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ひとりひとりの小さな願いが周りを動かす―「シマシマ編集室」取材記事 ライター:長岡さん

◎2019年10月10日に実施した「シマシマ編集室」取材の記事です。インタビュー内容をそれぞれがまとめ、自分の言葉で綴る、という体験をしていただきましたので、ご覧ください。

1.はじめに

食べ物を食べた感想で、「やさしい味がする」と表現したことはないだろうか。
ここでいう「やさしい」は、味が薄いとか胃にやさしいとかいうものではなくて、「愛情たっぷりの味」とか「田舎の母の後ろ姿を思い出す」的な感情の類からくるものだ。

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たとえ同じものでも人は感情に左右される。例えば、コンビニで買った大量生産型の綺麗な三角形のおにぎりと、注文後ひとつひとつ丁寧に握られたおにぎりでは、俗に言う「やさしい味」を感じるのは後者だろう。
でも現在、世の中に増えているには、前者のタイプだ。忙しい現代社会で“時間”はとても大切で、休憩時間を削ってまで、時間のかかる方を選ぶ人は少ないだろう。もちろん、”空腹を満たすため”だけであれば何ら問題はない。でもふと思う疑問、

「あれ、私たちってそれでいいんだっけ?」

人はコミュニケーションや会話のなかで相手の気持ちを量ったり、ふとしたひと言で心を動かされたり、さらにそれを自分の言葉にして、別の誰かへ伝えることができる。でも今の生活は、時間を確保するために人とのコミュニケーションや感情を後回しにしている。
今回のインタビューを通して、これからの自分はどうしていたいのか、どんな環境で、どんな人たちと、どんな日々を過ごすことが自分にとって幸せなんだろうと、立ち止まって考えることが出来た。


2.インタビューの内容


今回インタビューさせていただいたのは、青野司さん。出雲市斐川町で「Good Life Farm」という農園を経営。そして現在は、仲間5人で立ち上げたファーマーズマーケット「Sunday Market CiBO」の主催者兼出店者として、地元の生産者さんを集め、来場者に「食」で生活を楽しんでいただけるような活動もされている。

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昔から食べることが好きだったという青野さん。さらに現在のスタイルに影響を与えたのはアメリカで暮していた時に、毎週のように開催されていたファーマーズマーケットだ。週末には朝からマーケットへ行き、スムージーを飲んだり、地元生産者との会話を楽しみながら野菜や果物を直接購入する。その夜には買った野菜を使ってご飯を作る。そんな生活が楽しく、この環境が幸せだと感じた。そして、「島根に帰ったら農家になりたい!ファーマーズマーケットをしたい!」と強く願ったそうだ。

現在は、やりたいことをどちらも叶えた青野さんだが、もちろんこれまでの苦労は並大抵のものではない。ゼロからのスタートであった農業は、15年ほど手付かずの荒野を耕すところからだった。もっと簡単に農業を始める道はあったが、ビジョンが定まっていた青野さんは、道無き道を自らの意思で選び進んでいった。

一年目は、西洋野菜などを中心に“珍しい”野菜を販売していた。だが、購入者のお客さんからの声で家庭での調理のしにくさなどに気づき、今は“誰が食べても美味しい野菜”を作ることをモットーにされている。

そんな青野さんが作る野菜が月に一度、Sunday Market CiBOで購入できる。CiBOに出店する全員がいつも心掛けていることは、お客さんと「会話」をすること。本来、交わることの少ない生産者と消費者が当たり前のようにその時間を楽しむ。それはまさに青野さんがアメリカのファーマーズマーケットで感じた居心地の良さだ。

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どんな想いをこめて作ったか、どんな味がするのか、「こんな風に食べると美味しいよ!」「前回買ったあれが美味しかったよ!」なんて会話がマーケットではいつも自然に生まれる。自分たちが一生懸命作り育てたもので、幸せになり笑顔になってくれる人がいる。それがあると知るだけで、苦労が報われたり、もっと美味しい野菜を作りたいと思う原動力になると青野さんは話してくれた。

マーケットを始めて約2年が経ち、お客さんのなかには見慣れた顔も増えてきて、この心地よい空間はお客さん一人一人が作り上げてくれているのだと回数を重ねるごとに実感しているのだそう。

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そんな話を聞いて、「楽しそう!マーケットに参加してみたい!こんな風に生産者さんから直接購入できるような場所がもっとあればいいのに!」と私は思った。でもその気持ちとは裏腹に、普段の自分の行動を思いかえしてハッとする。今まで野菜を買うときの選定基準は、「国産」「安い」「きれい」だったからだ。そのどれもが自分都合で、その野菜が作られた背景に生産者の姿があること、ましてや地元野菜かどうかすら、深く意識しながら選択をしていないことに気づく。そんな状態で「もっとお店が増えてほしい!」は都合が良すぎる。

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そんな行動と発言がちぐはぐな自分にモヤモヤしていると、「自分が“将来こんな社会でありたい”と思うところにお金を使えばいいんです。」と青野さんが教えてくれた。「僕の場合、人生を豊かにするためには人とのコミュニケーションが欠かせない。だから、セルフのガソリンスタンドよりも有人のガソリンスタンドを選ぶし、お気に入りの珈琲店には何度も足を運ぶ。コミュニケーションがある世の中を望むから、それが発生する場所に僕はお金を使うんです。」その発言の通り、一人一人とのコミュニケーションを大切にされている青野さんの周りには素晴らしい仲間が揃い、新しい農家のスタイルがそこにはあった。

以前聞いた話のなかで、日本では「将来何になりたい?」と子に聞くが、どこかの国では「将来どうありたい?」と問うらしい。一見、同じように聞こえるが、この言葉が指す未来は大きく違う。結局のところ、一人一人の「ありたい将来」への小さな意思や願いが周りを動かすのだ。

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私も青野さんと同様にコミュニケーションのある世の中を望む。そして、気の合う仲間と、お気に入りの場所で、何気ない日々を幸せだと思えるような時間をこれから先も過ごしたい。急に生活のすべてを変えることはできないが、まずは自分のありたい将来を想像し、意識してみようと心に決めた。

まず一歩、出来ることとして、今回ご縁ありお話を聞かせていただいた青野さんから直接野菜を買い、食べた感想とお礼を伝えることができたら嬉しく思う。

ライター:長岡さん / 文責:シマシマしまね

取材日:2019年10月10日




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