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軽率に、たびに出よう Vol.1「軽率に南魚沼市にいって三国峠で泣いた」

旅行は嫌いだと思っていた。車を運転するようになる前までは。今ではどうだ。毎月「どこかに旅行に行きたい」と言っている。もうひとりの自分は「なんなのだその一年足らずでの変心は」とあざ笑うのだけど、どこまでも広がる海・抜けるような青空・緑や紅葉に映え山・のんびり入る温泉・地元のうまい飯と酒を時折摂取しないと精神的に落ち込むようになってしまった。まぁ、妻に言わせると「もともとひねくれてる性格が旅をすると時々正気に戻って、現世に帰ってくるとまた歪むんだよ」ということらしいのだが。

そもそも、電車での旅行とはめんどくさい。自分自身や妻の体調や精神状態が安定しない場合は、とくにそうだ。ルートを検索して、予約して、荷造りして、駅まで行く、というだけでも大イベントで現地についても体調が悪くならないかとか、妻がパニックを起こしたらどうしようとか、そういうことを気にして楽しむことが難しくなる。妻がてんかんが起きて倒れたりすることもあるから、なおさらだ。一人旅をしても妻が家で大丈夫なのだろうかと気になってくつろげない。だから、旅行は自分の人生とはあまり縁のないものだと思っていた。

昨年の夏頃から、妻の病状が悪化して通院の回数が多くなり、やむにやまれずカーシェアサービスに登録しておっかなびっくり運転するようになった。それから少しずつ移動距離を増やしていったのだけど、昨年の10月にGo To キャンペーンを使ってはじめて房総半島の方にドライブ旅行というものにでかけた。そうしたら、なにかに「開眼」してしまった。

それ以来、機会(と金の余裕)を見つけては関東一円に出かけるようになった。今年の2月には中古の軽バンを買ってしまった。ローンや駐車場料金を払うために四苦八苦しているのだけど、後悔はしていない。

車での二人旅は気楽だ。軽率に目的地を決めて、ウェブで宿を予約して、あとは車に最低限の荷物を突っ込めばそれで準備完了だ。周りの目もあんまり気にすることなく、自由気ままに移動できる。途中で体調が悪くなるなら、引き換えしても構わない。どうも、旅行が嫌いだったのではなく、電車や他人の都合に合わせて動くのが苦手だっただけのようだ。今はほぼ完全に家で引きこもって仕事をしている自営業なので、行こうと思えば思い立った日にすぐにいける。そういう「軽率なたび」をするために今は生きていると言っても過言ではない。

これまでは緊急事態宣言もあってなかなか「旅行に行きました」ということも言いにくかったのだけど、どうにかコロナの感染者数も激減して、緊急事態宣言も落ち着いた。そこで、「軽率に、たびに出よう」ということでちょっと簡単な手記を書くことにしたいと思う。

さて、今回行ったのは南魚沼市にある「塩沢江戸川荘」というところだ。

特に目的があったわけでもないのだけど、「そろそろ精神的に不穏になりそうなのでどこか行きたい」とうめいていたら、妻から「江戸川区民だったら安く泊まれるホテルがあるよ」と教えてもらったのがここだった。

本当なら紅葉の季節が狙いめなのだろうけど、めちゃくちゃ安いし、それほど混まない間に行ってみたかったのでその場で宿の予約を取ってしまった。到着時間以外の下調べも特にしなかったが、まぁ、それが軽率なたびの強みだ。先々でなにか起きたらそれはそれで楽しんでおけばいい。

出発当日はあいにくの大雨だった。 家を出た時点でワイパーを早く動かさないと視界が曇るほどで、高速に入るとますます視界が悪くなってきた。一度引き返そうかとも思ったけど、三郷ICを超えた頃から少しずつ雨が弱まってきた。更に北上して関越自動車道に入ると、雲の切れ間がピンクと青のグラデーションになった空が広がってきて雨がすっかり止み、青空が広がってきた。こういう空を見るのは大好きだ。

10時くらいに自宅を出発して12時過ぎくらいにどこかのサービスエリアで朝食を食べる予定だったのだけど、ちょうどいい具合に赤城高原というサービスエリアに到着した。なにげに群馬に降りるのは初めてだった。

何を食べようかと思ったら、妻が「水沢うどんがある!」という。以前、友人と水沢うどんを食べたことがあるらしく、肉汁でのつけ麺が最高だというのでサービスエリアにあるうどん屋に入って「水沢肉汁うどん」を注文した。茹でるのに時間がかかるのか少々待たされたが太いうどんに濃い肉汁がよく絡んでいてとても美味しかった。全く知らない料理を軽率の頼んで食べるのもよいものである。

食後、ちょっとブラブラしながら売店を冷やかしていたら、なぜか変なキーホルダーなどがたくさん売ってたのが気になった。最近はどこもツイッター映えするような新製品の開発に必死なんだろうと思った。

赤城高原SAを出て、さらに北上するとまた雨が降ってきたのだけど、あるトンネルを抜けると、山と山の間になにかがかかっている。ドライブ用のサングラスを跳ね上げて見てみると、目の前に虹が広がっていた。少しウトウトしていた妻を起こして虹を撮影してもらったが、こんな低い所で虹を見たのは生まれて初めてで少し感動してしまった。

その後、雨も風も強くなってかなりゆっくり慎重に運転していたが、それほど予定から遅れず宿にチェックインすることができた。大変失礼なのだけど、宿泊費がかなり安いためそれほど高級感がある宿ではないだろうと思っていた。しかし、宿について入ってみると、最近リニューアルしたということもあってとても広々として開放感があり、明るい造りだった。江戸川区民なら1万円以下で泊まれるが、値段設定がバグっている。江戸川区民はぜひ一度行って税金を回収してほしい。なんなら、江戸川区から塩沢江戸川荘までの直通バスが定期的に出ているので、行き来もらくらくだ。

受付でスタッフから宿の説明を受けていたら「つい最近、この近くに熊が出たので外に出るときは気をつけてほしい」という注意を受けた。身長185センチ体重100キロ超の私はよく「熊のよう」とからかわれるので「熊に間違われないように気を付けます」と冗談を飛ばしたのだがスタッフからは苦笑されるは妻はあまり面白くないものを聞いた目で見てくるわで完全に滑った感があった。軽率なジョークは言うものではない。

受付を終えて、部屋でおもてなしで置いてあるお茶とお茶菓子の羊羹を食べながらぼけーっとしていて、さて、持ってきたタブレットで漫画でも読むかと思ったら取引先から、急遽仕事を頼みたいという連絡があり、食事までには終わりそうなので引き受けてしまった。まあ、宿代を稼ぐため、ということもあるのだけど、こういうときは貧乏性でゆったりくつろぐということが苦手な性質が恨めしい。まぁ、これはこれで最近流行りの「ワーケーション」と言えるかもしれない。妻は転がって寝ていた。

仕事を終わらして温泉でひとっ風呂浴びて出てきたら、もう夕食の時間だった。このホテルは食堂に集まって食べるタイプの宿で、食堂に行くと新型コロナウイルスということもあって食事は全部準備されていた。

私は地酒セット、妻は梅酒のサイダー割りを頼んで乾杯すると、鍋と松茸の土瓶蒸しの卓上コンロに火がつけられて煮込まれていく。その間に並んだ料理を食べていく。最高にうまい、というわけでもはないのだけど、私は山形の生まれで新潟の味も実家で食べるものと近いものがあり、食が進む。

今回は、ちょっと奮発して松茸料理を追加していたので、松茸ご飯・土瓶蒸し・松茸の天ぷらが並んでいた。実は松茸料理というものを注文したのははじめてでかなり緊張してしまった。特に土瓶蒸しだ。おちょこが添えられているのでどうやらおちょこで飲むらしいのだけど、飲み頃の頃にはすでに酔いが回っていて、土瓶からうまく注げず少しこぼしてしまった。少々恥ずかしい。しかし、味は甘みが濃く、酒ととてもあってとても美味であった。

土瓶蒸しのコンロの火も消えた頃にスタッフが皿を指して土瓶蒸しがどうこうと伝えてきたが、いい加減酔っている上マスク越しでよく聞こえなかったのでつい「大きめの皿に汁を注いで飲め」という指示だと思い、皿に汁を注いだ。しかし、皿は浅く、汁を注ぐような器ではない。はて?と思って妻を見ると、土瓶を皿の上に置きつつ、私の方を「なにしてんだ、こいつは」というすごい目で睨んできているし、係員は凍りついたように笑顔が張り付いていた。このとき、すでに酒精で顔が真っ赤になっていたのだが、さらに赤くなった気がする。そのまま皿に注いだ汁をズズッと飲み干し、何もなかったかのように土瓶を皿に載せて、酒をもういっぱい煽った。

以前はわりと酒は飲めた方だったのだけど、ここ5年ほどほとんどお酒を飲まない生活を続けていたらあまり酒に飲めない体になってしまっていて、小瓶3本の地酒セットも2本しか飲み尽くせなかった。この辺の感覚はそろそろ現実に合わせたものにしていきたい。残った部屋にお酒を持って帰って、部屋でゴロゴロしながら「晴天を衝け」やらなにやらを見つつ漫画を読んでいたら1日が終わってしまった。

ところで、若い頃から万年床で寝ていると、ふかふかの布団で寝ることができなくなる。今回も最初は布団の中に潜り込んだのだけど敷布団が柔らかすぎて落ち着かない。酒で火照った体が暑いのもあって、畳の上で寝っ転がっていたら、そのまま掛布団をかけて寝てしまっていた。朝起きたら妻から「お前は本当に貧乏性だなぁ」と突っ込まれるだけど、こればっかりは本当にどうしようもない。慣れていければ良い布団でも寝れるようになるのだろうか。それとも、家にある布団をもうちょっとまともなものに変えるべきなのだろうか。悩みは尽きない。

起きたあとは朝風呂に入って朝食を食べに食堂に降りた。朝食も会食方式でthe・朝飯な皿が並んでいて、白米はおひつで渡されて自分たちでよそって食べる形式だった。スタッフから「必要ならをおひつごとお代わりできますから」と言われたのだけど、流石におひつごとおかわりをするのも恥ずかしい…と思って遠慮しようと思ったのだけど、さすが新潟は日本有数の米どころで白米がうまい。生卵や納豆・しそ昆布などをお供にがっついていたら、あっというまにおひつが空になった。妻に「おかわりしていいかい?」と聞いたら「まぁ、今回だけならいいよ…」と諦めたように許してくれたのでおひつのおかわりを注文した。スタッフがもってきたおかわりのおひつは1回目より多く盛ってきてくれたのではないかという量だったのだけど、ありがたく食べきった。こんなに米を食ったのは久々であった。

部屋に戻ったら血糖値が急に上がったのか眠くなり、一眠りしていたらチェックアウトの10時に迫っていた。妻も寝ていたので叩き起こして大急ぎで身支度をする。チェックアウトは11時くらいまでにしてほしいのだが、まぁ、清掃やベッドメイキングの時間もあるので仕方ない。窓から外を見ると昨日と打って変わっての快晴だった。

この先は完璧にノープランなので、会計をしながらスタッフに「どこか良いドライブコースはないか?」と聞いたら、目の前の国道を通って群馬まで走り抜けると良いと教えてもらった。高速で帰ってたほうが早いし簡単なのだけど、晴天で雨も降らなさそうだし、マップで確認するとそのコースだと家まで6時間ほどのかかる程度なのでドライブしながら帰るのは丁度いい距離と判断して、お礼を言って宿をあとにした。また来たい。というか、スタンプ券をもらったのでたぶん春にはまた行くと思う。

近くのガソリンスタンドで給油し、言われたとおり道を走っていると割とすぐに峠道に入った。この峠が日本で有数の難所で有名な「三国峠」だということを知るのは帰ったあとである。私の車は軽バンなので馬力が出ない。急カーブが連続する上り坂ではギアをマニュアルモードにしてなんとか登っていくが、それでもトラックや馬力の有りそうな車が迫ってくるたびに泣きそうになりながらなんとかスピードを維持し、退避場所で後続車を抜かしてまたギュンギュンエンジンを回しながら登っては下ってを続けていく。ただ、空はとてもきれいだし、かの有名な湯沢のスキー場も見ることができた。桃太郎電鉄で存在は知っていたが本物は初めて見た。だが、私はスキーは1分に1回はコケていたくらいには苦手だし、雪道をここは走りたくないと思ったので冬にここに来ることはないだろう。

妻のスマホには気圧計がついていて、妻はその気圧計を見ながら「すげー!」とか叫んでいた。私も妻も気圧の変化には弱い。1000hPaを切ったあたりからもう耳は痛くなるわ軽く頭痛はするわで大騒ぎなのだけども、まぁ、こういう痛みも二人で叫びながら移動する限りでは面白いといえば面白い。1時間ほどで群馬側に抜け、人里にたどり着きコンビニで軽く休憩して高速に入った。次回は紅葉の時期などに走ってみたらとても綺麗なんじゃないかと思うのだけど、そういうシーズンはとても混むので渋滞があまり好きではない私はいつ来ればいいのだろうかとちょっと悩む次第である。

その後は特に大きなイベントもなく、途中のパーキングエリアで2回ほど休憩をとりつつ、16時頃に無事自宅にたどり着いた。疲れたといえば疲れたけど、翌日までの仕事もあったので泣く泣く仕事に取り掛かったけど。

今回は観光名所にもよらず、お土産も売店で買ったおかきくらいという雑な旅だった。でも、何か特定のイベントを発生させる旅というのも良いことなのだけど、割と何もしないというか、ただただ走るだけという旅行もなかなか悪くはないし、軽率なたびはゆく風まかせでいいと思うのだ。特に目的を持たない旅だけども、その道中にあったことを思い出しながら書くということも、また旅の締めくくりとして楽しい作業なのだ。

さて、今回はこのくらいで。来月は親が上京し、千葉に一緒に行く予定なので、そのことをかけたらと思う。では。

妻のあおががてんかん再発とか体調の悪化とかで仕事をやめることになりました。障害者の自分で妻一人養うことはかなり厳しいのでコンテンツがオモシロかったらサポートしていただけると全裸で土下座マシンになります。