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久遠堂の製作覚書⑦「お値段・はうまっち・べりまっち」

ボドゲに限らずの話だが、創作物を頒布するとなると絶対に避けて通れない話題がある。そう、価格の話だ。もう散々この手の議論は交わされており、私が今更するこっちゃないかも知れないが、あくまでこのnoreは私の個人的な製作覚書なので、そんなん知らんわ。書くわ。

「原価率3割」という言葉を聞いたことがある人もいるだろう。主に飲食業界の話なのだが、販売価格に対する材料代の割合は30%だよ、という話であり、ボドゲ界隈でもまあ原価率3割が理想とされている。

うん。あのね。無理!!!!!

例えば材料費15万円で100個を製作したとすると、1個当たりの原価は1500円。これはすでに大手パブリッシャーが商業販売している小箱ボドゲの値段である。原価率3割にしようとしたら5000円で売らなくてはならないが、他にトークンもチップも入っていないカードのみの小箱で5000円かー……よっぽど内容が良かったとしても、そう簡単には売れないだろう。

ましてや、これは原価率だけの話で、実際には更にイベント出展費・会場までの往復送料・自車搬入だとしたらガソリン代や駐車場代・ダンボールやプチプチなどの梱包材代・イベント当日のスタッフ全員分の交通費や食事代なども売り上げから出さなくてはならない。5000円-原価1500円=3500円×100=35万しか儲けが出ないことを考えたら、良くてトントン、下手すれば赤字だ。

なんなら少しでも価格を抑えるために丁合や箱詰めなどを自分たちでやる製作者も多いだろう。これを書いている現在、東京都の最低賃金が1013円(令和元年10月1日改定)である。3人がかりで丁合に8時間かかったとしたら、人件費24312円もそこに上乗せしなくてはならない。「好きでやってるから」「趣味だから」「楽しんでいるから」と、自分たちの労働力や拘束時間を時給で考えていない製作者はとても多い。とても、とても多い。

ご理解いただけたら幸いなのだが、上記諸々を鑑みるならば、1500円のものを5000円で売ってもまだお安い方なのだ。そして当然、完売する前提の話である。

もちろん、製作総量が上がればその分、原価は安くなる。2〜3000個くらい作るなら話はまた違うだろう。だが2000個ってもう半分くらい企業の規模感で、資金的にも置き場所的にも、売れ残った時の悲惨さを考えても、個人製作者には容易に手が出せる個数ではない。

さて、では先程の例で原価1500円の小箱の価格を決めよう。他の似たようなサイズ感の同人作品と比べたり、委託に出した時に3割ほどの手数料が乗ることを考えなくてはならないが、大体の人が2000円か2500円か、その辺で迷うことになると思う。

新参の製作者の方がこれを読むとしたら、どうしても伝えておきたいことがある。

『迷ったら、高い方に設定する』

売れなかった時の値下げは簡単にできるのだ。「○周年記念セール」とか「○○感謝セール」とか、色々な理由をこじ付けて安く出せばいい。しかし値上げは死ぬほど難しい。消費税の増税とか原価高彿のためとか、周りも「それじゃ仕方ねえな」と納得してくれそうな客観的な理由がないと、一度決めた価格を「ごめん、やっぱちょっと上げさせて」は言いづらい。

ちょっとでも購入者の負担を減らしたい、お手頃価格で手にとってもらいたい、売れ残るよりマシ、趣味でやってることだから、という気持ちも大変よく分かるのだが、趣味とは言え、いや趣味なればこそ、長く続けていくためにはお金が必要だ。少しでも資金が戻ってきてくれた方がいいに決まっている。

ガツガツ稼げ、シビアに金勘定しろ、というつもりではない。せめて打ち上げの焼肉代くらいになれば嬉しかろう、という程度のことだ。イベント終わりの美味しいごはんは、また次の作品とイベントへの活力になるのだから。

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