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解説:編曲作品「全く言うことを聞いてくれない小犬のワルツ」

2021年7月9日に筆者のTwitter上で発表した編曲作品。


原曲は言わずとも知れた超人気曲、F.ショパン作曲の小犬のワルツ(ワルツ第6番変ニ長調作品64-1)。ショパンの恋人ジョルジュ・サンドが飼っていたワンちゃんが自らの尻尾を追いかけ回してグルグルと超回転している可愛らしい様子を描いた曲、というエピソードでも有名である。

「子犬のワルツ」は初〜中級者でも演奏ができて、ピアノ的な演奏効果も大変高い上、大変親しみやすい曲調であるので、演奏に取り上げられる回数も多い。何か編曲したい欲をくすぐる曲でもあるので、古今の音楽家たちによる膨大な数の編曲作品が存在する。ゴドフスキーやアムランの編曲は特に秀逸だろう。

作品解説

この楽曲は「小犬のワルツ」を用いたピアノ独奏用の自由な編曲作品。カッコ良く言えば幻想的パラフレーズもともとは映像作品用として作った曲なので、演奏されることを前提としていないが、演奏するとすれば中〜上級者向けか。元曲の旋律が伸びたり縮んだり、珍妙な和音を加えられたりで、曲に馴染みがあればあるほど、予想が裏切られ困惑させられるであろう。ただ、こういったアレンジを楽しむ作品は元ネタをよく知っていないと微塵も面白くないので、はじめに元ネタをはっきりと提示しておく必要がある。

この編曲作品は題名の通り、飼い主の全く言うことを聞いてくれない小犬にへとへとになりながらも、それを愛おしく思う飼い主との牧歌的な掛け合いを表現している。


冒頭

元曲そのままに開始。かと思うと何か長い。このように、予測できない小犬が駆け回っている様子、といった作品の方向性を聴き手にハッキリ示している部分でもある。

1.「小犬のワルツ」が普通に開始されたかと思いきや、いきなり縦横無尽に駆け回り始める小犬の様子。
2.どこかへ走り去ったかと思えば、すぐに元の曲へ戻ってくる。すでに飼い主の言う事を聞いてくれてはいない。


主部

基本的には元曲の通り進むが、ときおり奇妙なアレンジが挿入される。

3.ジャズ風のフレーズが紛れ込む。犬は走り回っていても突然真顔でブレーキしたりするのだ。
4.ヘミオラ的なメロディが漸次的に縮小され、
5.メロディが強烈な白鍵グリッサンドで駆け上がる。調性が変ニ長調なので、この白鍵グリッサンド(ハ長調音階)がズレて響く。アムラン編曲にも最後に白鍵グリッサンドが出現する。


6.何かにつまづき、こけそうになる部分。元の旋律に余計なものが付け足されている。
7.同上。
8.ここも同じく。♭5のコードを挿んで、半音階的に上昇する部分が挿入されている。逃げる小犬を飼い主が慌てて追いかけているかのようだ。
9. 8と対象的に反行している。
10.元曲のメロディが全音音階的に縮小、もとい急に切断され、予期せぬ終わり方をする。「いきなり止まるんかい!」といった風景。
11.短2度で「キャンキャン!」と小犬が挑発する。そしてフェイントをかけてくる。
12.全音音階で急激な下降。左手は2拍子でせっついてくる。
13.元のメロディが何度も反復されながら上行していゆく。小犬よ一体どこへ行く?
14.やっとの事で頂点に辿り着き、そこから下降。
15.1小節引き伸ばされたメロディが、ズッこけるかのように旋律を締めて、主和音の短2度上で怒りのブチギレツッコミ終止。小犬はまるで何事もなかったかのように優雅な中間部へ。

中間部

優雅なはずの中間部は・・・

16.普通に進みそうで進まない。♭5や♯9のキツめのドミナント・モーションを挿みながら無理やりメロディを終わらせようとしてくる。エイヤッと力づくで曲を戻す飼い主
17.小犬も負けていはない。ここの左手は無調風かつヘミオラで少し分かりにくいが、分散されたドミナント・モーションである。
18.元曲のヘミオラを逆手に取った皮肉的な部分。チャン!となかなか古臭い終止。また何事もなかったかのように戻る。


19.だんだん加速していき片足でおっとっと、とコケそうになる。紐が引っ張られて飼い主がよろけている。
19.元曲の通り。ようやく普通に戻ってくれたのか・・・?
20.ん?ここではリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」が引用されている。蜂も飛んできたらしい。
21.なにやらウネウネと奇妙な響きに。この部分はピアノで演奏が不可能。DAWで長3度上下にピッチベンドさせている。ネタ楽譜の醍醐味。

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22.急にロ長調へ。これは転調と呼ぶのだろうか。
23.元曲のヘミオラを、ヘミオラでぶつける。縦横無尽に暴れまわる小犬の様子。
24.小犬が全力でどこかへダッシュ。
25.行き着いた遠くの方で、小犬が飼い主を挑発して回転している。
26.イ長調から変ニ長調の属調である変イ長調和音へ、何気なくスライドして戻る。
26.飼い主にフェイントをかけながら走り回る小犬。


27.疲れた飼い主の溜息。音声は筆者による。元曲の下降音形に従っている。
28.再度フェイントをかけてくる小犬。
29.更に疲れた飼い主の溜息。この音声も筆者によるモノだが、より疲れた感じを出すためにDAWで3度ハモりを加えている。
30.2拍目で元気に「ワン!」。4拍子になったり、
31.反復したり、
32.フェイントをかけたりしながら、
33.また元曲のメロディを反復しながら順次進行で盛り上がっていく。
34.盛り上がっていく(2回目)。前半より長い。
35.まだまだ盛り上がっていく・・・。
36.ギューンと下降。これの下降は元曲そのまま。楽しそうに暴れまわる小犬に疲れ切った飼い主、ついにバターンと倒れてしまう・・・。愛らしい小犬との喜劇はこれにて終了。めでたしめでたし!


無料配布「全く言うことを聞いてくれない小犬のワルツ」

この曲を実際に演奏してみたい!という方のために、演奏可能なバージョンを作りました。この楽譜は以前にTwitterで無料配布しておりましたので、無料で配布します。(Twitterでは削除済)
楽譜の配布はこのnoteページのみで行っております。


演奏可能に修正した部分

(114〜123小節目)DAWでピッチベンド加工を施しているため、ピアノでは演奏が不可能です。
(120〜123小節目)このように半音階下降のスライドで、それらしく演奏できるようにしました。


※注意事項

  • 公開演奏及びインターネット上への演奏動画の投稿の際は、作曲者名、編曲者名を必ず明記してください。(編曲:松﨑国生 または Arranged by Kunio Matsuzaki)

  • 公開演奏及びインターネット上への演奏動画の投稿の際には、使用料は不要です。

  • 公開演奏及びインターネット上への演奏動画の投稿の際には、松﨑国生公式ホームページのContactまで連絡をください。(練習に使用するなど個人的な利用に留まる場合は連絡不要)

  • この楽譜の複製や再配布は固く禁じます。

  • 曲のカット及び変更は固く禁じます。


全く言うことを聞いてくれない小犬のワルツ

作曲:F.ショパン(F.Chopin)
編曲:松﨑国生(Kunio Matsuzaki)

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