生き方、暮らし方、働き方vol.05 藤本恵実さん
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長野県内には、自由に自分らしく生きている女性が多数いらっしゃいます。
女性の幸せって何?の答えは、数限りなくあります。社会の「こうあるべき」という姿から自由になって、本当に自分のやりたいことをしなやかに実践している方々のお話を伺いながら、「自分にとっての幸せって何?」を探したり、再発見したり。
第5回目のゲストは、合同会社スマイルリードの藤本恵実さんです。
場所や時間にとらわれない女性の「新たな働き方」を創出
結婚、出産、育児、介護などライフステージの変化による影響を受けやすい女性が、スキルを生かして働ける仕組みを確立させ「仕事を通じて成長できる『場』を作り出す」ことをミッションに活動する合同会社スマイルリード。
代表の藤本恵実さんは自身の経験を生かして場所や時間にとらわれないフレキシブルな働き方を生み出し、働きたい女性たちを支援している。
具体的には、企業の総務部や経理部の仕事にあたる業務をアウトソーシング化し、登録しているワーカーがチームを組んで遂行。書類のデータ化や経理業務、ウェブの更新など、その内容は多岐に渡る。
藤本さん:女性は出産や育児、介護などで仕事へのブランクが生じると「自分だけ社会から取り残されている」「社会から孤立している」と感じてしまうことがあります。私自身もそうした経験があり「スキルを生かしたい」「社会に貢献したい」などモヤモヤを抱えている女性と企業様を結ぶお手伝いをするために、この事業を立ち上げました。
子どもを預けて働くことへの葛藤を抱えた日々
岐阜県出身の藤本さんが、結婚を機に夫の実家がある長野県飯田市へ移り住んだのは約20年前のこと。その後、女児4人の子どもにも恵まれた。現在、二十歳を過ぎた長女は家を出て独り立ちしているが、次女と三女は中学生、末っ子は小学生とまだまだ手がかかる年代。加えて5・6年前には親の介護も重なり、3年の間、介護と子育てを両立する日々も経験した。苦労も多いように感じられるが「ライフスタイルにおける女性の大変さもひと通り経験して、そういう面でもみなさんにお伝えできる部分があるかなと考えています」と屈託なく笑う。
最初の出産を経て、藤本さんが会社勤めを再開したのは長女が1歳になるかならないかの時。きっかけは経済的な不安からだった。「うちは主人が自営業なので、収入を安定させるためにも『働かなければ』という思いは強かったです」と当時を振り返る。思い切って子どもを保育園へ預け、後ろ髪を引かれる思いで仕事へ出たものの、子どもが体調を崩せば会社を急に休まねばならず、園へ預けても熱が出れば仕事の途中でも即、お迎えに行かなくてはならない。周囲に「すみません」と何度も頭を下げながら働き、迷惑をかけているのではないかと不安を抱く中で「育児をしながら仕事をすることのハードルってそんなに高いものなのかな」と考えるようになり、柔軟に働ける方法について模索を始めた。
インターネットや求人広告をじっくり見る中で発見したのが「在宅ワーク」という働き方。7、8年前、地方ではまだ聞き慣れない言葉だったが、都心ではすでに場所や時間に囚われることなく、自身のスキルや得意分野を生かして「空いた時間に仕事をする」という働き方が始まっていた。周囲に同じような葛藤を抱えているママ友が多かったこともひとつの原動力となり「それなら私が育児をしながら柔軟に働ける環境を作ろう」と起業を決意した。
藤本さん:育児をしながら働く女性たちの目的は様々ですが、金銭的なこと以外にも「社会とつながりたい」「社会の役に立ちたい」と考えている方は多いですね。しかし、いざ仕事を始めると、子育てと仕事の両立は容易ではありません。365日、24時間、家のこともしながら子育てをして「子どもにも家族にも負荷をかけている」「子どもときちんと向き合えていないのではないか」「会社にも迷惑をかけているのでは」と、最終的には罪悪感を抱きながら仕事をすることになってしまう。そうしているうちに誰かのせいにしたり自分を責めたりしてしまうんですよね。「旦那が見てくれないから状況が変わらないんだ」とか「自分に力がないから悪いんだ」とか。
男女の格差是正が話題に挙がる一方で、出産、育児期間を経た女性がキャリアを築いていくことへのハードルの高さは誰しもが感じていること。時間も場所も選ばず仕事ができる、そんな働き方への理解が進むことで、女性の活躍や社会進出がさらに進むことを期待している。
起業へのステップ
会社を設立し、事業をスタートしたのは2018年。第一歩は「人に会う」ことから始めた。様々な会社を訪れて社長と面会したり、経営者や企業の上層部が集まる場所にも頻繁に顔を出して話を聞いた。
藤本さん:最初はどこから始めていいのかわからず「会社とはどんなものか」という部分を知るために、たくさんの方から話を聞きました。自分の会社をPRするというよりは「とにかく仲良くなってみましょう」という感じでしたね。そうしているうちに、ニーズがあった際に声をかけていただけるようになりました。
業務を請け負うワーカーは「こういうことできる人いない?」「こういうことで困っているんだけど誰かいない?」と周囲に声をかけ、口コミのスタイルで集めた。現在は、子育て中の女性が7人、介護中の女性が1人、退職後に再び働きたいと復帰した女性2人の計10人が所属している。
企業側が安心して仕事をアウトソーシング化できるよう、スマイルリードが業務委託の形で仕事を受注し、業務に適したワーカーに仕事を振る形で運営。一方で業務を細分化できない企業には藤本さんやワーカーが指導に入ることもあり、その「指導料」も事業の収益となっている。ワーカーの育成については、仕事への知見やレベルの異なる人材がペアを組み、共に業務を遂行する中で、フォローし合いながら学び、成長できる仕組みを作り上げている。
また、業務を遂行する中で企業からワーカーに声がかかり、直接雇用になるケースも。仕事を共にすることで企業も働く側も互いの理解や信頼関係が深まり、その上で採用につながるため、非常に喜ばれているという。
藤本さん:ワーカーさんが直接雇用になれば私たちの収益にはなりませんが、優れた人材と企業をマッチングすることで信頼をいただき、紹介による新規開拓の機会が生まれることもある。弊社のミッションを考えればこれもひとつの良い形だと考えています。失うばかりではなく得られることも多いです。
女性の特性を生かした付加価値のあるビジネスモデルを
コロナ禍も後押しとなり「在宅ワーク」という言葉への理解は以前に比べて進んだものの、まだ作業の細分化がイメージできない経営者は多い。ひとつの仕事を一連の作業として捉えているがゆえに、本来ならアウトソーシングが可能な業務も切り離せない場合が多いという。藤本さんは「なぜかうまく回らない」「ここがもっとスムーズになればいいのに」と悩みを抱える企業へ入り、作業を細分化してマニュアルを作成する業務も請け負っている。ワーカーと2名体制で入り、外部ならではの視点から効率が悪い部分を指摘し、仕事を細かく区切っていくやり方だ。
藤本さん:IT環境の整備やクラウド化もさることながら、業務の標準化がされていない会社はまだ多いです。特定のひとりが業務を抱えてしまっている場合、今回のコロナ禍のように急に担当者が休まざるを得なくなった場合に仕事が止まってしまう。誰にでもその業務がわかるようマニュアル化しておけば効率も良くなりますし、必要な時に外部委託できる下地にもなります。人材不足が叫ばれるいまだからこそ、人材を低コストで柔軟に活用できるアウトソーシングの良さをこれからもお伝えしていきたいです。
また、今後は企業の仕事のフォローだけでなく、付加価値のある新たな仕事を生み出すことも視野に入れている。
藤本さん:女性ワーカーのきめ細やかさや工夫できる力は現在も高い評価を得ていますが、今後は「女性ならではの視点」を生かした展開も考えています。女性の消費性向は男性よりも高く、女性消費者がマーケットに与える影響は大きい。例えば商品開発のアイディア出しや、新商品開発時のマーケティング、商品の魅力をホームページやブログの記事にする仕事など、女性がその力を生かして活躍できる場を作っていきたいです。
時間の制約や働く条件がある中でも「いかに視点を変えて新たな価値を見出していけるか」が今後の女性の活躍につながるポイントだと藤本さんは考えている。
藤本さん:出産後のブランクで自信をなくし「私は何もできない」と嘆いていた方が、業務を遂行して誰かの役に立てたことで前向きな気持ちを抱くことができる。こういう経験は「やってみてなんぼ」の世界だと思っています。私も4人の子育てをする中で「自分には何ができるんだろう」と毎日悶々と過ごしていた時期もありましたが、そんな私だからこそ伝えられる部分があるのではないかと今は感じています。女性が不安や罪悪感をもたずに仕事ができる環境をさらに整え、ワーカーさんをもっと増やしたい。働くかどうか迷っている女性も、弊社を通じて一歩を踏み出し、チャンスを掴んでいただけたらと思います。
【profile】
藤本恵実さん
合同会社スマイルリード代表。岐阜県可児市出身、1977年生まれ。結婚を機に長野県飯田市に居住し、4児の母となる。自身の出産や育児、介護の経験を基に、スキルを生かして働きたい女性を「新たな働き方」で支援するため2018年に秘書・事務代行サービスを提供する「合同会社スマイルリード」を創業。企業と働きたいママをマッチングし、時間や場所を選ばずできるフレキシブルな働き方としてコロナ禍以前からテレワークをいち早く導入するなど、女性が活躍できる場を提供している。
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