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呉エイジセレクション

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長年書き溜めた文章の中で、幾分出来の良いものを集めてみました。
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2015年4月の記事一覧

あまり怖くないお化け屋敷

嫁の実家の隣の家は、いつも『売り出し中』の看板が掲げられているので、前から気になって仕方がなかった。

週末、家族で夕飯をご馳走になるために出かけた時のことだ。

その夜はトンカツだのエビフライだの、孫たちが喜ぶ料理を、と。お義父さんとお義母さんは張り切って台所に立ち、夕方から衣をつけるのに必死であった。

お義父さんは寡黙だが、お義母さんは気さくな性格で、いつも私に気を遣ってくれて、居心地のいい

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W-メン

W-メン

「ここかなぁ」

メタボ気味の大学生が心細げに裏路地をウロウロと彷徨っている。かつては赤いチェック柄であったろう、今は変色してオレンジ色になってしまったヨレヨレのシャツは既に汗ばんでいた。ワキ汗の半径は軽く10センチを超えている。スパイシーな臭いが仄かに漂っていた。

グーグルマップでは確かにここ、木造の昭和感溢れる小汚い長屋を指していた。

「Wメン秘密基地…、ここか、って表札かまぼこ板にマジッ

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心理アンケート

 弊社の本試験まで、皆様、誠にお疲れ様です。最後に簡単なアンケート(心理試験)を記入して本日のプログラムは全て終了です。

 書き終わった方から席を立って頂いて結構です。

 尚、このアンケートは採用の合否には全く関係がなく、採点に影響がないことをお伝えしておきます。

 これは皆様の弊社における適切な部署への配置の参考及び、業務で行き詰まった場合、的確なアドバイスの指標となるべく集計する意図で実

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あかえんぴつトゥーマス

あかえんぴつトゥーマス

あかえんぴつのトゥーマスは足を高く上げ、そして腕も大きく振りながら颯爽と街を歩いていた。

あの『赤えんぴつ』を立てて、細い手足を生やし、芯と本体との間の木の部分に丸い目と鼻口がある。てっぺんの赤い芯の部分は、可愛らしい赤の帽子に見えなくもない。

反対側は白い消しゴムが付いていて、これが『オムツ』に見えてしまうのがトゥーマスの悩みの種であった。

「これ、オムツと違いますんで」

バスの中でも電

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文章の神様

県でも有数の大型書店で、派手に設営されたサイン会場。

長テーブルには、刷り上がったばかりのハードカバー本が山積みされている。

垂れ幕には「失意の悲劇」峰史郞の文字が大きく刷られていた。

長年第一線で活躍しているベストセラー作家だ。

著書名は知らなくとも、サスペンスドラマ化された役者名を言えば「あぁ、あの話の」と街行く人々の多くが答えることだろう。

長者番付に名を連ねる常連でもある。

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