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レビュー「米津玄師/LOSER」


今回は、LOSERのMVを見ながら感想など書こうと思う。
(※このレビューはあくまで、個人の感想と妄想です。)

この曲はHONDA ジェイド(JADE)のCM曲だったそう。

初めて聞いたときの印象は「早い、強い、カッコいい」。
疾走感と躍動感があり、スタイリッシュで「攻めてる」感じ。

場面1:教室
教室。分厚いカーテンで窓の大部分の面積が覆われている。その隙間から明るい光が指し込んでいる。
舞台の袖幕とスポットライトのようだ。

フード帽子を被って床を見つめ、しゃがんでいる状態の男(=米津さん)。
体の部位がそれぞれ意思を持っているのか、手に始まり各部位に命が吹き込まれていくようにゆっくりと立ち上がる。
バイクorレーシングカーのエンジン音(もしくはドリフト音?)とともに動き出す。
エレキギターが鋭角の音を鳴らして急発進。
岩壁をつんざきながら進んでいく。
高鳴る心臓の鼓動のようなクラップ音が加勢する。

!!ポイント!!
…最後まで、米津さんのダンスがキレッキレで上手い。カッコいい!

いつもどおりの通り独り
こんな日々もはや懲り懲り
もうどこにも行けやしないのに
夢見ておやすみ いつでも僕らはこんな風に
ぼんくらな夜に飽き飽き
また踊り踊り出す明日に
出会うためにさよなら

鬱屈した状況から抜け出したい気持ちを表している。
・繰り返す言葉(「懲り懲り」「飽き飽き」「踊り踊り」)
・平坦な音程
・速いテンポで多くの言葉が詰め込まれるが、目を引くような革新的な言葉がない
・「いつも〜明日に」まで、文末の言葉の母音(I)の統一
 →「出会うためにさよなら」で母音の呪縛を破り、開放感が生まれる。

歩き回ってやっとついた
ここはどうだ楽園か?
今となっちゃもうわからない
四半世紀の結果出来た
青い顔のスーパースターが
お腹すかしては待ってる

「青い顔のスーパースター」とは何のことだろう?
四半世紀をかけてできた=米津さんかもしれないし、ホンダCM起用曲なので「ジェイド」(=翡翠=青)かもしれない。

「お腹すかしては待ってる」の直後に、それまで繰り返してたリズムのクラップ音が弾ける。区切り線のように短くて強い4つの音。(昔、流行った、モップやバケツで音を繰り広げるSTOMPのイメージ)
目が醒めるようだ。

アイムアルーザー
どうせだったら遠吠えだっていいだろう
もう一回もう一回行こうぜ僕らの声  
アイムアルーザー  
ずっと前から聞こえてた  
いつかポケットに隠した声が

疾走感。
ルーザー(loser)=敗者、負け犬。
僕は負け犬だ、遠吠えしたっていいだろう、と声高らかに叫ぶ。
「ポケットに隠した声」=「もう一回もう一回行こうぜ」
そう、俺は負け犬。もう一回、もう一回。
ポケットに隠さず、臆さず行こう。
立とう、進もう、自分の手で未来をつかみに行こう。

画面は切り替わる。階段手すり笠木に沿って滑り落ち、階下から溢れる水に頭まで覆われていく。


場面2:暗闇に浮かぶトンネル
夜の街。
トンネルを印象的なグリーンライトが照らす。翡翠色だ。

トンネルは場面1の教室(内)から、後述する場面3のビル屋上(外)へとつながるトンネルかもしれない。

路上に引かれた無機質な白線。
その線は綱になる。
綱の上をバランスを取るように踊る。

そして、綱だった線が境界線になる。
境界線を越えて踊る。

やがて、境界線は剥ぎ取られ、投げ縄になる。
宙に浮かべた投げ縄をもてあそぶように踊る。

踊る阿呆に見る阿呆
我らそれを端から笑う阿呆
(中略)
ただどこでもいいから遠くへ行きたいんだ
それだけなんだ

ここは現代版ラップ調念仏のような感じで、乾いた平坦な音調が高速で唱えられる。

いつかは出会えるはずの
黄金の色したアイオライトを
きっと掴んで離すな

アイオライトはスミレ色やくすんだ青紫などの神秘的な色をした天然石で、ここでは「手に入れたい未来」、「目標」といった意味だろう。(ちなみに、米津さんは3月生まれで、アイオライトは3月の誕生石でもあるらしい。)
ここでも強い意思(=石?)が感じられる。


場面3:どこかのビルの屋上。
開放感があるビルの屋上。
そのビルと彼を見下ろすように、はるかに高いビルが林立している。

ここいらでひとつ踊ってみようぜ
夜が明けるまで転がっていこうぜ
聞こえてんなら声出していこうぜ

朝から夜まで踊り続ける。
喝采の雨が降り注ぎ、天啓を得たかのようだ。
翔ぶように踊り、踊るように翔んでいる。

彼は踊る。
今を踊る。

弧形の大地を踏み鳴らし、その音はいつしか夜明けを告げる光に変わっていく。


「アイムアルーザー」と言いながら、最初から最後まで、全く敗北感がない。
むしろ、先陣を切ってひたすら前に進む強い背中を見せながら、同時に「〜しようぜ」と一人ひとりに勇気と元気をくれる。

挑戦しない人には負けもない。
この曲に描かれているルーザー(敗者)は、未来ののウィナー(勝者)になるための軌跡の一つに過ぎない。
だから、栄光のLOSERなのだ。


あとがき
この曲はテンポが良く、爽快な気分になる。
何回もリピートして聞くと、ますますテンションが上がっていく。
BGMとしてこの曲をかけながら味噌汁を作っていた時、思わずお玉をマイク代わりにして歌ってしまった。
…いつもより尖った味の味噌汁になった気がしたのは、そのせいだろうか。



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