見出し画像

暮瀬堂日記〜片栗とブランコ

  かたかごを引つぱる風の吹きにけり 石田勝彦

 「かたかご」は片栗のこと。私は、ずっとしゃがんでいたくなるくらい大好きな花である。思いがけず群生した場面に遭遇すれば、立ち尽くしてしまうだろう。その花を、ここまで見事に詠んで見せるとは、なんと巧みなことか。

 今日は、未明からそんな片栗を倒す程の風が吹き、いつか雨になっていた。横殴りの雨音が続いて目が覚めると、家人がひどく咳き込んでいた。最近咳が続いていたが、今朝は発作のように止まらず、自分から医者に行くというので、三時ころ救急外来に電話すると診てくれるというので、車で急いで向かう。色々調べて、PCR検査の陰性を確認して入院となった。会社は休むことにして、その後、必需品を持って行くが、面会は出来ないとのこと。荷物の説明も、本人の希望も直接聞けないので、それが辛いところである。不安であろう。

 再び帰宅してソファーに座ると、たまたま書棚より落ちてきた「折々のうた」を手に取った。

  ふらここや人去つて鶴歩みよる 尾崎放哉

 不思議な光景である、こんなことがあるのだろうか。自由律で名高い放哉であるが、まだ定型俳句を詠んでいた頃のものだろう。場面の転回がよどみなく、キレを感じる。

  幾度もふらここを拭き妻を待つ

 放哉一句を見ていると、真似て一句を戯れたが、なんだかぐっとなる日であった。


※片栗の花・ふらここ……「ふらここ」はブランコのことで、鞦韆(しゅうせん、しうせん)とも言う。どちらも春の季語。


(二〇二一年 三月ニ日 火曜 陰暦一月十九日 雨水の節気 草木萠動 【そうもくめばえいずる】候)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?