フランスで国外退去命令を受けた日本人ワイン醸造家夫妻、ショウジ・ヒロフミとショウジ・リエはどうなったのか?
「人は悲劇を愛したがる」とは書籍『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』が世に伝えた人のサガである。生存の為には危険や恐怖への警戒心が強くなければならず、そのため脳は本能的にバッドニュースにより興味をそそられる。
とはいえ本能と心は別だ。癒しとハッピーエンドを見たい気持ちもそこにある。ニュースが刺激的な悲劇を語りがちで、その後に触れないと問題視されるのもその落差によるもの。
今回は、そんな「悲劇のニュースの語られていないその後」について。
初期の赤字を理由にフランスで国外退去命令
フランスで国外退去命令を受けた日本人ワイン醸造家夫妻、ショウジ・ヒロフミとショウジ・リエのニュースが2018年、ワイン界隈を中心に世界的に話題になった。
異国に移住してワイナリーを経営し、上質なワインを世界に送り出すにはまず最初に大きな投資が必要だ。なので優れた醸造家であってももちろん赤字から始まる。
この赤字を問題視し、財務状況が悪いことを理由に国外退去命令を出した、というのが事の発端だった。本当にワインが売れる見込みがなかったのなら仕方がない。しかしショウジ夫妻の作ったワインは当時既にフランスのワイン界隈で高い評価を受けていた。
この事態に、フランス国内に留まらず世界的に不当な決定だと異論が殺到。5万人以上の署名が集まることに。それでも当局の決定が覆るかは定かでない。果たしてフランスの、日本の、そして世界のワイン界に新たな景色を生むはずだった醸造家夫妻の運命はいかに。
――と、ここまででニュースは終わっている。
日本語記事では数ヶ月の滞在延長を認めた2018年の記事がメディアの記事としては最後で、フランス語でも判決に関するものは少ないそうである。
ただ、このニュースを呼んだのが2023年9月だったため、どうしてもその後が気になった。
二人はフランスに留まることができたのか。日本に帰国したのだとしても、何らかの新たな挑戦をしているのではないか。
そう思って検索を続けた。
日本人ワイン醸造家夫婦のその後
最初に見つけたのは、「エーグル」というサイトの記事だった。
どうやらフランスで暮らす人々のライフスタイルを紹介しているようで、ブーツなどのフランス系ファッションのECサイトも兼ねているようだ。
しかしこの記事、少なくとも目につく場所にはインタビューの年度がない。これは判決の前のことなのか、それとも後のことなのだろうか?
そうしてさらに調べ続け、辿り着いたのは「インスタグラム投稿のまとめページ」だった。
「Picuki」というこのサイトがまとめた「#庄司宏史」というタグの検索結果には、ショウジさんのワインに関する投稿がずらりと並んでいる。
いずれも、その豊かな味わいに魅了されているようだ。
その投稿の中の一つに、ショウジ夫妻のその後の略歴について語ったものがあった。
どうやら5万人の署名によって行政は「ワインのリリース後に財務状況を改めて審査する」と柔軟な決定を下し、結果無事ショウジ夫妻のワイナリーはその後も存続。
インスタグラムの日本語投稿だけでも2023年9月現在時点でほんの1ヶ月前のものもあることから、現在もフランスでワイン醸造家として活動を続け、日本国内のレストランにも輸入されるほど人気を博しているようだ。
バッドニュースほど人目を引き、そのまま時が経つと忘れ去られてしまうことも多い。だがその後も彼らの人生は続く。
その物語の主役となった人々の懸命な頑張りによって、悲劇は覆され、新たな未来が生まれていることもある。
そんな希望を改めて思い起こさせるニュースの「その後」であった。