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心の鎧を外して素で話せる人がいるのは幸せだという話

以前の仕事での「先生」が、出張で近くに来るということで、ついでに私に会いに来てくれた。せっかくだから顔を見て話したいと思ってくれていたらしい。

メンタルぶち壊れ休職期間も約2か月半経ち、この日は午後に産業医さんの面談を控えていた。復職許可が出れば来月から仕事をすることになるから、その前に仕事のモチベーション的存在である先生には会っておきたいと思っていた。

基本的に他の人も混ざってご飯に行ったり出かけたりするので、2人で話すことはあまり無いし、その時は他の人がしゃべっていることが多いから、2人で話すのはレアなのである。
だから、この人と自分のペースで落ち着いて話ができる時間は、約20分と短い時間でも貴重な時間だと思って、会ってもらうことにした。

ただ20分で何を話せばいいんだろうか、とりあえず今はだいぶ元気だということが伝わればいいんだけど、伝えられるんだろうかなあ、と前日の夜からずっと考えていた。

いざ駅で先生を待っていた時も、何をどう話すかは決まらないまま。
どうしようかなあ…。

とか考えていたら、いつの間にか約束の時間になってて、慌てて居場所を伝えようとスマホを手に取ったら目の前にいた。

速い、、この人混みの中で見つけるのが速すぎる。

「すみません、気づきませんでした…」
と言うと、
「ぼーっとしとったやろ」
と言われ、ちょっとからかわれてしまった。
推しが近づいてきたことに気づかないなんて、どんだけ私の脳は暑さにやられてるんだ、ちょっと悔しい。

あまり時間も無いので、駅ビル内のベンチで座って話をすることにした。外なので暑いかなと思ったけど、運良くそのときは日が陰ってくれて、ちょっと涼しい風も吹いていた。(昼過ぎにはそこ日差しカンカン照りで激熱だった)

とりあえず座って、「どうなん?」と聞かれる。
マスクしてたけど目からめっちゃくちゃ心配してるんだろうな、と伝わってきた。
私は、とりあえず大丈夫だということを伝えたくて、笑顔で答えた。
「とりあえずは、安定してきました。そろそろ働いても良いかな、と思ってます」
「そっかそっか」

そのあと、たぶん先生は私が話し始めるのを待ってくれていたのかもしれない。

私は、「素の姿」で話せる人がそんなに多くない。先生は、数少ない「素の姿」で話せる人である。先生はおそらくそんな私に気づいている。

いつも知らないうちに身に着けている心の鎧が外れていくのが分かる。

私は、つらつらと自分の事を話し始めた。

実際どんな感じでぶっ倒れたのか。何が原因だったのか。ああすればよかったのかも、とか。
あとは、本当にメンタルが落ちかけたときは飛び降りそうだったことも、旦那さんにもだいぶわがままを言ってしまって喧嘩してしまったことも、これからどうしたいのかも、いつの間にか素直に話すことができていた

自分の状況はLINEでは伝えていたとはいえ、文字で書くと一方的に話を送り付けてしまうことになるし、文字で起こすには重いこともたくさんあった。そもそも文字だと自分で話す内容がはっきり見えるから、また心の鎧をつけてしまう。

顔を見てリアクションを見ながらリアルタイムで話ができるのは、本当に安心できるなと思った。

もともと先生には、自分の思っていることとかを聞いてもらうことが多かったから、なんだかとても懐かしい。他に誰かいると、とりあえず元気なふりしてしまったり、テンション高いふりをしたり、取り繕ってしまう。

人数が多いところでは心の鎧をつけて取り繕ってしまう私だけど、2人で何か月もつきっきりで仕事を教えてもらっていた先生だったから、私の素の姿もたいていバレバレなのである。そして素の姿を知っていても私と関わってくれるから、安心して話すことができる。

先生は私の話を聞きながら、うなずいてくれて、たまにはツッコミを入れてくれて、笑顔になったりもしてくれて、やっぱり会って話して反応してもらえるのって、嬉しいなと思った。

そのあと私の話は落ち着いたので、先生に出張の話とか、最近どんな感じなのかを聞いてみた。そしたらまたいつもみたいに色々と話をしてくれる。頑張る後輩たちを見守っていることとか、仕事に対する考え方とか、あとあの穏やかな海のような雰囲気とか、本当に話を聞いているととても落ち着く。

あ~、こんな穏やかな人になれたらなあ。と何度思っただろう。

そんなこんなで、時間はあっという間に来てしまった。
「すみません、バタバタさせちゃって」
と言うと、先生は、笑顔で『いやいや、本当にいいのよ』と言うように首を振った。

20分くらいしか話してないけど、話したいことは全部話せたし、会って話せてすごく満足だった。素で会話できるのってすごく大事なことなんだなと改めて思う。
「じゃあ、、」と解散する感じのことは言われなかったので、ちょこっとついていってもいいのかなと思い、駅前広場の端っこまでついていくことにした。
でも、世間話がちょうど良く終わらなくて、結局出張先の近くまで人混みを歩きながら話した。

友人でも、先輩でも、後輩でもそうだけど、本当に居心地の良い人との別れ際は寂しくなる。

あっという間にビルの下に着いてしまった。

「じゃあ、ありがとうね、またね」
と笑顔で手を振ってくれる先生に、
「はい!お気をつけて!」
と私も返事をした。

見送ると寂しいので、すぐに振り返って歩き始める。

自分の素の姿だった私は、また知らないうちに心に鎧をつける。

自分にとって本当に本当に大事な人たちが、自分の素の姿を知ってくれていればそれでじゅうぶん幸せなことだから。

さっきまでの幸せが逃げないように、しっかりと自分の中に閉じ込めておこう。

そう思いながら、駅までの道を1人歩いていくのだった。

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