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暮瀬堂日記〜滑莧(すべりひゆ)と永田耕衣

 NHKをつけながら詰将棋をしていると、「滑莧(すべりひゆ)」と言う単語が耳に入った。故郷山形では「ひょう」と言い、浸しにして芥子醤油で和えて喰らう。庭でも畑でも雑草に混じって生えるが、他県の人に話しても首を傾げるばかりなので、恐らくこの草を喰らうのは山形人だけなのではないか。無論、東京で売られているのを見たことはない。

  踏切のスベリヒユまで歩かれへん 耕衣

 私淑する永田耕衣を知ったのは、かつて平凡社から出ていた月刊誌「太陽」であった。終刊の際には、いい雑誌ほど売れず無くなってしまうのだな、と思ったものである。

  死螢に照らしをかける螢かな
  いづかたも水行く途中春の暮
  螢死す金平糖になりながら
  死近しとげらげら梅に笑ひけり
  行けど行けど一頭の牛に他ならず
  水を釣つて帰る寒鮒釣一人 
  池を出ることを寒鮒思ひけり
  泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む

 耕衣の句を前にすると、涙が溢れてくる。万物の淋しみをさらけ出されたように、涙腺が緩んでしまうのである。達観した耕衣は、人の見えないものも見てしまったのだろうな。
 耕衣のことになると、どうしても長くなってしまう、などと言い訳じみながら、以前作った拙句を記し、擱筆することとする。

  すべりひゆ喰らふ山形恋しかり
  すべりひゆ日ごとはびこる舟溜り

(旧暦七月三日 立秋の節気 蒙霧升降【ふかききりまとう】候)

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