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地元の審議会から文字で男女平等意識を変えていく【元外交官のグローバルキャリア】

地元の男女平等推進審議会の委員を務めて2期目だ。ジェンダー研究の教授、弁護士、助産師協会会長、各種NPOの長、商工会議所の女性部会長、と有識者が居並ぶ中で、私は初年度から積極的に発言した。二年目になると、言いっぱなしにはせずに、文字で修正を加えていった。関連所管官庁の文言を調べて引用し、市職員で構成する事務局に修正文を渡して帰っていく。
私の立場は公募市民だ。

外務省時代に三つの総領事館に勤務した私は、アメリカでの方が地域社会に近い位置で仕事をしていた。霞ヶ関で外交を所管としていると、一般市民からは遠いところで、概念論に携わっていると感じることもあった。

13年間連続で海外で勤務し、帰国後はより地域社会に根を下ろした生活をしたいと思っていた。そもそも私には地元がない。大学から上京した父の赴任での海外暮らしが長く、一番地元感があったのは海外の日本人社会だ。街で日本人を見かければ、だいたい誰であるかが分かり、誰もが父親の所属企業で識別され、夏は盆踊りがあり、冬は会社のクリスマスパーティーがあった。1970年代には、年初に紅白歌合戦や寅さんの上映会に繰り出した。

今の私の地元は、母が育った地元だ。住みたい街の首位を守り続ける、適度なサイズ感で愛着が持てる街だ。「地元」での活動を夢見ていた私は、市報で発見した男女平等推進審議会の公募市民に応募した。400字の作文を提出して選ばれた。役所受けする文章は16年間の国家公務員生活で会得した。

それが三年前、外務省を辞めて米系経済団体にリモート勤務時のことだ。一期目は、市の職員が時間をかけて準備した推進状況の資料に意見をするのが主な仕事だった。一期二年の後半には要領を得てきて、市民宛に実施される男女平等の意識調査の文言を精査した。PRや広報の仕事の経験を活かして、回収率を上げるために、短く、分かりやすく、回答を促すような文言修正を提案した。その結果回収率が前年の35.6%から45.4%に上がった。担当課長が、回収率上昇を議会で褒められたと直々に報告してくれた。

二期目は、意識調査の結果に基づき、第5次男女平等推進計画を活発に議論して策定に協力した。パブリックコメントへの審議会からの回答も読みやすく、分かりやすく修正した。審議会で出される意見の「なんとなくこういう風に直してほしい」を具体的に行政用語で言語化するのはお手のものだ。私が赤を入れていくことで、その後の事務局の作業負担は軽減されるはずだ。

男女平等推進に欠かせないワークライフバランスについては、元管理職として知見も経験もある。市職員が「率先して残業時間を減らしてワークライフバランスに努めるとする」のであれば、審議会もそれに一役買うべきだ。議論をなるべく短く、早くまとめて、市職員に負担をかけないべきである。会の進行が早く進むように一委員として、進行を促したり、ヒアリングを終了しお役御免の担当課長の退席を促した。議論を抽象論でなく文字に落として進めて総意を求めた。

いたずらに審議会が追加資料を求めないように提出資料を吟味した。「その資料を作成するのに、起案者が3時間、決裁に4時間、他課への合議に5時間、計12労働時間を要する資料が本当に必要ですかね?」と公務員の作業を数値化することで、可視化し資料作成削減に努めた。

幸い会長、副会長や他の委員の方々も、発言の多い一公募市民をおおらかに受け入れてくれた。議論のための議論にならず、抽象論ではなく具体的な施作作りに、審議会と担当課とでタグを組んで進めた手応えがある。一市民として、ボトムアップで行政の施作の方向をつけて、政策に関与ができるという民主主義制度を肌で感じた。

そして、物事を動かすには、社会を変えるには、言語の力や文言の力がとてつもなく大きいと痛感した。

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