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なぜかけ算を先に計算するのか【算数】

なぜかけ算を先に計算するのか

はじめに

$${10-3 \times 2}$$ という式を見たときに、
$${10-3 = 7}$$ を計算して、$${7 \times 2=14}$$、だから答えは$${14}$$ 、という間違いをしてしまう人、いると思います。
実際は、$${3 \times 2=6}$$を先に計算して、
$${10-6=4}$$
だから答えは$${4}$$とするのが正解です。
ただ、子供のころに四則演算を習った場合、直感的に「左のほうから順番に計算して何がいけないの?」という疑問を持ったことはないでしょうか。あるいは「かけ算が先なのは皆が守るべきルールで、それに従うのは当然だ」と、理由を深く考えずに従っている方も多いと思います。
今回、自分なりにその理由を深くツッコんでいくことにしました。

結論

「かけ算をたし算より先に計算する」というルールを認めなくても
算数・数学的に大きな間違いにはなりません。 
しかし、かけ算を先に計算しないと、式の書きかたが難しく、世の中にそれをやっている人がほぼいないので、
どちらかといえばやらない方が良いです。


かけ算をたし算より先にしないルールとは

かけ算をたし算より優先しないルールには2通りあり、
左から順番に計算する
たし算をかけ算よりも先に計算する
が考えられます。

左から順番 に計算する場合、
$${2 \times 5-2 \times 3}$$
の値は、
$${2 \times 5=10}$$
$${10-2=8}$$
$${8 \times 3=24}$$
と計算します。

たし算をかけ算よりも先 の場合、
$${2 \times 5-2 \times 3}$$
$${=2 \times (5-2) \times 3}$$
$${=2 \times 3 \times 3}$$
$${=6 \times 3}$$
$${=18}$$
と計算します。

なお、どの計算ルールでも、「カッコ()の中身は先に計算する」というルールは常に正しいとします。

左から順番に計算するルール

左から順番に計算するルールの良い点

左から順番に計算するルール(以下、左から順番ルール)、実は実用例があります。それは単純な電卓です。
左から順番ルールでの「$${2 \times 5-2 \times 3}$$」、つまり通常ルールでの
「$${(2 \times 5)-2) \times 3}$$」を電卓で計算したければ、
「2」「×」「5」「-」「2」「×」「3」
のキーを順番に押せば良いです。単純明快ですね。

また、計算の順序がわかりやすいという良い点もあります。カッコさえなければ、計算するのに式を右往左往することが少なくなります。かけ算を習いたてなら、こちらのほうが直感的に感じる人もいるかもしれませんね。

式の表記のルールが変わったからといって、特に算数・数学的に矛盾するようなルールではないのも良い点と言えるでしょう。左から順番に計算をするというルールだけでは、
$${1=2}$$を導出するまでの矛盾は導けません。

左から順番に計算するルールの悪い点

今後、かけ算の記号×は省略して書かず、はっきりと書くこととします。指数の記号はそのまま使います。

悪い点として、式を書くときにカッコが多くなります。例えば、通常ルールでの
$${2 \times x + 3 \times y}$$
のことを、左から順番ルールでは、
$${2 \times x + (3 \times y)}$$
とわざわざカッコを足さなければなりません。

高校数学でよく使われる2次多項式を書きたい場合、
通常ルールでの
$${2 \times x^2 + 3 \times x + 1}$$
のことを、左から順番ルールでは
$${(2 \times x^2) + (3 \times x) + 1}$$
と書かざるを得ません。

また、式の見た目がややこしいです。
左から順番ルールでは
$${(2 \times 4) + 3 \times 5}$$と$${2 \times 4 + (3 \times 5)}$$
の計算結果は変わります。前者は120で後者は23ですね。
間違えないようにより丁寧に式を書く必要が出てきます。

また、数式の中でかけ算の左右を入れ替える、
交換法則を使うのも難しくなります。例えば、
左から順番に書くルールでは
$${2 \times 5 - 2 \times 3 = (10 - 2) \times 3 = 24}$$
となりますが、まるで通常ルールのように$${2 \times 3}$$を$${3 \times 2}$$と入れ替えると、
$${2 \times 5 - 3 \times 2 = (10 - 3) \times 2 = 14}$$
となるように、結果が変わってきてしまいます。

分配法則も同様に、
通常ルールでは
$${(10 - 2) \times 3 = 10 \times 3 - 2 \times 3}$$
と書けるところを、左から順番ルールでは
$${(10 - 2) \times 3 = 10 \times 3 - (2 \times 3)}$$
と、ひとつカッコを多く書かなければなりません。

小学校低〜中学年の、かけ算を初めて習った時点では、まだ方程式や交換法則・分配法則を習っていないので、これらのデメリットには気づきにくいでしょう。丁寧に着実に教える必要があると思います。

なにより、こんな難しいルールを採用しているテキストや教科書はまず存在しません。今後の勉強を便利にするためにも、左から順番に計算を行うルールは使わないほうが良いでしょう。

たし算をかけ算よりも先に計算するルール

通常の計算ルールでは、かけ算の記号を$${×}$$ではなく点$${・}$$と書いたり、かけ算の記号そのものを省略した記法をします。
もし、たし算のほうがかけ算よりも優先度が高く、重要度が高い世界が存在するとするならば、
たし算の記号$${+}$$を省略して書くことになるだろう、という考察を別の方がされていました。

参考:

たし算をかけ算よりも先に計算することのメリットというよりも、
たし算の記号を省略する記法にメリットがあります。

たし算をかけ算よりも先に計算するルールの良い点

たし算の記号$${+}$$を省略する記法は我々の算数のルールにも一応存在します。それは帯分数です。
小学校の算数では、
$${1  1/2}$$を「1と2分の1」と読み、
$${1 + 1/2}$$の意味となります。

中学以降の数学で帯分数を使うことはまずありませんが、帯分数を実生活で使う場面は一応あり、
競馬の「$${2  1/2}$$馬身差」や、アメリカで家具のサイズを表すときの"$${56  1/2}$$ inch" などの表記が実際に存在します。
この帯分数との整合性が取れるのも、たし算の記号を省略する良い点だと思います。

帯分数 "56 1/2" の実用例

足し算が多数出てくるがかけ算をあまり使わない局面では、たし算の記号を省略するほうが良い、という場面もあるかもしれません。

たし算をかけ算よりも先に計算するルールの悪い点

たし算をかけ算よりも先に計算するルール(略してたし算優先ルール)において、今後、たし算の記号$${+}$$を省略して書きます。

たし算優先ルールの悪い点は、左から順番ルールの悪い点とだいたい一緒です。

例えば連立方程式の場合、
通常ルールでの$${2x + 3y}$$のことを、
たし算優先ルールでは、
$${(2 \times x)(3 \times y)}$$
と書かないといけません。+を書かなくて良いぶん、かけ算の記号とカッコが増えてしまいましたね。

多項式も、通常ルールでの $${2x^2 + 3x + 1}$$ のことを、たし算優先ルールでは、
$${(2 \times x^2)(3 \times x)1}$$
と書かなくてはなりません。

交換法則の欠点は、先述の
$${2 \times 5 - 2 \times 3}$$ の$${2 \times 3}$$を$${3 \times 2}$$と入れ替えると結果が変わる話とだいたい同じです。

分配法則は、通常ルールでは
$${(10 - 2) \times 3 = 10 \times 3 - 2 \times 3}$$
と書けるところを、たし算優先ルールでは
$${(10 - 2) \times 3 = (10 \times 3) - (2 \times 3)}$$
と、ふたつカッコを多く書かなければなりません。ひどいですね。

悪い点の克服方法

かけ算をたし算よりも先に計算しないルールを2通り紹介しましたが、これらの表記の難しさを一気に解決するルールがあります。
それは、「かけ算には常にカッコ()をつける」ことです。

式の画数は増えますが、交換法則をすんなり使えるようになります。
左から順番ルールと、たし算優先ルールの両方で、
$${2 \times 5 - 2 \times 3}$$
の$${2 \times 3}$$を$${3 \times 2}$$にしても式の答えが変わらないようにしたければ、最初から
$${(2 \times 5) - (2 \times 3)}$$
と書いておけば、
$${(2 \times 5) - (3 \times 2)}$$にしようが、
$${(5 \times 2) - (2 \times 3)}$$にしようが、
答えが4で変わりません。便利ですね!

それでもカッコを書く数が多いので、いっそのこと、カッコは書かなくても、かけ算はたし算よりも先に計算する、と考えれば手間も省けますね!

………ということで、かけ算をたし算よりも先に計算するルールはとても優れていることがわかりました。めでたしめでたし。

別の説を紹介

おまけとして、たし算かけ算の優先度の問題に、他の理由づけがあったので紹介します。

かけ算はたし算の繰り返しだから、かけ算を先にやるべき説

算数におけるかけ算は、例えば「$${3 \times 4}$$」なら、
$${3+3+3+3}$$ とみなし、値は$${12}$$と計算する、という教え方があります。あるいは$${4+4+4}$$と考えることもあると思います。

このように、「かけ算はたし算の集合体なのだから、かけ算はたし算より優先するべきである」という主張をネットで発見しました。
元の演算$${+}$$を何回も行う演算$${×}$$を新しく用意した場合に、それは元の演算$${+}$$よりも優先するべきである、というのです。
果たしてこれは正しいのでしょうか?

筆者なりの意見

この説明は結論こそ正しいですが、説明としては間違っていると考えられます。
そもそも、たし算自体が、「1を足す」(次の数を数える)という操作の集合体と考えることができます。
たとえば$${2+3}$$は、丁寧に書けば
$${((2+1)+1)+1}$$
と表記できます。
1を3回足す、それを略して+3と書くわけですね。
さて、
$${2+1+3+3}$$
という式を見た場合、「1を足す」という操作と、「3を足す」という操作は、どちらが優先度が高いでしょうか?
もし、元の演算($${+1}$$)を何回も行う演算($${+3}$$)を新しく用意した場合に、それは元の演算($${+1}$$)よりも優先するべきである、と考える説が正しければ、$${+3}$$のほうが優先されるべきですよね。
でも実際は、$${2+1+3+3}$$のことを、
$${2+(1+3)+3}$$や、
$${2+1+(3+3)}$$
のカッコ内の部分を先に計算しようと思う人は、それほどいないと思います。$${+1}$$と$${+3}$$の優先度は全く同じで、左から順番に計算しますよね。
したがって、この説明は不十分と考えられます。

むすび

なぜ、かけ算をたし算よりも先に計算するのか、という問題は、「実際にそうしてみると式が書きづらくなるし、不便なのでほとんどの人がそうしてないから」という、実利的な説明のほうが正確だと思います。皆さんも算数を誰かに教える機会があったらぜひそう教えてあげてくださいね。

サムネ画像の出典


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