【小説】かみなり すなわち こえを はっす
花倉山の頂上に黄金色の朝日がさすと、村は少しづつ目を覚ます。南を流れる藤川の周りには菜の花が咲きはじめていた。まだ肌寒い春分の頃だ。
本宮家の使用人たちはすでに布団をたたみ、雨戸を開け、かまどに火を入れ、主人の朝食の支度をしていた。台所から白い煙がふんわり漂っている。
明治になってから十年ほど経つが、この村は江戸の時代とそう変わりは無い。変わったのは武士が居なくなったことくらい。本宮家は戦国時代からこの地にいた武士の一族で、土地のものから愛されてきた名家だ。江戸時代から