私が倒れてから10日が過ぎた頃に凪が店に乗り込んできた。
 「凪……いらっしゃい。凪キャンプとかするんだっけ?」
 「ちげーよ!朱音……倒れたって聞いたからよ……お前大丈夫か?だいたい無理しすぎなんだよ!」
 「なんだそんなことか……」
 「そんなことじゃねーよ。心配するだろうが!瑠花から聞かされなかったら俺気づけなかっただろ?瑠花こいつ少し借りてくぞ」
 「凪先輩……どうぞ!店長今日は早退でいいから。お疲れ様でした。」
 まったく瑠花の奴……って思ってると凪の車に乗せられカフェへ向かった。いつも適当なTシャツとGパン姿しか知らないせいかスーツ姿の凪にドキドキしてしまった。凪と席に着くとすぐにネクタイを緩めながら話し始めた。
 「朱音……無理しすぎなんだよ。まったく……朱音って一人暮らしだろ?店で倒れたから、まだいいけど家で倒れたら大変なんだぞ?わかってるのか?」
 「わかってるって……そんな心配しなくても平気だよ。心配しすぎだって。」
 「そうは、言ってもな……今度何かあったら心配だしな……朱音……俺と住むか?部屋余ってるし。これでもいい部屋住んでるんだぜ?」
 「えっ!いいよ……」
 「うるせぇ!俺が心配だから来いよ!今度の休みに引っ越しな!やべ!クライアントの所いかなきゃ!朱音……荷造りしとけよ!」
 まったく……凪め。勝手なんだから……でもなぜか嬉しかった。あの凪と同棲か……なんか不思議だな。荷造りか……帰ったらやるかな。家に着き荷造りしていると気が付けば夜になっていた。すると瑠花から電話が来た……。
 「姉さん。お疲れ様です!今、大丈夫ですか?」
 「なんだよ……瑠花。お前……言っただろ。凪に……まったく……同棲することになったじゃないか……」
 「よかったじゃないですか。凪さんと同棲とか楽しみですね……」
 「まぁな……瑠花……明日……仕事終わったら荷造り手伝いに来いよ?」
 「いいですよ!成瀬と行きますね。姉さん……お休みなさい。」
 瑠花に文句を言いつつも内心少し、心が弾んでしまう。明日、瑠花達にばれない様に気を引き締めた。毎日のように瑠花や成瀬に手伝ってもらいながら引っ越しの準備をした。瑠花には、浮かれてること……気づかれなかったのに成瀬には気づかれて言われてしまった。
 「店長って……本当に凪さんのこと好きっすよね。口角上がってますよ!」
 って……慌てて口元押さえたがもう遅かった……。
 「店長も可愛いところあるんですね!心配しないでください。瑠花には内緒にしますんで……」
 にやりとした笑顔を向けながら瑠花のもとに行ってしまった。そんなことがありながらも荷造りが終わった……。家具家電は凪の家にあるからすべて処分した……改めて部屋を見渡すと長年住んでいた為か少し切ない気持ちになった。そっと柱を撫でて小さく囁いた……今まで、ありがとう……。決して豪華でもない普通の1Kの部屋に別れを告げた。外に出ると凪がすでに来ていた。まるで実家から嫁ぐ嫁の気分のような不思議な感覚を覚えた。凪の後を愛車の86で追いかけた。いつもの景色が華やいで見えたこんなにも浮かれている自分に驚いた。しばらく走ると凪のマンションに着いた。この辺でもちょっと有名な高級マンションでワンフロアに1部屋のみという贅沢なつくりだ。凪の部屋は8階建ての8階だったはず……改めて部屋に入ると広さに驚いてしまう。
 「朱音?どうした?早く来いよ!」
 「改めて見るとすごいなぁ……って」
 「そっか?そんなことねーと思うけど、寝室は一緒でいいんだろ?寝室はここで……朱音の部屋はここ使って荷物ってこれだけか?」
 「ほとんど、凪の家に揃ってるからね」
 「確かにな!でも食器はさすがに足らねぇか……買いに行くか!朱音の部屋に必要な家具もあるだろう?」
 「悪いよ……自分で買うよ……」
 「いいから、任せておけって」
 強引な凪に言い負かされて二人でインテリアショップに来た。中に入ると目移りしてしまう。これから凪との生活が始まるんだと改めて認識した。いつもなら、隣を歩くのになぜか少し後ろを歩いてしまう。そんな私を見かねて凪は大きな手を差し出し手を強引に握った……。
 「朱音!何が必要なんだ?」
 「あっ!そうだな……机と椅子……後はソファーかな?クローゼットあるから収納は大丈夫だろうし……」
 二人で、悩みながら家具を決めたり食器を買ったりして、まるで昔の時間を埋めるように楽しんだ。二人の生活は気を遣わないものだった。家事が苦手な私の代わりに料理は凪が作り、外食は私がお金を出していた。掃除は業者にお願いしていた。これは、凪の提案でそうなった……掃除が苦手な二人ではいつになっても掃除が終わらない。でも、キレイを諦めきれなかったのだ。

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