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愛しの野良猫2 【作ぺんぎん/編集くらげ】


「私はTOYOTAの86に乗ってるのよね。キャンプには、さすがに乗って行かないけど。ほら榛名湖から近いでしょ?よく86で峠攻めたりするのよ。」
「へぇ……凄いですね!店長はどんなキャンプが多いですか?」
「そうだな?まぁ、だいたい冬にキャンプが多いかな?虫居ないし。ほかのキャンパー少ないから。キャンプって言っても……つまみ作って酒飲んでが多いか……」
「そうなんですね!ぜひ今度一緒に連れてってくださいね!」
「仕方ないな〜うさぎは、可愛いから連れてってあげるよ。」
 結月は、いつも一生懸命頑張っていた。私が厳しく指導をしても涙を流すことはない。それどころか、ここはどうしたらいいのか?とか、もっと伝えられたかもしれないとか……とにかく夢中なのだ。
 結月が、少し慣れた頃に歓迎会が近くの居酒屋で行われた。

「まずは、改めて自己紹介からな」
 それぞれが改めて自己紹介をして最後は、主役の結月の番になった。
「兎姫 結月です。まだキャンプ初心者ですが、お店の名前が好きすぎて。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
 このお店のメンツときたら、結月が来たことが嬉しいのかそれぞれ、どんな気持ちで働いてるかとか語っていた。成瀬は、いつかキャンプギアメーカーを作ること。西田は、いつかこの店の支店を出したいらしい。いちばん若い一ノ瀬はデザイナーとしてキャンプに関わる仕事がしたいという野望があった。
「……で、うさぎは?」
「私は……いつかキャンプ場の近くでゲストハウスをやりたいな〜って……キャンプには抵抗あるけど、興味あるって人の受け皿になれる場所を作ってみたいです!」
「……あははっ!いいね!うちの子達は夢があって!頑張れよ!」
 この飲み会で、改めていい子達が集まった事を実感した。何よりも、結月は死別した妹と雰囲気が似ていた。大きくてキラキラした瞳……ころころと変わる表情……そして諦めないところが。一段と気になる存在になってしまった。
 だからこそ、近づき過ぎないと決めていたのに……。結月が、いつも来るクレーマーに捕まっているのが見えた。キャンプギアオタクで、新人を見つけては質問攻めにして答えられないと、そんなことも知らないのか?って怒鳴りつける厄介な客だ。
「朱音さん……助けなくていいの?」
「瑠花……もうちょっと様子見てみよう。」
 心配そうな瑠花の気持ちは痛いほどわかる。ここで助けるのは簡単だ。もう少しだけ……そんな事を考えてると、ふと嫌な記憶が蘇った。あの客のせいで大事に育てていた新人が辞めていった事を。やばい!このままじゃ……うさぎも辞めてしまうかもしれない!そう思った瞬間に、うさぎとクレーマーの間に割って入った。
「お客様……どうされましたか?……この子まだ新人なんですよ……いじめないでくださいね。分からないことは私がお答えしますので……」
そう言うと、クレーマーは去っていった。
「うさぎ……知識も大切なんだよ。私がちゃんと教えるから、慌てなくていいから」
 つい、頭を撫でてしまいそうな手を慌ててしまった。
「はい!……店長!」
 それからと言うと毎日仕事終わりに30分だけ商品の細かい概要や使い方などを丁寧に教えた。結月は、勉強熱心で前の日に教えた事で質問があると、こちらが呆れるくらいに色々聞いてきた。
 結月の事を知れば知る程、この子を育てたい……できるなら店長に……でもこの子には夢があるしな……なんて考えるようになっていた。この子の可能性は本物だと思った。
「うさぎちゃん……最近ずーっと店長の事、見てるっすね!」
「成瀬でもわかるんだ……。この前……店長ってカッコイイですよね!なんか、ロックバンドのギターみたいな感じで!って言ってたからね……」
「瑠花さん!なんすか!その可愛い展開……」
「でしょ?本人たちは気づいてないんだろうけどね」
「ほら、あんた達……動きな!」
私は、つくづく思うことがある。この店の子達と和気あいあいと仕事をするのが好きだ。だけど……何故か寂しかった。 
 16から大好きなアウトドアショップでバイトして……20になる頃には自分の店を持っようになっていた。長年……仕事が恋人みたいな生活だった。仕事には恵まれていて不満はないが、どこか満たされない自分がいた。
 そんな時、昔の劇団仲間で私の想い人の圭矢から飲みに誘われた。高校の時からの中で若い時は
走り屋仲間だった。夜も遅いのもあって店ではなく圭矢の家での飲みだった。まぁ、昔もよく宅飲みしていたが……何も起きない関係だった。
 圭矢の家に着くとカスタムされてる86が目に入った。あぁ……まだ乗ってるのかと思いながら隣に停めて家を尋ねた。
「圭矢‼️来たよ……」
「よっ!朱音!久しぶり……」
「全くだよ。突然だったからコンビニで少ししか買ってないよ?」
「構わんて……ほら座れよ」
「で?最近どうなの?」
「俺は、まぁ……不動産会社で営業頑張ってるよ……朱音は?」
「私は……相変わらず。細々とやってるよ。でも、可愛い新人が入ってきて毎日楽しいかな。その子……ちょっと似てるんだよ。妹にさ……」
「へぇ……朱音は、その子が好きなんだろ?」
「はぁ?そんな訳ないない!だって女の子だよ?」
「そうは……見えねぇけど。なら俺のものになっちまうか?」
 そう言うと、強引に唇を奪われてしまった。酒の力もあって身体も許してしまった。
「おはよう!圭矢……昨日は……その……酔ってたんだよね?」
「うるせぇよ……お前は俺のって事だよ。何度も言わせるなよ。」
ずーっと恋焦がれてた……圭矢と恋人になった瞬間だった。嬉しいはずなのに、何故か心に穴が空いてるような。虚しさに襲われた……。幸せなはず何に。きっと幸せすぎるんだ……と思う事にした。そうじゃないと壊れそうだったから……。
 月日が流れてよく晴れた日のこと。圭矢と付き合い初めて1ヶ月が過ぎようとしていた……いつも通り2人で彼と86を洗車していると、従業員の結月が顔を出した。
「店長……あっ!彼氏さんですか?」
「よっ!たしか……結月ちゃんだっけ?朱音から聞いてるよ。」
「うさぎちゃん……どうかした?」
「あの……売り場のことで悩んでて……」
「わかった……圭矢……夜連絡するわ。」
「了解……またな……俺はもう少し洗車したら帰るわ。」
「わるいね……うさぎちゃん。いまいくわ。」
 店舗に行くと結月が、キャンプ椅子を広げたりとレイアウトに悩んでた。普段キャンプになれてない結月がテントを立てようとして苦戦してた。
 その姿が数年前に失った妹に重なり、心にくるもんがあった。
「ほら……うさぎちゃん。テント一緒に立てるよ」
「朱音さん。疲れてるでしょ?私が手伝いますよ」
「悪い……瑠花……頼むわ」
 そんな、2人を眺めてると微笑ましかった。瑠花は本当に面倒見が良くて、結月も頼りにしている。私と違って結月を押さえつける事はない。結月がミスをしても、どうしてそうなったのか確認をする。そんな姿を見ると感謝しかない。
 

 

 

 
  
  
  

  
 

 
 

 
 

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