の「翻訳への理解度」も含まれ、この「理解度のばらつき」が翻訳エージェントの悩みの種です(そしてこれがフリーランス翻訳者がエージェントを利用する一番の理由だったりします)。

少しでもクライアントとフリーランスの方との認識を合わせられるように、具体的な事例も踏まえながら翻訳業界についてちまちま記事を書いていく予定です。

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