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「売れシネマ撮ろう」

最近、最近、海辺で小さなカメラを大勢で囲んでいる大人達が居ました。
たまたまそこを通りかかった地元の青年は遠くから不審だなあと思いながら見ていると、大人達の中心に居た1人が青年を指さしました。

中心に居たのとは別の大人が青年に近づき、青年に映画に出演してもらいたいとスカウトしました。彼らは映画監督とそのスタッフ達でした。

この海辺の町には元大型リゾート施設の廃墟があり、監督はそこをメインの撮影場所としていました。流されるままに青年は演者として映画を作る人達の一員となりました。

監督はヒロインも青年同様に同じ町でピンとくる女性を見つけてスカウトしました。青年も女性も最初は何となく興味本位のボランティア程度の気持ちでしたが、監督に感化されて映画作りの魅力にハマっていきました。

平らな平屋で舞い踊り、白いスモークを焚く演出も行いました。
体感では数ヶ月ぐらいの気持ちでしたが、映画を撮り始めてから数年の時が過ぎていました。

監督は売れる映画を撮りたいと思う反面、自分が納得したものを、芯が通ったものを撮りたい、という気持ちがあり、いつも自分を押し殺して売れる大衆向けの映画を作っていました。

結果を残しても好きに出来るわけでもなく、次なる結果を求められてしまいます。それでも、自分の通せるワガママを実績を重ねて少しずつ増やしていきました。

知名度の高い芸能人の起用は極力控えるが角が立たないように何人かは起用し、過剰な宣伝は行わないもののSNSはそこそこ活用し、スポンサーにも配慮し、誇りと妥協、しがらみとこだわりを抱えて、ついに映画が公開されました。

大ヒットとはいきませんでしたが、監督は今までで一番満足し、青年と女性が役者としてブレイクするきっかけになりました。

映画マニアの間では絵には描けても中々映像化出来るものではないと、高く評価されました。

END

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