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フランスで国外退去命令を受けた日本人ワイン醸造家夫妻、ショウジ・ヒロフミとショウジ・リエはどうなったのか?

 「人は悲劇を愛したがる」とは書籍『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』が世に伝えた人のサガである。生存の為には危険や恐怖への警戒心が強くなければならず、そのため脳は本能的にバッドニュースにより興味をそそられる。

 とはいえ本能と心は別だ。癒しとハッピーエンドを見たい気持ちもそこにある。ニュースが刺激的な悲劇を語りがちで、その後に触れないと問題視されるのもその落差によるもの。

 今回は、そんな「悲劇のニュースの語られていないその後」について。

初期の赤字を理由にフランスで国外退去命令

 フランスで国外退去命令を受けた日本人ワイン醸造家夫妻、ショウジ・ヒロフミとショウジ・リエのニュースが2018年、ワイン界隈を中心に世界的に話題になった。

 異国に移住してワイナリーを経営し、上質なワインを世界に送り出すにはまず最初に大きな投資が必要だ。なので優れた醸造家であってももちろん赤字から始まる。

 この赤字を問題視し、財務状況が悪いことを理由に国外退去命令を出した、というのが事の発端だった。本当にワインが売れる見込みがなかったのなら仕方がない。しかしショウジ夫妻の作ったワインは当時既にフランスのワイン界隈で高い評価を受けていた。

「行政の専門家は、二人のヴィンヤードが経済的に継続不可能だと主張しています。2018年ヴィンテージは既に75%が予約済みで、26万ユーロ(約3300万円)の収益が見込めるはずです。ショウジ夫婦は生活費や税金を全て支払った上で10万ユーロ(約1300万円)の貯蓄があり、さらに銀行から50万ユーロ(約6500万円)の融資を受けています。たとえ二人の作ったワインの値段がこれから上がっていったとしても、ショウジ夫婦のヴィンヤードは存続が不可能だと県は言い張っているのです。今回の事例は何もかもがめちゃくちゃです!」

2017年当時、ショウジ夫妻の弁護士を務めたJean Codognès氏の和訳コメント

 この事態に、フランス国内に留まらず世界的に不当な決定だと異論が殺到。5万人以上の署名が集まることに。それでも当局の決定が覆るかは定かでない。果たしてフランスの、日本の、そして世界のワイン界に新たな景色を生むはずだった醸造家夫妻の運命はいかに。

 ――と、ここまででニュースは終わっている。

 日本語記事では数ヶ月の滞在延長を認めた2018年の記事がメディアの記事としては最後で、フランス語でも判決に関するものは少ないそうである。

 ただ、このニュースを呼んだのが2023年9月だったため、どうしてもその後が気になった。

 二人はフランスに留まることができたのか。日本に帰国したのだとしても、何らかの新たな挑戦をしているのではないか。
 そう思って検索を続けた。

日本人ワイン醸造家夫婦のその後

 最初に見つけたのは、「エーグル」というサイトの記事だった。
 どうやらフランスで暮らす人々のライフスタイルを紹介しているようで、ブーツなどのフランス系ファッションのECサイトも兼ねているようだ。

夫妻について書かれた記事

 しかしこの記事、少なくとも目につく場所にはインタビューの年度がない。これは判決の前のことなのか、それとも後のことなのだろうか?

 そうしてさらに調べ続け、辿り着いたのは「インスタグラム投稿のまとめページ」だった。

 「Picuki」というこのサイトがまとめた「#庄司宏史」というタグの検索結果には、ショウジさんのワインに関する投稿がずらりと並んでいる。
 いずれも、その豊かな味わいに魅了されているようだ。

インスタグラムの「#庄司宏史」タグの投稿

  その投稿の中の一つに、ショウジ夫妻のその後の略歴について語ったものがあった。

ショウジ夫妻のその後の略歴について触れた投稿

先日、二番通り酒店さんへ伺ったときに見付けたドメーヌ、ペドネス・ブランケス(カタルーニャ語で「白い岩」の意味)。 南仏バニュルスで自然派ワイン造りに励む、庄司宏史・里恵夫妻のワイン。

数年前、運営資金の不足を理由に、フランス行政から在留資格を剥奪され、国外退去命令を受けたドメーヌである。 しかし、行政のこの決定は、多くの人々の非難と同情を集める。
「この決定は、ワイン業界にとって大きな損失である」と、約5万人に及ぶ支援者が、退去命令撤回の署名を行政に提出。 結果、在留資格は延長され、ワインのリリース後に財務状況を再調査する、という判決が下る。

その後、庄司夫妻はドメーヌの経営を安定させ、現在もバニュルスでワインを造り続けているとのこと。 本当に良いもの・良い仕事は、必ず評価され、手を差しのべてくれる人がいる。
たとえ、人種や国が違えども。 大切なのは、真摯であること。

祖国を離れ、遠い異邦の地で、それを証明した庄司夫妻のワイン。 いつか飲んでみたいと思っていた。 が、しかし、残念ながら売り切れとのこと…😢。 …まあ、仕方ないよね。
…と、思っていたら、ばんなちゅのますたーから、 「今週は、これからいくよー🍷」のお知らせ👀。 おおおっ!、!!( ; ロ)゚ ゚、 まさに今、オイラが飲みたいやーつ❗️✨。 さすがはマスター! (後略)

 どうやら5万人の署名によって行政は「ワインのリリース後に財務状況を改めて審査する」と柔軟な決定を下し、結果無事ショウジ夫妻のワイナリーはその後も存続。

「エーグル」に掲載された、南フランスのバニュルスでワイン醸造を営む
ショウジ夫妻のインタビュー写真

 インスタグラムの日本語投稿だけでも2023年9月現在時点でほんの1ヶ月前のものもあることから、現在もフランスでワイン醸造家として活動を続け、日本国内のレストランにも輸入されるほど人気を博しているようだ。

 バッドニュースほど人目を引き、そのまま時が経つと忘れ去られてしまうことも多い。だがその後も彼らの人生は続く。

 その物語の主役となった人々の懸命な頑張りによって、悲劇は覆され、新たな未来が生まれていることもある。
 そんな希望を改めて思い起こさせるニュースの「その後」であった。

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