ミニマリストが減って「ゆるミニマリスト」が増えた3つの理由
私は10年前、超ミニマリストだった。
持ち物はソファーと、ペラペラのエアウェーブ、そして音楽を聴くスピーカーだけだ。服も3日分しかない。とにかくモノがなかった。
今考えると、何でこんな暮らしが出来ていたんだろうか。もちろん、当時のミニマリストブームで、色んな情報を発信してくれている人達が支えてくれたことも確かだけど、それ以上にもっと大切な要素があった。
それは、モノの値段が永久的に変わらないという幻想。
デフレとミニマリストの関係
2008年リーマンショックが起こった。全世界で経済はガタガタ。株も家もすべてのモノが値崩れしていった。そして、経済は停滞し2010年頃からミニマリストブームがアメリカから起こる。
その波は日本まで到達し、大阪に居る当時の私にも届いた。当時の私はモノを持たない暮らしがすごく新しく、画期的な生き方だと思ってそれを実践していった。
でも、その裏側にはある前提があったのだ。それは、デフレからくるモノの値段の低下。つまり、今はモノがなくても、いつでも同じ値段で常にモノが安定的に存在しているということが大前提にあった。
だから、みんな安心してモノを捨てられた。なぜなら、1回捨てても次また同じ値段で買えるからだ。なんだったら、待てば企業努力でもっと高機能で安くなっているのかもしれないという時代だ。
スマートフォンもノートパソコンもガジェットも2010年代は凄まじい進化のスピードを辿っていたから、待つ方が賢い選択だったのだ。1年たてば性能が30%、40%上がる世界だと、待って1年後買う方がいいに決まっている。
そんな時代だからこそ、みんな1回モノを持つのをやめて外のサービスを積極的に使っていった。なんたってデフレ時代はモノも安ければサービスも安い。例えば、2010年のハンバーガーは100円。今じゃ170円だ。全然値段が違う。
だから、外でサービスをいっぱい受けようが安いから外でいいじゃんって考えになっていたのだ。これは実は発展途上国でよくある話だ。例えば、タイなんかだと家でほとんど食事を作らない。
3食テイクアウトが当たり前の世界。なぜかというと、昔のタイでは1食70円とかで食べれたからだ。そうすると、もはやサービス料とか無視していいぐらい低い。ガス代とか食材を買いに行く時間とかを考えると、家で作るより安上がりになってしまう。
このような経済的な状態がミニマリストを支え続けたのだ。だから、昔のミニマリストは非常に低コストであり、待てばよいモノを買えるという2重のメリットを受けていた。まさに時代にあった生き方だったと言える。
コロナとインフレとモノ不足
素晴らしいミニマリストという生き方はしばらく続いていくのだけど、コロナがすべてを変えてしまった。コロナは世界そのもののあり方すら変えてしまったのだ。
まず、自粛期間が設けられた。これはみなさんも苦い思い出として記憶にあるかもしれない。この時、ミニマリストは大きなダメージを受けた。基本的にミニマリストは外のサービスに依存して生きている。つまり、社会的なインフラが整ってはじめて成立する生き方だ。そのインフラがすべてボロボロにされてしまったことで純粋に続けていけないかったのだ。
例えば、冷蔵庫を持たないミニマリストが全盛期には居たが、コロナ時代にはどんどんと減っていった。なぜなら、外出回数を減らすために備蓄が必要となり、調理するための最低限の調理器具や最低限保存するための冷蔵庫などが必要となってきたからだ。
もし、コロナが3か月間であれば彼らも私も生活を変えなかったが、実際は3年も続いた。その長い期間は私たちの生活スタイルを変えるには十分な時間だったと言えるだろう。
さらに、ミニマリストにとって不利な状況は続く。それはモノ不足だ。コロナで世界の物流がぐちゃぐちゃになった時、それは起こった。買いたいのにモノが不足していたのだ。例えば、電子機器やバイクなど半導体関係のモノが圧倒的に不足していた。
その時期に車やバイクを買おうとした方は覚えているかもしれないが、1年2年待ちは当たり前だった時期があるのだ。そうすると、モノがいつでも買えるという、ミニマリストが前提としていた世界が崩れてしまう。
ただ、モノが不足するだけなら待てばよい。だがそれだけでは済まなかった。近年、世界的にインフレを起こしていった。インフレというのは簡単に言うと、モノとサービスの値段が上がることだ。
ここに、日本の特殊な事情も加わる。日本は大企業のプール金が多すぎて、あまり社員還元をしない。それは、退職金制度や生涯雇用を前提とした会社経営が基本だからだったからだ。
そうすると、インフレ時には困ったことになる。モノやサービスは上がっているのに給料が上がらない。こういうのをスタグフレーションというのだけど、こうなるとみんな生活が苦しい。
そして、モノは1か月前や、2か月前と比べていくとドンドン値上がりしていく。そうすると、モノは早く手に入れていたほうがお得になってくるのだ。ほっておくともう1年後には手の届かない価格になるかもしれないからだ。
この時、ミニマリストが前提としていた世界がすべて破壊されてしまった。いつでも同じ値段で常にモノが安定的に存在しているというある意味理想的な時代が終わったのだ。
そして、新たな生き方が生まれた。それがゆるミニマリスト(シンプルライフ)。
ゆるミニマリスト コアなモノを備蓄し、消費を抑える暮らしへ
ゆるミニマリストは自分の生活に必要なコアなモノはもっている生活だ。例えば、冷蔵庫、ある程度の調理器具、1週間分ぐらいの服などだ。数年は自分の持ち物で生きていけるぐらいのモノは持っている。
つまり、外部のサービスに完全依存していない。これは、コロナ時代の教訓だったり、モノがどんどんと値上がりだけする今の時代にはとても合理的な生き方だ。
掃除機もお鍋も、今買う方が安かったりする。1年後待てば値上がりする未来しか見えないなら、必要なモノは家にある方がお得だからだ。サービスも値上がりしているから、出来るだけ外部に依存しないようにしている。そうすると必然的にモノはある程度増えてくる。
でも、過剰にモノは増やせない。なぜなら、給料は上がっているわけじゃないから無駄遣いは絶対出来ない。
そうすると、「ミニマリスト+生活に最低限必要なコアな道具」という生活が出来上がる。これが新しい時代に適応した新たなミニマリストとして誕生したのだ。
まとめると、デフレ時代のモノが安定して安い時代が崩れ極端なミニマリストが減っていった。逆に、モノの値段が不安定でどんどん高くなっていく今の時代が「ゆるミニマリスト」だったりシンプルライフを生んだのだ。