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スポーツインストラクターとして生きること

 コロナショックで起きていることについて情報収集している中、フィットネスクラブに20年以上通っている僕にはちょっと衝撃なニュースが流れてきた。

非正規が9割でも「見殺し」の現実 コナミスポーツは時給社員に休業手当を一切「不支給」
※ただし、この問題がYahooニュースで取り上げられると方向は一転し、5/16にコミスポーツは休業補償を支払う方向に舵を切った。
<新型コロナ>コナミスポーツ、一転支給 休業手当不支給 産業界に拡大

 今回の件、一報を聞いたとき「時給社員」とはどこまでを指すのだろうかと疑問に思った。業界の仕組みを鑑みると、コナミスポーツ側にフリーランスのインストラクターへの支払い義務は無さそうだからだ。
 その理由についてはフィットネス業界の仕組みを説明しながら述べるとして、今回の一件で改めて考えさせられたインストラクターという生き方について僕の所感を述べる。

フィットネスクラブの就労実態

 フィットネスクラブを始めとしたスポーツ施設はパートやアルバイト社員によって支えられている。フットサルコートやゴルフ練習場をイメージしてもらえればわかると思うが、スポーツ施設の多くは“場”の提供が主たる業なので、マニュアル化された業務(フロントや清掃業務)の比重が多くなる。
そのため、経営や企画業務を主とする正社員の必要性は比較的低い。
 これは、コナミスポーツやセントラルスポーツなどが運営する統合型フィットネスクラブは特に顕著で、店舗面積や機能が大きい、所謂“大箱”と言われるような店舗は従業員数が多いため正社員が全従業員の1割程度しかいないという現場は珍しくない。むしろ、日によっては社員不在でバイト主婦や学生だけで店が回っているという状態も多分にある。

 フィットネス業界がパート・アルバイトへの依存度が高い業種であることは経済産業省の特定サービス産業実態調査からも分かる。調査によると、2019年度の日本のフィットネス施設の事業所数は3,228カ所、従業員数が45,492人(※Fitness Businessの数字と相違あり)、うち正社員が8,479人(18.6%)、その他従業者(パート・アルバイト等)37,013人(81.4%)という構成になっている。
 なお、その他従業員37,013人のうちインストラクター・トレーナー等は36,843人で全従業員のほとんどがインストラクター、トレーナーだという実態も分かる。

 統合型フィットネスクラブでは正社員やアルバイトがインストラクターとして働き、会員への指導やスタジオレッスンだけでなく、受付事務、設備チェックなども行っているが、フリーランスのインストラクターも多く出入りしている。今回、不払い問題で苦しんでいる人の多くはこのフリーランスのインストラクター・トレーナーだ。

フィットネスクラブの過当競争の結果

 前回の記事にも書いたが、フィットネスクラブの市場は飽和状態だ。

月会費が高額となるパーソナルジムを除くと、月会費を抑えなければ競合に会員を取られてしまうため、他のクラブより突出して高くすることはできない。また、統合型は立地条件の良い場所を確保するのが至上命題となるため、固定費である家賃の削減も難しく、どうしてもボーナスや社会保険料がかかる正社員の数を減らし、バイトやフリーランスを主体として事業を展開する形態をとらざるを得ないのは最早業界構造だ。

 フィットネス事業は比較的少額の投資で始めることができる。そして規模を拡充するためのインストラクターはフリーランスで空いている時間に来てもらう業務委託方式で集め、その規模を拡大していく。フィットネスクラブは過酷な競争下でインストラクターの人件費を抑制しているので正社員になれるインストラクターは極一部で、成果報酬型の歩合制のインストラクターばかり増えていく。昨今の24時間型フィットネスジムの展開により、無人化の方向性が加速したことで人件費を抑制する流れは更に加速している。

インストラクターの仕事

 フリーランスのインストラクターは通常、複数のジムと業務委託契約を結び、パーソナルトレーニングやスタジオプログラムを担当し、受け持ったレッスン数や時間数に応じた歩合制の給与形態が一般的だ。契約期間はフィットネスクラブによって異なるが人気インストラクター以外は概ね3ヶ月~6カ月と短期契約のものが多い。人気がない、教え方に問題がある場合には契約を打ち切られる厳しい世界だ。

 フィットネスクラブでパーソナルトレーナーとして活動をする場合、トレーニング料金の一部を、手数料としてジムに払うことで、ジム内の設備を使うことができる。
 コナミスポーツの場合、パーソナルトレーニングサービスは1時間6,000円からレッスンが可能で、そのうち65%がトレーナーに支払われる。1ヶ月間に100レッスンをこなすパーソナルトレーナーの場合の1ヶ月の報酬は、6,000円×100×65%=390,000円。1ヶ月の稼働日が25日とすれば、1日4レッスン(4時間)を毎日こなさなければならない。
 また、ヨガやエアロビクスのスタジオレッスンも同様でインストラクターによって月のレッスン数と単価が決められている。人気が出て売れっ子になるとレッスン単価も上がり、レッスン数も増やすことができ、人気インストラクターは幾つものジムと多くのレッスンを持ち、月に100万円近く稼ぐ花形インストラクターもいる。こういった花形インストラクターを夢見て若手インストラクターは日々レッスンに勤しんでいる。

インストラクターという生き方 

 インストラクターは1日に複数回のレッスンを週に何度もこなす。たまの休みに研修や会議、イベント等に出席することもあれば、慢性的なインストラクター不足のせいで休日返上で代行でレッスンを行うこともあり、休みがしっかり取れない事はざらにある。また、イベントや遠くのジムでのレッスン等で遠征に出たり、遅くまで営業しているジムでクローズ作業までしていると家に帰るのが24時を回ることもあり、生活が不規則になりがちだ。

 若いときは体力があるのでこういった無茶な働き方も気にせず、“鍛錬”と捉えるインストラクターも少なくないが年齢を重ねるにつれ、若い頃のような働き方ができなくなり、引退が頭にちらつく。
 肉体的な酷使の他に精神力の酷使もある。インストラクターは見られる仕事なので体型の維持やトレーニングウェアの購入など自身のケアも気にしなければならない。
 インストラクターはモテるので(僕はつり橋効果と同じ効果がトレーニング中に発生し、笑顔で優しく声をかけてくれるインストラクターに恋をしていると錯覚する人が多いと勝手に思っている。)トレーニングの目的がインストラクターに変わり、スタジオやジムの外で待ち伏せをしたりSNSに執拗にメッセージやコメントを残してくる客も少なくない。ちょっと変わった変な顧客への対応だけでも日々精神面が削られていく。

 上記の通り、インストラクターは体力と精神力の勝負だ。インストラクターは多かれ少なかれ、自分のインストラクターとしてのキャリアをどう伸ばせば良いのかだとかどうすれば顧客が付くのか日々頭を悩ませている。

無事売れっ子のインストラクターになり、収入が安定したとしても、次は、いつまでこの仕事をするのかと先のことに頭を悩ませ無ければならない。
 怪我や病気などの理由により急遽インストラクター業を続けられなくなってしまうことも当然あるのだ。
 故にインストラクターは正社員として会社に属するか、自身でフィットネスクラブを立ち上げ、経営側に回るかはたまた、フィットネス業界から足を洗うかという選択をどこかのタイミングで迫られることになる。

なぜ、コナミスポーツは休業補償を支払わないと言ったのか

 コナミスポーツクラブは「マシン」「スタジオ」「パーソナル」「プール」「お風呂&サウナ」機能を兼ね備えた業界最大手の統合型フィットネスクラブだ。
 結果的に5月16日に休業手当を支給すると発表したが、なぜコナミスポーツは当初支払わないという方針を取ったのか。
 これは恐らくフリーランスのインストラクターは業務委託契約の相手であって、雇用関係にないという理屈だと推測される。
 
 コナミスポーツで働く人は以下の4種類に分類される。
正社員、契約社員、アルバイト、フリーランス(業務委託)
経団連の雇用調整助成金申請の手引きを見ると業務委託契約ベースのフリーランスは雇用調整助成金の対象にはならなそうだ。

参照: 経団連【新型コロナウィルス対策】雇用調整助成金 申請・活用の手引き

 故に、当初会社としてフリーランスには支払う義務が無いと判断したのではないだろうか。
 記事を見ても、未だフリーランスのインストラクターに対して保証するのかどうかはっきりとはわからない。

 雇用調整助成金はコロナ禍の長期化をうけて、その適用範囲が広げられていることを考えると、コナミスポーツは雇用調整助成金の対象にならないフリーのインストラクターに対しても一定の休業補償を覚悟するべきだと思う。コナミスポーツで働くインストラクターには持続化給付金制度が適用される完全なる個人事業主となっているインストラクターもいるが、実態はアルバイトと変わらないグレーで個人事業主とは言えないインストラクターが多い。ここで対応を間違えると企業のレピュテーションを落とすだけではなく、人気のインストラクターが騒動が落ち着いた後、戻ってこないといった事態になりかねない。
 厳しい状況の時こそ企業の対応は試される。この時の対応如何で、今後の企業の明暗を左右することになる。
 
 ただ、考えなければならないのは業界最大手のコナミスポーツですらこういう従業員の給与を保証しきれないという実態だ。社会的話題に上らないレベルの中小零細企業、個人経営店では支払いたくても支払えないという話は僕らが知らないだけで数多く浮上しているはずだ。

現状、フィットネスクラブは営業自粛が最後まで解除されないグループになることが濃厚なので、雇用調整助成金や持続化給付金などの社会的救済セーフティネットを更に拡充して、経営側も業界を支えているインストラクターも保護されるような制度設計が必要だと思う。

まとめ

 コロナショック後、フィットネス業界に生きる人たちには厳しい生存競争が待ち受けているのは明白だ。業界から足を洗う人、働き方を考え直す人も多く出てくると思う。それほどこのコロナショックの衝撃は大きい。
 僕は今回の件、起きてしまった事のマイナス面だけを見るのではなく、インストラクターの人達が自分たちの働き方について考え直すきっかけにが生まれたというプラスの面に着目したい。コロナショックによって働き方を考え直さなければならないのはインストラクターに限った話ではないが、インストラクターとしての生き方をいつまで、どのような形で続けるのかということは多かれ少なかれ皆、考えてはいたはずだ。
 もし、今の仕事が好きでこれからも続けていきたいと思っているのであれば、月並みな言葉だが『生き残る』しかない。今一度、自分がインストラクターという仕事をなぜ選んだのか、どれだけインストラクターという仕事が好きなのか良く考える必要がある。

レッスンやコーチングだけでは、インストラクターとして生き抜くスキルには足りない。店舗運営や経営を学ぶことも大切だ。そのスキルを得ることで自身の城を立ち上げる道も見えてくる。

 僕がフィットネスクラブに通い続けてもう20年近くになる。その間、多くのインストラクターと出会い、肉体面でも精神面でも助けてもらってきた。なので、インストラクターという職に就く人には感謝しかない。
 今回の報道を読んで僕の頭の中には多くのインストラクターの顔が浮かんだ。皆は大丈夫だろうか。
 知り合いのインストラクターだけではなく。フィットネス業界で働く人たち皆に伝えたい。

『どうか生き残ってください。あなたを必要としている人がいます。そしてまた一緒にトレーニングをしましょう。』


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