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呉エイジセレクション

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長年書き溜めた文章の中で、幾分出来の良いものを集めてみました。
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2015年3月の記事一覧

一子相伝の暗殺術

お江戸八百八町、世は戦も無く天下太平、街は活気に溢れていた。

行き交う人々に腰も低く笑顔で頭を下げ、店の前をひしゃくで水を撒きながら挨拶をする丁稚。

砂埃を巻き上げながら勢いよく荷車を引く若い人夫達。

着物で着飾った町娘をからかう、朝っぱらから酔っ払った遊び人。

いくら頑張っても士農工商は変わらねぇ、商人から武家になるなことなんてあるはずがねぇ。だから一日適当にやって夜は旨い酒を飲むんだ。

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俺の意識があるうちに

とうとう敵のボスを追い詰めた。特別捜査隊である二人、平岡と金山は、地下10階にある敵のアジトの中枢部まで侵入することに成功した。

二人の手には拳銃が握られている。

「観念しろ、抵抗しなければ殺しはしない」

金山が背を壁につけて、逃げ場がなくなり二人を睨みつけている、若くで美人な女首領(ボンテージ)にピストルを向けて威嚇する。

「おとなしく投降しろ」

平岡も構えながら間合いを詰める。

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悪魔との契約

三十歳のバースデーは、これといって変わった事など何も無かった。

俺は日課であるインスタントラーメン卵二個乗せを慣れた手つきで作り終えると、鼻歌を歌いながらご機嫌で食べていた。

都会に出てそろそろ十年になる。

彼女がいないのは生活の中で女性との出会いがないから、というわけでもなかった。

メタボ体型にアブラぎった顔、何年も同じ服に、スパイシーなワキの臭い、これらを好きな女性が世間には少数、とい

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制限十回のマジカルスティック

制限十回のマジカルスティック

「マジカルフィールドッ!」

俺は慣れた感じで叫んだ。手に持ったカラフルな棒の先から四方八方に光が放たれ、身体がゆっくりと宙に浮く。

放たれた光は四匹の光るイモムシになり、足元で取り囲んで私を見上げている。

ここで俺の全身が光って全裸になってしまう。ここは何回経験しても恥ずかしい。仮性包茎なので内股気味で周りから見えにくいポーズを取る。

そして光のイモムシからの糸光線が俺の身体にまとわりつき

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濁流の中の虫

 家族五人が昼の食卓についた。

 全員が座った事を確認し、母親は静かになるのを待ってから手を合わせる。

「いいですか、じゃあいきますよ。お父さん頂きます」

「お父さん頂きます」

 私は静かに頷いた。

 朝、昼、晩。私が居なくとも行われる我が家のしきたりである。

 母親は食事の度にこの号令をかける。

 ともすれば家の中での最高権力者が母親に成りがちな現代社会。

 父親の有り難さを忘れ

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