岡山・成羽町、川月清志さんによるペン立て
落葉樹の楢(ナラ)は頑丈な木で、荷重がかかる椅子の材料に多く使われます。
岡山・成羽町、工房川月の川月清志さんは、家具工房から掌サイズの楢の端材(はざい)を譲り受け、何を作ろうか、しばし思案します。
そして、木を見てなんとなく、ペン立てはどうか、と思い立ち、カンナをかけて行きます。設計図はなく、端材と対話しながらの造形です。
扉の画像は、そうして端材から彫り出された、ペン立てです。高さが8cmで、上の方がなだらかにすぼんでいます。
ペン立ての水平断面は非対称な長楕円形で、大きさが少しづつ異なった穴が4つ開けてあり、ペンとシャチハタが入るようになっています。これは、仕事場や書斎のデスク上のみならず、玄関や固定電話の近くにあると、とても便利な優れものではないでしょうか。
川月さんの作品は、形や機能だけで終わらず、更なる手間がかけてあります。
ペン立ての正面の木目は、真っ直ぐな柾目(まさめ)になっています。それはそれで綺麗なのですが、川月さんは、浮造り(うづくり)、という手法を用いて、硬いブラシで木の表面を削って、木の軟らかい部分をそぎ落とし、木目の固い部分を立体的に浮き上がらせています。そうすることで、楢の木独特の木目である、虎木目(とらもくめ)が出てきています。どのような虎木目が現れるかは、端材ひとつひとつ違ってきます。
こうして使われるあてのなかった端材は、川月さんと出会い、川月さんと対話することで、唯一無二の逸品に生まれ変わりました。
そんな、ペン立ては、とても誇らしげに見えます。
追伸
川月さんによるペン立ての新作が出ました。
どちらもナラの端材が用いられています。左側は、漆に、成羽町・吹屋の赤ベンガラを混ぜて塗ってあります。右側は、漆に、希少な黒ベンガラを混ぜて、拭き漆の技法で仕上げています。
どちらのペン立てにも、いわゆる、キズがあります。それらは端材であった証であり、おもしろみがあって、筆者にとってたまらなく魅力的です。
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