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久遠堂の製作覚書②「やはり〝可愛い〟は最強だった」

やはり、ここは第1作目『ケーキバイキング!』の時の話から始めなくてはならないだろう。

「初心者女子をボドゲ沼に落とすためのゲームを作ろう」と決意して半月、私は早くも挫けそうになっていた。周りの女子たちが、本当に……本っっっ当に1ミリも興味を持ってくれないのだ。

初心者女子向けに作るからには、実際に初心者かつ女子を捕まえて色々と意見を聞かなくてはならない。しかしいくら「ボードゲーム遊ぼうよ!」って言っても、なんか曖昧に笑ってやり過ごされたり、あるいは露骨に嫌がられたりした。

仕方ないので、まず露骨に嫌がる子に「なぜそんな嫌なのか、遊んだこともないくせに」と尋ねてみるとこから始めた。すると衝撃の答えが返ってきたのだ。

「そういうの、休み時間に根暗そうな男子とかが教室の隅で集まってさ、変な技とか叫びながら遊んでたやつでしょ。なんかヤだ。オタクっぽいし、キモいし」

週末の度にイエサブのデュエルスペースに通っては、そういう変な技名とかモンスターとかがカッコいいと思って遊んでいた根暗オタク女子だった私は、この返答に打ちのめされた。キモいのか。キモいよな。そらそうだわ。

キラキラな彼女にとっては、それが遊戯王だとかデュエマだとかモンコレだとかギャザだとかそんな区別はどうでも良くて、ゲームとはキモオタ男子の怪しげな儀式でしかなかったのだ。

いかにもカードです!という見た目は、もうそれだけで忌避されてしまうらしい。私はもうガックリしてしまって、じゃあどんな見た目なら偏見なく受け入れてもらえるのかを模索し始めた。

そして、ある日。画材の買い出しで立ち寄ったハンズで、ついに出会ったのだ。三角形のおにぎりトランプや、食パンの形のトランプ、丸型のパンケーキのトランプに。

特に丸型のトランプを見た時、私の脳裏に「この円形をホールケーキに見立てて、ケーキピースを並べたら可愛いのではないか」という天啓が落ちた。

さっそく厚紙とサークルカッターでカードを試作して、例の嫌がった彼女に見てもらったところ、第一声が「可愛い!」だったのだ。この瞬間に私の製作方針第一項が決定した。

『まず見た目が可愛いことにステを全振りすべし』

これだ。以降、久遠堂の作品はともかく「可愛い」とか「オシャレ」な見た目であることを前提に、私の中の乏しい女子力を総動員して製作されていくことになる。

本業でイラストだのデザインをずっとやって来て、所謂カワイイだのポップだのは自分の美的感覚とはイマイチ合わないと思い続けていたのだが、それでもちゃんと勉強を続けていて良かった、とあの日は心底思ったもんである。

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