鈴木直樹『近世関東の土豪と地域社会』自著紹介

2019年9月期より古文書講座をご担当いただいている鈴木直樹先生に、ご著書『近世関東の土豪と地域社会』(吉川弘文館、2019年)をご紹介いただきました。先生は江戸時代の土豪について研究されており、本書は先生の博士論文がもとになったものとのことです。江戸時代の土豪とはどういう人たちだったのでしょうか?

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江戸時代(近世)の関東には、戦国時代以来の村や地域の有力者である土豪を先祖に持つ家が広範に存在していました。しかし、土豪は近世に入ると経済的に成長した村人により否定・克服されると、これまでの研究では評価されてきました。では、戦国大名北条氏の滅亡(1590年)後、数多く存在した土豪とその子孫は、近世社会をどのように生きたのでしょうか。本書は、土豪およびその子孫らを中心に、村の運営をめぐる村民の動向、村落内の経済構造、地縁・血縁関係をはじめとした社会関係、および領主支配の構造などの変化を分析し、土豪の変容と近世関東における村落社会の形成・展開過程の一端を明らかにしました。

本書の目次は次のようになっています。

序章
第1部 近世前期の土豪と土地特権
 第1章 近世前期における土豪の土地特権
 第2章 近世前期における検地施行と土豪の変容
第2部 土豪の変容と村落・地域社会
 第1章 近世前期土豪の変容と村内小集落
 第2章 近世前期~中期における土豪家と村落寺院
 第3章 近世前期地域支配体制の変容と土豪
 第4章 「旧家者百姓」家の特質と展開過程
終章

 第1部「近世前期の土豪と土地特権」では、村や地域の有力者であった土豪の変容過程について、関東に広範に見られる土地特権から分析しました。17世紀には、戦国時代の由緒に基づき土豪に与えられていた年貢免除地(土地特権)は廃止、もしくは認められても、目的が限られるようになりました。しかし、土豪は村の代表者たる村役人へとその性格を変化させることにより、近世を通じて有力な家として存続する基礎を築きました。

 第2部「土豪の変容と村落・地域社会」では、土豪としての性格を失った土豪家が、18世紀以降に至るまで村内でなお独自の地位を維持し続けた要因を考察しました。その結果、土豪の子孫は、①仮の親子関係で結ばれた本家分家関係、②村で最高のランクの戒名を唯一与えられる宗教的序列の中での優位性、を維持していたことを解明しました。

本書の分析の成果は、次のようにまとめることがでます。土豪は17世紀後半までに戦国期以来の土地特権を失うなど、村落・地域社会の変容を反映し、その性格を大きく変化させました。しかし土豪の家は、村人との優位な社会関係(本家分家関係など)により、他の家と同質化されることなく、近世を通じて有力な家として存続したのです。 

鈴木直樹(すずき なおき)
日本学術振興会特別研究員PD(中央大学)、専門は歴史学(日本近世史/地域史・村落史)
著書に『近世関東の土豪と地域社会』(吉川弘文館、2019年)。論文に「近世後期松代藩領における地域社会の再編と洪水」『信濃』第70巻第4号、2018年、「年中行事に見る山間村落の社会構造」渡辺尚志編『生産・流通・消費の近世史』勉誠出版、2016年、など。

鈴木先生は2020年4月期には「古文書ワークショップ」を開講されます。先生の指導の下古文書を実際に読んでいくワークショップです。江戸時代の人々の生活を覗いてみたいという方、受講してみませんか?

古文書ワークショップ ☆(一般:8,000円/4回 学生:4,000円/4回)
第2水曜日【※人文学ゼミですが月一回の開催です】(4/8、5/13、6/10、7/8) 19:15〜20:45 
会場:スペース・コウヨウ 5階(国立市中1-15-2)
【授業予定】
第一回: 古文書を読むためのキホンのキ―江戸時代の料理本を読む
第二回: 近世の古文書を読む①
第三回: 近世の古文書を読む②
第四回: 近世の古文書を読む③
【参考図書】
鈴木直樹『近世関東の土豪と地域社会』(吉川弘文館、2019年)
児玉幸多編『漢字くずし方辞典 新装版』(東京堂書店、2019年)
油井宏子『古文書くずし字見わけかたの極意』(柏書房、2013年)
林英夫『基礎 古文書のよみかた』(柏書房、1998年)

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