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暮瀬堂日記〜時雨忌

 昨夜(ゆうべ)には上がった雨に、今日も時々降ってはくれぬだろうかと思っていたが、叶わなかった。と言うのも、陰暦十月十二日は「芭蕉忌」であると共に、時雨に思いを馳せて句を詠み、忌日もその季節と重なった為「時雨忌」とも呼ばれ偲ばれた。


『芭蕉俳諧七部集』の極みとも言われる「猿蓑」は、芭蕉の巻頭一句から命名されている。

  初しぐれ猿も小蓑をほしげ也

 去来と凡兆により編まれ、其角が序文を為しているが、読むたびに落涙を禁じ得ぬ。巻頭句の後には、門人十三人による時雨の句が続き、新風を為さんとする気迫が迫り来る。

 旅に旅を重ね、旅のなかばで枯野の夢を見て没し、それから三ニ〇有余年を経てなお、その俳聖の眼差しに否応なく射抜かれている。

  時雨忌の毛羽だつ筆の切字かな

 かようにたわぶれた一句が精一杯であった。


(二〇二〇年 十一月廾六日 木曜 陰暦十月十ニ日 小雪の節気 虹蔵不見【にじかくれてみえず】候)

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