曲げたりしても

元に戻せるっていいな。
戻せないときもあるから。

標野凪さんの『こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。』を読みました。

『「よかったらこれ、どうぞ」
唐突にワイヤーでできたハンガーを差し出され、戸惑う。
「自在に動かせるんです。ほら」
そろりさんは三角形のハンガーで菱形を作り、また元の三角形に形を整えた。
「曲げても、元に戻せるんです。どうでしょう」
いったん曲がってしまったものでも手を加えればちゃんとまっすぐになるんですよ、と続ける。
「一度外に出てしまった言葉は、魂を持ってしまいますから。取り扱いに気をつけないといけないんですよ」
ことばを発する際に、いったん立ち止まって相手の立場や背景を想像したほうがいい。言葉が持っている力のことを「言霊」というんだそうだ。
「でも、あまり考えすぎてしまうと、何も言えなくなってしまう。だから訓練するんです。戻ったり、やり直ししたりしながら」
そろりさんはそう言いながら、ハンガー両手でくっと押して円形にしたり、四角形をこしらえたりした。』

曲げたり、伸ばしたり、そうしても元にもどすことはできるのかもしれない。
でも、発した言葉は戻せない。

発した言葉をやりなおせたらいいのにな。
でも、戻せない。


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