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伊勢金比羅参宮日記(4) 美保の松原・大井川

2月8日(11日目)龍華寺

興津

 快晴。浜辺に吹く風は心地よく、天からそよぐ風のようだ。沖津(興津)を出発し、清見寺に立ち寄る。景色が素晴らしく江尻から久能へ廻る。

江尻

 この道を行くとすぐに久能寺(現:鉄舟寺)という寺がある。この寺の門前には古い松の木があり、「権現様(徳川家康)馬つなぎ松」と言い伝えられている。かなりの古木であり、石のカイが木の幹に食い込んでいる。


 ここから龍華寺に寄る。このあたりは細い野道である。龍華寺の庭園の中には大きな蘇鉄(ソテツ)の木とサボテンがあり、これは天下の絶品である。向かいには三保の松原、富士山、田子の浦、足立山などが目の前に広がり言葉に出来ないほどの絶景である。

 ここから少し歩くと大きな道に出て、久能に至る。ほとんどの浜辺は塩畑であり、塩汲みの人も多い。

 久能山の茶店「彦太夫」にて案内を頼んだら、その料金10人までの一行で200文であった。

 番所へ名札を出す。この久能山、絶景である。伊豆半島から三宅島などが見渡せる。お宮(東照宮)も大変立派である。石間拝見料また一行で200文なり。

 これより山を下り食事を取り、府中に出る。府中の町並みやお城はとても良い雰囲気である。夕方宿屋に到着。米屋市与衛門に泊まる。

府中

 江尻村口にて船頭たちが待ち合わせている。三保の松原から久能まで船で送ろうというのだ。これには決して乗らない方がよい。三(御)穂明神は大したことはなく、羽衣の松は植継ぎであるし、遠くから見るのと違い、その場所に行ってしまうとたいして見るところはない。龍華寺は見ない訳にはいかない。しかし、陸路はかなりの細道である。たびたび子供らに道を聞くと良い。

 久能の近くになると、また宿引が現れる。宿引は、クジ引きで交代で現れるから、宿屋はどれも似たり寄ったりで特別良い宿屋はないので、宿引の言うままでいいだろう。それより案内を頼んだ方がいい。茶店にて、参拝した帰り道の宿屋の亭主を装った者が出てくる時がある。これは本当の宿屋の亭主ではない。

 おそらく府中からの宿引であって偽りで言う。その宿屋の亭主が言うには、「今日はよろしかったら府中の何屋へお尋ねくださらんか。幸い今日は用事があって家の者がこちらに来ることになっているので、その者がいろいろとあなた方を御案内しながら府中までお連れしたいと思います。」と言う。そんな時は、こっちは兼ねてからどこそこという決まった宿がある(これは浪花講中と言わずに、浪花講中のうち家名だけを言って、ずっと前からの馴染みであるからと言うことだ)ので、ということでしっかり断るべきだ。決してその者の話を聞いていはならない。


 また宿引きはこんなことも言う。今宵、うちに泊まることで旦那方の泊まる宿屋の方に差し支えが出るようであれば、私どもが先方へ話を付けて来ますから、そのお宿はどこのご家中の御用宿でしょうか?ぜひ私どもにおまかせくだい。.....これらすべてウソである。決して信用してはいけない。向こうの企みは1泊の高級遊女屋に無理矢理連れて行くと言うこともある。

 安倍川餅は味もよく、食べて害はない。鞠子(丸子)の宿のとろろ汁はあまり美味しくない。

鞠子(丸子)

 夕刻になり鞠子の宿では、家ごとに軒下に竹を置いている。なぜかと尋ねると今日8日は神送りであるから、と言う。面白い風習である。

2月9日(12日目) 大井川

 晴れ。北西の風が強い。朝は少し雨が降っていた。

 鞠子を出発すると1.7kmほどの「宇津の谷」の峠がある。ここの「十団子」は子供だましみたいなもので、食べるようなものではない。

宇津の山 岡部

 岡部の先の藤枝は良い宿場である。嶋田駅はあまりよくない。

藤枝

 大井川には、川を渡るための川越問屋がある。今日は川の水が満水のため、いつもなら一人68文で渡れるのであるが、武家は一人につき2人の川越人夫がいるため2倍になる。荷物を運ぶのに一人分払う訳だ。

島田 大井川
金谷 大井川

 そこから菊川橋から菊川峠で1.7km、中山峠も1.7km。随分と骨の折れることだ。

 「夜泣き石」は名石である。通りの真ん中にあって、「南無阿弥」の四字の古めかしさを見ておくこと。その傍には「血の池」がある。この日は日坂の宿の坂屋所左衛門に泊まる。

日坂 夜泣き石

 中山飴の餅(現:子育飴。水飴をお餅にかけたもの)は、食べて害はない。悲子屋という茶店がある。この飴で子供を育てたと言っている。

 今日は、娘や若妻ばかり2人1組で、お伊勢参りの帰りであろう者たちに逢った。藤枝が里である人らしく、みんな赤い紐を付けて、袋を首にかけ、みんな木綿の服を着て、伊勢音頭を大声で歌い歩く。その姿はとても貧相であり、この辺りの風俗は、これを見ての通りである。これを見ただけでも、私の郷里が贅沢過ぎるということを実感しなければならない。

2月10日(13日目) 掛川

 今日も晴天である。日坂を出発。

 このあたりはとてもほがらかとした陽気であり、だいたい地元の群馬あたりと気候が似ているようである。

 朝、掛川にて休み、秋葉路へ入り、森町にて休む。この辺はとても良いところだ。

掛川

 ここから四十八瀬越に掛かるこの川の名前は太田川というとても田舎な場所であり、見どころはあまりない。

懸川秋葉道四十八瀬越
袋井

 三倉で宿泊する。かちや八郎兵衛宅泊。(ここから先はあまり良い宿屋がないので、宿に着いて宿泊代がいくらであるか聞くこと)


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