キミの手は格好良いから

タイガーマスクの好きな、
ビートルズの好きな、
アンタの絵は売れるよ、と言われた君の横に居合わせたぼくは、今少し寂しい。

最良の弟子たること能わざるも、
七人のうちの一人として、
同じ母校へと通うことにはなったものの、

思いがけなくも若い頃の絵に子供の頃から触れており、
実は今尚所有し、
ふとした折に習うこととなり、
西岡常一とRichard SerraとJean-Eugène Atgetを教えてもらい、
色塗りじゃないと怒られ、
刃の裏出しの手ほどきを受け、
ギタースケールの大事さを語られたものの、

7年ぶりに帰郷した際偶然再会しても、
旧知の彼らの音信を少々語る以外何も誇れる手土産はなく、
君の絵は確かに売れ、
君ほどは手厳しくは怒られなかったと、今更ながらに思い至るも、
やはり花田一家の業への興味は未だ起きず、
それでも満々たる水柱に封じ込められた儚き薔薇の死骸の美しさを、今でも思い出す。

仕事帰りにもたらされた一報は、
あしたの日々の質を何も変えるものではないものの、

唯一褒めてくれた、
自分の手に傷が増えては悲しくなるほどに、
あの時しっかり描ければよかったのにと、
詮無くも思わずには居られないぼくは、

だからこそ寂しく、ゆえに寂しい。


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