歌詞考察 | aiko 恋をしたのは

恋をしたのは

aiko『恋をしたのは』

とアカペラから始まり、どんな物語を語るのか考察していきます。

今降るこの雨 遠くは晴れている
だからすぐに逢えるね
止めば乾いてそして星が降るから お願い

aiko『恋をしたのは』


aikoはあなたとあたしの関係がどんな様子かをしばしば天気で表現しますが、『恋をしたのは』も例に漏れず、空模様を比喩にして今は悲しいけどいつかまた楽しい日々がやってくるよねといった投げ掛けが導入として歌われています。
ここでは雨の対照として星が使われており、あたしの視点ではまだ先は明るくなるはずと言い切っています。

一枚一枚増える色の違う写真めくる様に

aiko『恋をしたのは』

まるで写真を見返すような鮮明さで、あなたとの日々の回想に耽っています。
繊細な四季を色とりどりに歌い上げることを得意とするaikoの歴代の曲とリンクさせると、『色の違う写真』というたったワンフレーズでふくよかなイメージが掻き立てられ、恋をしたのはリリースまでの20年弱で産み落としてきた曲が自然と思い出させられるような、またそれを背景として表現出来るほどの技量が非常に上手くマッチした秀逸なパートとなっています。す、すごい。

伝えたかった事は今も昔もずっと同じままだよ
Darling
迷わぬよう歩いていけるたったひとつの道標

aiko『恋をしたのは』

「さようなら」でも「ありがとう」でもなく、「あなたはあたしの道標であり続ける」を最後に伝える言葉に選んだあたしは、あなたとの別れが決まったあとも親しげにダーリンと呼び、そして愛情を持って接する優しさから、あなたとの日々に大きな意味があったんだよと語りかけるパートとなってます。

語弊があるかもしれませんが、悲しみに沈み、ひとりよがりな失恋ソングを比較的多くリリースしてきた過去のaikoにとって大きな変化とも言え、相手の気持ちにもフォーカスして歌われたこの部分は『湿った夏の始まり』の基点とも言えるような視野の広がり方を見せてきています。
この視点はaikoとしての活動20年間の集大成であり、さらに進化を続ける通過点であり、次フェーズ“大人aiko”の始まりと言っても過言ではない重要な一節なのではないでしょうか。

事実、湿った夏の始まりのラストを飾る『だから』では「♪少し眠ればいい 起きていてもいいよ」というフレーズを言い放ったあたし目線が新鮮であったのは記憶に新しいかと思います。

ねぇ前向いてあたしはここにいるでしょ?
だからもう泣かないで
心が割れた時も特別な日々をくれた

aiko『恋をしたのは』

どちらかに好きな人が出来たなどの理由ではなく、卒業や引越しなど現実的に別れを選択するしかない問題であるような印象を受けました。
お互いがお互いを想い励まし合う、そんな様子が見て取れます。

些細に掛け違えた赤色 あの日の廊下の白色

aiko『恋をしたのは』

非常に抽象的な内容ですが、耳の聞こえない女の子といじめっ子が主人公の青春映画『聲の形』の主題歌にもなったことから(タイアップ決定が先か、作曲が先かは不明)、廊下で交差した上履きと薬指に掛かるはずだった赤い糸のイメージが近しいかと思います。
この場面から、学生同士の物語であることが分かります。

初めても最後も今も舞う花びらに刻み送るよ
Darling
落ちる雨に映る二人 世界は誰も知らない

aiko『恋をしたのは』

上記したBメロの赤色と白色の比喩からも分かるように、出会いと別れの季節に起きた学校生活を想像させる『花びら』を歌詞に用いて、優しさと寂しさが入り交じった逆らえない別れであったことを柔らかに印象付けています。
ここまでドロドロした感情が一切無く、淡く切ない青春の雰囲気が溢れた曲であることがわかります。
(なんだか若くていいな…と思ってしまった。笑)

さらに導入部分の投げ掛けに使われた雨はいまだに止まず、降る星に変わって欲しいという悲痛なお願いも届かないままで、世界にはふたりだけであるかのように悲しみにくれています。

恋をしたのはいつからか泣いたのは何度目か
数えると夜が明けるわ 困るな...

aiko『恋をしたのは』

挙動、仕草、発する言葉...、どれかひとつを取ってみても素敵に見える相手との別れが決まってからは悲しい夜は何度もきて、そのたびに何度泣いただろう。
このまま雨が星に変わることはなく、夜は明けても雨が降り続け、悲しみが晴れることはないままこの曲はラストフレーズを迎えます。

伝えたかった事は今も昔もずっと同じままだよ
Darling
迷わぬよう歩いていけるたったひとつの道標

aiko『恋をしたのは』

離れ離れになることが決まっても、あなたに何度も恋をしたこれまでの日々に得たものはたくさんあって、伝えたかったことは今も昔も変わらずずっとあるんだと締めます。
そのどうしても伝えたいこととは、
お互いが過ごした日々はこれから目指すそれぞれの目標に向かって進んでいく道標になって、辛いときも頑張る理由になる。だから今は別れよう。そんな甘酸っぱい前向きな曲であると考察します。


ここからは曲構成からみた僕なりの解釈となりますが、

Aメロ『♪今降るこの雨~』
Bメロ『♪一枚一枚増える色の~』
Cメロ『♪伝えたかった事は~』

Aメロ『♪ねぇ前向いて~』
Bメロ『♪些細に掛け違えた赤色~』
Cメロ『♪初めても最後も~』

サビ『♪恋をしたのはいつからか~』
Cメロ『♪伝えたかった事は~』

aiko『恋をしたのは』

と、全編通してサビが一度しか出て来ず、煮え切らないやりきれなさのような気持ちと、別れる他に選択がないという内容がリンクしていて、作詞作曲ともに同じベクトルを向いた非常によく作り込まれた一曲となっています。そんな難しい曲をaikoはブレスやビブラート、時に空気の多いため息のような発声をしたり、ファルセットで優しく、低音で暗く響かせてみたり、エッジを効かせてみたり、休符を多く用いて何か言いたげなんじゃないかと勘繰ってしまうようにしてみたり...。言い切れないくらいの表現力を駆使して見事に歌い上げます。表現者としてこれ以上ない仕上がりなのでは...?

ファン補正が多少(かなり?)入っているかとは思いますが、プロの本気に圧倒される本当に本当に大好きな一曲です。滲むインクと真っ白な衣装が印象的なMVにも注目してください。

『恋をしたのは』でaikoが発するすべてをじっくり聴いて感じてほしいです。

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