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久保田寛子さんの人物画を通じて降臨したジャンヌ・エビュテルヌ母娘の情愛

久保田寛子さんは、山口県在住で、国内外において多くの賞を受賞した有力イラストレーターです。

画像は、久保田さんによるアクリル・ガッシュで描かれた人物画作品です。

久保田寛子・作 2023年 筆者・蔵

白い花に向かって祈りを捧げている人物に強い既視感を覚え、思を巡らせました。

人物は長い首となで肩に特徴があります。長く伸びた鼻筋と小さな口元にも記憶があります。

・・それは、筆者が居住する倉敷の大原美術館に所蔵されている「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」です。モディリアーニが恋人ジャンヌを描いた肖像画です。

アメデオ・モリディアーニ・作「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」1) 1919年 大原美術館・蔵

絵の中のジャンヌ・エビュテルヌは、成人した女性ですが、久保田さんの絵の人物は、少女の面影がありますので、年齢が違っています。

作者のモディリアーニは、1920年、35歳の時、結核性髄膜炎で病死します。その2日後に臨月のジャンヌは、実家の窓より身を投げて亡くなります 2)。

二人には、2歳の長女ジャンヌ・モディリアーニがいました。両親の死後、娘ジャンヌは、モディリアーニの親族に引き取られ、後に美術史家になって、両親の遍歴を辿り、「伝説なしのモディリアーニ」を著しています3)。

ジャンヌ・モリディアーニ 3) 32歳ごろ 

・・久保田さんが描いた少女は、この娘ジャンヌなのではないか?

母娘は面影がよく似ています。

母ジャンヌ・エビュテルヌが16歳の時のポートレイトとも顔の輪郭が似ています。

ジャンヌ・エビュテルヌ 4) 16歳

そうしてみると、この少女が祈りを捧げている一輪の花は、母ジャンヌを象徴しているのではないか・・。

久保田さんの人物画は、特定のモデルがいるわけではなく、イメージされた人物を即興的に描くのだそうです。
そうすると、100年の時空を越えて、母娘の情愛が久保田さんを通じて降臨したことになります。
オリエント山陽の榎本美恵さんのよる、唐草模様の少し灰色がかった紺色の額が、母娘の悲しみに寄り添います。

筆者の自宅マンションは、大原美術館から徒歩5分の距離にあり、母ジャンヌの化身と娘ジャンヌの化身とが、こんなにも近くに寄り添った奇蹟にびっくりしました。

引用画像・文献
1)大阪中之島美術館, 読売新聞大阪本社, 大阪読売サービス・編集、深谷克典, ケネス・ウェイン, 小川知子・執筆(有限会社フォンティーヌ, 飛鳥井雅友・翻訳):大阪中之島美術館 開館記念特別展 モディリアーニ~愛と創作に捧げた35年~. 読売新聞大阪本社, 2022. P120

2)1)P156-157

3)島本英明・著:もっと知りたいモディリアーニ生涯と作品. 東洋美術, 2021, P74-77

4)橋本治・宮下規久朗・著:モディリアーニの恋人. 新潮社, 2008, P56-73


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