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emergencyの女

わたしは母から「emergencyの女」、「緊急事態の女」と呼ばれている。それは、あたふたする家族や同僚の中で、わたしが緊急事態に迅速に対応し、的確な判断を下せるからである。

ある時、妹が深夜に自転車で帰宅途中、派手に転倒して血まみれで顔を腫らせて帰ってきた。

動転して妹の顔を見ることさえできない母、救急外来にかかるべきだと怒ったように主張する父で、家の中はパニック状態だった。

そんな中わたしは、血まみれの妹の顔を濡らしたタオルで拭い、腫れた顔に即席のクーリングを施して、近所の緊急外来に電話をかけた。

一番にかけた近所の総合病院は、夜間は外科の外来はなかったが、市町村のホットラインの番号を教えてもらい、受け入れてくれる病院を見つけ出した。

幸い大きな怪我はなく、頭を打っていたので今後気をつけるべき症状を頭に入れ帰宅した。

こんなことは一度や二度とではない、現在の職場でも、わたしは不測の事態に強い。

どうやらADHDの傾向を持つ人には、他人を助けなければと感じたときや感謝されるときなど、利他的な動機がある場合には作動記憶が改善され一時的に物凄いパワーや行動力を発揮することがあるらしい。

その分、事が収まった後には強い疲労感とアドレナリンの放出で頭がフル回転の状態になる。

わたしの強みでもあるが、ひどく消耗もする。毎日のように不測の事態が起こる現在の職場は、わたしが活躍できる場所でもありわたしが最も消耗する場所でもある。

うまい対処法は見つからず、少しずつ心が摩耗してゆく。

強い正義感や責任感で押し潰されそうだ。

そういう時は、自分に優しく声をかけてあげる。わたしがわたしに呼びかける時の秘密の名前で「よくやった、よく頑張った」と自分を抱きしめて、温かいお茶を飲んで自分を褒めてあげる。

少しずつ自分を癒し、落ち着かせる力が身についてきた。

このままずっとうまくいくとは限らない。でも、目の前の人に手を差し伸べたいという気持ちを持ち続けられるように、わたしはemergencyの女でありたいと思う。

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