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石原路子さんのテデイベアによるカミーユ・ピサロ作「ジャンヌの肖像」の再現

表題の画像は、我が家に4番目にやってきた、テディベアです。伝説のテディベア作家、石原路子さんによるもので、2020年に岡山の老舗百貨店・天満屋で開催された美術工芸展に出品されていたのが、最初の出会いでした。

そのときから、寂しげにこちらを見つめる、つぶらな瞳が印象的な子でした。素材には、アンゴラヤギの毛(モヘア)が用いられており、毛の密度が少ないので、風雨にさらされて月日が経って、わびさびて、ものさみしい趣が強く感じられます。このときは、他の2番目と3番目の個体を我を家に迎え、この子は見送ったのでした。

展覧会のあとしばらくして、その子が石原さんのアトリエの棚に肩を落として、ひっそりと居たのに再会しました。ずっと心にひっかかっていたので、「この子も連れて帰ります」と即座に決断し、我が家に迎え入れたのでした。

さて、感染禍のなか、イスラエル博物館所蔵品展が開催され、印象派・ポスト印象派の重要作品群が日本国内を巡回しています。そのなかで、カミーユ・ピサロによる「ジャンヌの肖像」が目に留まりました。

カミーユ・ピサロ作「ジャンヌの肖像」* 1893年頃 イスラエル博物館(エルサレム)

カミーユ・ピサロは、印象派の画家達の最年長でした。親切で温かい人柄の人で、印象派の画家達をとりまとめ、励まし、支援する役割を担いました。それまでの伝統的な絵画に挑戦するグループだったので、その生涯は苦難の道のりでした。

ピサロには8人の子供がいましたが、貧困のなかで、そのうち3人は幼くして亡くなっています。

ピサロ自身は、風景画を多く描き、肖像画を描くことは、あまりありませんでした。ピサロは、12歳を迎えた娘、ジャンヌを慈しみ、子供の成長の記録として描いたようです。娘ジャンヌは、ゆったりとした黄色のドレスを着て、藤色の膝掛けをしています。明るい色調であるにもかかわらず、どこか翳りがあるのは、幼くして亡くなった子供達が投影されているのかもしれません。

この喜びと、失われた大切なものへの想いとが入り交じった絵画表現に、4番目のテディベアが思い起こされました。絵画の点描によるふんわりとやわらかい感じも、あの子のモヘアのようです。

さっそく、あの子単独の撮影会をして、ピサロによる「ジャンヌの肖像」の世界を再現してみました。

石原路子・作 テディベア 2020年

この空気感はいかがでしょうか。


*イスラエル博物館・企画 産経新聞社・編:イスラエル博物館所蔵「印象派・光の系譜. 産経新聞社, 2021-2022  P140-141

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