なにかを救っている

甘いものが食べたくなって、ケーキをワンホール食べたくなる、って気分のときがあります。

坂木司さんの『ショートケーキ。』を読みました。


『ロスというのは、売れ残りの廃棄処分のことだ。店舗はそれをできるだけ出さないために、どれくらい売れるか考えて発注をかけるわけだけど、どうしてもいくつかは残ってしまう。中でも顕著なのは、ホールケーキだ。
バイトを始めてすぐの頃、俺は上田さんに「どうして少なめに発注して、売り切れにしないんですか」とたずねた。ホールケーキに至っては、そうそう売れるものでもないし、なくてもいいくらいなんじゃないかと。
すると上田さんは笑って答えた。
「なんかね、駅ビルで『売り切れ』はやりたくないんだよねえ」
「どういうことですか」
「いろんなことに疲れて、家の近くの駅までようやく帰ってきて、甘いものでも食べなきゃやってらんないってときにさ、『売り切れ』ってなってたらさ、絶望しそうだから」
絶望とは、大げさな。けれどその認識はすぐにひっくり返されることになる。俺は大学がああるから基本的に週末メインで入っているけど、たまにヘルプで平日の夜に入ることがある。するとそこには、上田さんの言った通りの人々がいた。
目の下にクマを作った会社員風の男性が前のめりでジャンボシュークリームを買い、飲み会帰りっぽい女性がプリンをふらふらとまとめ買いする。かと思えば現場帰りっぽい作業服の男性がため息をつきながらでかいスフレケーキを買っていく。みんな、一人だ。
「家族のお土産に買って帰ろう!」みたいな楽しい感じはほとんどなく、どこか切羽詰まったような表情を浮かべている人が多い。そういう人は、よろよろと通路を歩いてきて、ショーケースの前でははっと足を止める。まるで、そこに救命ボートを見つけた避難者みたいに。
「今はコンビニにもおいしいスイーツはたくさんあるよね。でもさ、コンビニに寄る気力もないとか、とにかくケーキ屋のケーキが食べたいとか、そういう日があると思うんだよ。それに個人経営のケーキ屋さんとか、夜は開いてないじゃない」
そんなものなのか。まあ、確かにコンビニにホールのケーキは売ってないけど。
「あとさ、このフロアには他にもケーキ屋さんはあるけど、ちょっと高いでしょ」
確かに。俺がうなずくと、上田さんは腕組みをする。
「そういうの、わーっと買って食べたいときは、なんか違うっていうか」
コンビニと高級パティスリーの中間。その位置づけだからこそ、求められるものがあるということらしい。
「うちのケーキってさ、なんかちょとだけ日々の何かを救ってるような気がするんだよね」
上田さんの言いたいことは、なんとなくわかった。世の中には、つらいとき酒を飲むようにケーキを求める人々がいるのだろう。俺は酒もあまり飲まないし、ケーキにもさほど思い入れはないから、やっぱりどこか他人事なんだけど』

コージーコーナーの店員さんの会話なのですが、わかりみが深すぎます。
そう、そうなんです。

ケーキワンホール食べたい!
いやまるごと一個は無理。
でもそれくらい食べたい、なんてときがあります。

コンビニのスイーツもおいしいんです。
でも、なんかケーキがいいなあ。
ケーキ食べたい。

ってときがあります。

この本を読んでコージーコーナーにいって、スフレケーキを買ってきて、一人で全部食べてしまいました。

ショートケーキ4号買って一人でたべてみようかな、とか思ったんですが、実物をみて、無理かなと思って、スフレケーキにしました。
スフレケーキも大きいんですが、しゅわしゅわした口当たりで食べれてしまいました。
ワンホール食いの夢が叶いました。

甘いものはなにかを救います。
私は救われました。


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