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ネズミとの約束

 仕事でずっとパソコンに向かう毎日を送る僕だけれど、日々のワクワクを大切にしながら生きている。例えば今日は、麻婆豆腐を作って食べることや、昨日生まれたばかりのネズミが家で待っていること。
 ネズミは、正面から見ると不格好で、ちっぽけで頼りない僕に似た、小さなぬいぐるみのことだ。

 僕は、僕のことだけを考えて、毎日待っていてくれる存在が欲しくて、ネズミを作った。仕事が大変だったとしても、「家に帰ればネズミがいる!」と思えば頑張れるし、ネズミに会うことが楽しみになる。ネズミは僕に生み出された、とびきり可愛らしくて特別な存在だ。そんなネズミが僕を待っていてくれる。僕に会いたくて、僕のことを考えて家で待っていてくれる。

 もちろん仕事は楽しいけれど、日々にはメリハリというものが必要だ。僕がネズミのことを考えるみたいに、小さなワクワクを積み重ねること、それが何気ない日々を心躍る思い出に変えてくれるんだと僕は思う。
 なんでもいいから、少しでもあたたかな心の動きを感じるものを見つけて、そのために何かをやると決める。あれこれと寄り道はしたって構わないけど、必ず決めたことはやる。そこで重要なのは、仕事が忙しいから…もっとやるべきことがある…など理由を付けてはいけないことだ。先延ばしにしても良いけれど、にいつまで経ってもネズミに出会えなかったかもしれないと思うと、やはり早い方がいい。

 心踊るものが何であるか、人それぞれだと思うけれど、僕にとっては、安心と癒しをくれる友達だった。
 ネズミは僕の空想の具現化だ。他の人間に侵害されることもないし、誰にも否定できない。揺るぎない絆で結ばれたネズミだ。だから最も信頼できる存在だし、何かしてくれるわけではないけれど、僕が失くさない限り、そこに居てくれる。どんな季節でも、どんな気持ちの時でも、何処で誰と居ても、変わらない存在というのは落ち着く。
 ネズミのとぼけた顔を見るとなんだか癒されて、「この子、僕が作ったんだよなぁ」とか思って、あたたかな気持ちになる。生まれたばかりのネズミはこの世界を見渡して、僕の周りをちょこまかと動き回ったりする。時々他愛のない僕の話を聞いて、首を傾げたり、なんとなく理解したりする。

 人間はいつかは独りになる。でも、僕にはネズミがいる。

(ネズミのことは、「雨の日のネズミ」に書いています。)

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