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珈琲二条小屋〜現代の「茶室」〜

世界文化遺産・国宝・二条城の南側の路地を歩いていたときのことです。海外からの旅行者と思われる集団が、次々に空き地の奥に吸い込まれて行きます。

着物を体験する教室でもあるのでしょうか?私も空き地に入り込んで近づいて行くと、廃屋の様な平屋の小さなカフェがありました。正方形の窓から、店内は海外からの旅行者で満員なのが見えました。日本人客はいないようです。気後れしてしまって、その場は去ることにしました。

夕方、気になってもう一度訪れてみると、客は誰もいません。

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背の低いドアを開けて入店すると、店内は3畳ほどの広さで、カウンターだけの立ち飲みスタイルのお店でした。

低いむき出しの屋根裏や、竹や藁がところどころ露出した土の壁が、ススで黒ずんでいます。往時には、薪で炊事していた庶民の家の台所だったのでしょう。ヴィンテージものの大型スピーカーからは、小音量でジャズが流れています。対照的に、キッチンとカウンターは真新しく清潔です。

マスターは、30代ぐらいでしょうか、寡黙で優しい人だったので安心できました。産地別のストレート・コーヒーを注文すると、その場で豆を挽いて、目の前のカウンターで、たっぷり山盛りの粉を直接、カップにハンド・ドリップしてくれます。

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カップに、なみなみと満たされた、いれたてのコーヒーを口に含むと、なめらかに滑るように口の中を流れます。流れには、清らかで不純物がなく、透明感が感じられます。味と香りが別々に分かれていなくて、味の中に香りがくるまれている感じです。飲み込むと、苦味がさっと去って、名残惜しい感情に包まれます。

全てが意外性に富み、非日常性に溢れた世界でした。まさに、現代の「茶室」と言える小宇宙です!海外からの旅行者もそこに惹かれて訪れたのでしょう。お店の名前は、「珈琲二条小屋」です。

(2019年11月9日撮影)


番外編

筆者は医療職なので、感染流行下、職場より県外への移動の自粛を要請されていました。ようやく流行が沈静化し、関西方面への移動が自由になったので、2年ぶりに京都へ向かいました。理由の一つは、珈琲二条小屋が今どうなってるか気にかかっていたからです。

京都地下鉄東西線、二条城前で下車し、路地裏に向かうと、駐車場の奥に以前と変わらぬ佇まいが見えます。

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店内は、オーディオ装置が新しくなった以外は変わりありません。装置のデザインは、以前のものが踏襲され、1960年代のジャズボーカルのレコードが流れています。そして以前と同じように、寡黙な店主がハンドドリップした、たっぷりのストレートコーヒーをいただけました。

古い空間の中に新しく作り込まれた世界ですが、コンセプトを維持し続けようとする気概を感じました。

(2021年11月6日)

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