○ーさん

「ママ、プーさん」


娘のユカは今年で3歳になる。


最近ディズニーのDVDを見せているせいか、すっかりディズニーにはまってしまった。その中でも特にプーさんがお気に入りだ。


どこかへ出かけ、何かとクマのぬいぐるみやキャラクターを見かけては「プーさん」と言って指差した。


「わぁ、本当だね。プーさんだね」


今日も夕飯の買い出しついでに寄った、デパートの子供服売り場にあったクマさんTシャツを見つけ、はしゃいでいた。


「あ!ママ、あそこにもプーさんがいる!」


そう言って娘が指差す先にいたのはプーさんではなく、くたびれた感じのいかにも「中年」なレジ係の男だった。


「こら、指差しちゃだめ。プーさんじゃないでしょ」


私はすいません、とバツが悪そうに笑うと男も苦笑した。慌てて先ほどのクマさんTシャツを手に取り購入すると、そそくさと店を出た。






帰宅し、さっそく夕食の準備に取り掛かる。

私が家事の間はお決まりのDVDタイムだ。


今、娘が見ているのはいろんなディズニーキャラクターのお話の入った120分のオムニバス形式のものだ。


娘がディズニーに夢中になってくれているおかげで私は120分間集中して調理をする事ができる。


本当にDVD様様だ。





「ママー!プーさんだよー!」

リビングから娘の声がする。


「そうなの、よかったねー」

私は玉ねぎをみじん切りにしながら返事をする。





今日は給料日後なので奮発してハンバーグにした。娘の大好物だ。

シングルマザーになって半年、普段寂しい思いをさせている娘になるべく愛情のこもった料理を食べさせたい、と思っての事だった。




ひき肉を手早く捏ねて纏め、手のひらに打ち付けてぺたぺたと空気抜きをする。何度も作っているから手慣れたものだ。今ならお店を出せるかもしれない。



「マーマー、プーさんだよぉー」


「はいはい、プーさんね」


ちらと時計を確認する。

変だな、と思った。

プーさんは序盤にとっくに終わり、いつもならミッキーのお話のあたりのはずだが。


様子を見にいこうかとおもったが、今、手のひらはひき肉まみれだ。私は構わずひき肉をハートの形に成形し始めた。



数分後、上手いことハート型のハンバーグは仕上がり、あとは皿に盛り付けるだけになった。

私は手を洗って娘を呼びに行こうとした時だ。




「ママー!プーさんがきたー!」


「はいはい、今行くよ」





私は娘の言動に違和感を感じた。






ん?





今、〝プーさんが来た〟と言わなかったか?






ーーもう何を言ってるのよ、とリビングを覗いたその時だった。








昼間の中年の男がハンマーを持って窓から侵入して来ているのを目撃したのは。

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