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第11回SF横浜読書会KURIBOOKS『ハーモニー』

■2023年11月23日(木)20:00-22:00

■参加者9名(男性2名、女性7名)でした。

今回のSF読書会は伊藤計劃(著)『ハーモニー』を課題の本として読書会を行いました。


参加者の方たちのめくるめく考察に混乱し続け、

己の脳は追いつかずにパニック状態に、、、。

頭がフル回転の2時間でした。

そんな自分に頼るしかなかった走り書きのレポートは、

不完全さを否めません。申し訳ございません!


まず、大前提として『ハーモニー』は、

著者が、死に向かい癌と戦っている時に書いている小説だということです。

著者の遺書とも読み取れます。

過大評価されるべくして当然の作品なのです。

また、『ハーモニー』は、

著者が死ぬ間際まで書き続けたブログ・伊藤計劃記録と共に

インターネットミームを重視した作品であるため、

小説としては不完全さを持ち合わせているかもしれません。

そこが親和性の高いところでもあり、人気の作品なのだと感じます。

未だに“呼吸し続けている作品”と言えるでしょう。


先ずは読後の感想をシェアしました。

■『ハーモニー』の感想

・ライトノベルっぽい文章で読みにくかった。
・アニメーションを思わせる文体で読みやすい。
・クライマックスに迫力を感じる。
・ユートピアを描いているのか、ディストピアを描いているのか、不思議な物語だ。
・美しい透明感のある世界だと感じたが、同時に歪んだ世界でもある。
・トァンが常に上から目線なところが気になる。
・『ハーモニー』はブレードランナーに似ている。
・キャンが死ぬところで物語が終わっても良かったのでは?

『ハーモニー』以上に、ブログや他の伊藤計劃作品であったり伊藤計劃本人の感想も多かったように思います。

以下、まとめます。

■伊藤計劃と他の作品についての感想

・伊藤計劃作品は全部読んでいる。
・他の作品は好きだが、『ハーモニー』だけ嫌い。
・伊藤計劃はゲーム(メタルギアソリッド)から知った。
・若くして亡くなり、残念だと思う。
・古き良きオタクを思わせる。
・前作の『虐殺器官』の良さがわからない。
・円城塔と親和性が高い。(『死者の帝国』)

ここで冬木さんの解説に入ります。冬木さんの著書『SF超入門』にも『ハーモニー』の解説は載っています。その内容をおさらいしつつ、今回は「読み継がれる理由」を重点的にお話してくださいました。

■冬木さんによる『ハーモニー』の解説・読み継がれる理由

SF小説らしさがコンパクトに詰まったSF小説だから、読み継がれているのだと思う。
具体的には、

・SF小説に必要不可欠なキャラクター造形や世界観がこの一冊の本の中にはある。最近のSF小説はその世界の成り立ちを考え、未来を設定し、システムを考えるという流れから一冊で終わらせるとコスパが悪く、どうしても長編小説になりがちだ。その点、『ハーモニー』は世界全体が丸ごと揃っていて、その世界がどうにかなるというお話がコンパクトにまとめられている。
・最新テクノロジーを盛り込んでいる。
・現代にも通じるテーマが盛り込まれている。(不健康は悪なのか、危険遊具は悪なのか等)
・未来の社会をより良くしようと考えユートピアを求めて世界が変わればディストピアへ近づくという矛盾をはらんでいるパラドックスが魅力。
・女性同士の関係・百合を流行らせた先駆けの作品である。
・ストーリーのゴール地点が明確である。

ということでした。なるほど、納得です。

次は『ハーモニー』を読む上でいくつかのキーワードとなるものについて話し合いました。

■3人の少女(トァン、ミャハ、キアン)について
・トァンから見たお話(1人称)なので全てが真実とは限らない。
・トァンが世界を見下しているように思える。
・3人がこの世界に絶望していることに違いはないが、テンションの差がリアルだと感じる。
・キァンの気持ちももっと知りたかった。

■大災禍(ザ・メイルストロム)について 
※核戦争とウイルスが蔓延している世界規模のパンデミック時代。
・『ハーモニー』は『虐殺器官』の続編と考えて良いと思う。大災禍の前の世界が『虐殺器官』で描かれている。

■WatchMeについて
※この世界ではある年齢になると、自分の体にWatchMeというソフトウェアを入れて、体内の健康を保ち、誰も死ぬことがない世界を実現している。国家に統治され監視社会の中で暮らしている。
・3人の少女(トァン、ミャハ、キアン)たちはWatchMeを体に入れる年齢の前であるということ。

■集団自殺の事件について
・誰も死ぬことがない世界にもかかわらず、集団自殺事件が起きるという矛盾がある。
・『ハプニング』という映画がこのパニック状態の様子を上手く表現していると思う。

■HTMLについて
・HTML表記をリストアップすると、「権力」に対する記述が残る。

また、ラストシーンに向けて「意識」についての記述がいくつか見受けられます。それについて冬木さんから解説をいただきました。

■意識について
最新のサイエンスフィクションを扱った作家たちがこぞってテーマとして取り上げているのが「意識」の問題だ。グレッグイーガンがアイデンティティを扱った小説を多く出している。

・意識はどこからくるのだろう?
・「私」って何?
・私が私であることの境界線はどこ?
・究極の話、意識がない世界はユートピアになる?

などなど掘れば掘るほど議論は深まるテーマである。

古くは18世紀にミシェル・フーコーが自由意志(リバタリアニズム)について唱えたことからはじまる。テクノロジーが発達していなかった時代でも人々は考えていたことから、普遍的なテーマなのかも知れない。

現代は、人格のデータ化や器械化の技術が進み、主観体験がなくても意識を持った存在に振る舞うことが出来る時代が来ている。意識がアップロードできるのであれば、私の体を失っても人生が続くということなのだろうか。意見が分かれるところだ。

最後に読書会後の感想を皆さんからいただきました。

■読書会後の感想

・ライトノベル、ファンタジー、SFどのジャンルにも当てはまる本だと感じる。
・伊藤計劃のたどってきた時代や趣味嗜好が理解できる作品だ。良くも悪くもネタ元がわかりやすい。
・引用が多い。(2001年宇宙の旅、ミシェル・フーコー、ハルヒの憂鬱など)
・ラスト近くで書かれているおのまとぺの繰り返しに鳥肌が立った。一種のトランス状態を思わせる。
・鏡のような作品だと思った。
・病状を知ったうえで、その当時にリアルタイムで読んでいた感情が沸き上がってきた。
・闘病中の作品と思うと改めてすごい作家だったのだなと感じた。薬で精神状態が収まるかのごとく、文章に息づかいが感じられて不気味さもある、一方で、死の淵に立たされた人間がここまで執筆活動を続けらるのかと考えると恐ろしくなる。

個人的には完全燃焼の読書会でした。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

セカイのどこかで終わらない夜の語り場があってもよいと感じます。

ぜひ横浜読書会KURIBOOKSへ遊びにきてください。

【投稿者】KURI


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