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かりんの青空 ~毛糸のパンツ~




 いやぁ、2023年の夏は本当に暑かった。
去年は、北海道で30℃を超えるなんて日は1週間位で、忘れた頃にもう一回だけ似たような週があるくらい。
 ニュースでは、温暖化を通り越して沸騰化時代。なんて、新語が披露されちゃって。
 でも、確かに温暖化なんて生ぬるいものじゃない。

 私の家は小さな1DKだけど。ダイニングの窓が南向きでとても大きい。寝室の窓も南向きだから必然的にどの部屋にも日がガンガン入って来る。
 冬は明るくて良いのだけど、夏は・・・。

 寝室にクーラーがあるので、貧乏性の私だけど、生きるためになるべく使うように生活する事にした。
 それでも、節約出来るように部屋着を工夫してみた。タンクトップに短いトランクス(陸上選手が試合で履くユニフォームのような)を履き、布の面積を少な目で過ごす。
 アラフォーのおばさんが、布の面積を少な目は、老害に違いない。
 しかし、生きるため、かつ誰にも見られない自宅内に免じて良いだろう、と開き直って過ごした。

 その日は、いつもの短いトランクスではなく、その昔、3コインだかで購入した毛糸のパンツを着用。本来は、冬にスカートの下に下半身を温めるために履くものだけど、もうなんだって良いのだ。
 モコモコと柔らかい素材だが、かなり短いので、快適に過ごす事が出来てしまう。なんなら、貧乏人からするとなんちゃって※ジェラピケくらいに思っている。

 ✳︎オシャレな部屋着ブランド

 その日は、図書館で小説を書く事にしていた。家の植物に水をあげ、身支度をし、日焼け止めをしたら、バックを持って自宅を出る。

 動きやすさがウリの、カジュアルな黒いTシャツタイプワンピースを着ていた。膝丈で動きやすいし、30℃を超える日なので、腕の部分を2回ほど折っていた。

 最寄り駅につき、地下鉄が来るのを待っていると、その瞬間、私は気づいた。


 股間が暑い!

 なぜだろう、いつもなら感じない暑さが漂っている!

 私は青ざめた、毛糸のパンツを履いたままだったのだ。札幌の地下鉄は都心部のような強いクーラーの効き具合ではないため、暑い。
 その暑さで、目が虚ろになっていた。

 夏なのに、私の下半身には毛糸のパンツ・・・・。冬なら重宝されるのに、マイナス気温なら最適なのに。
 今は外気温が32℃くらいで、地下の中。

 なんで気づかなかったんだろう・・・。
 ウキウキでワンピースに着替えていた。ああ、そうか、上から羽織るだけで下は脱がないから。

 え?そういう事?
 気づかないのがお馬鹿なんじゃなく?


 とにかく、脱ぎたくて仕方がない。
 キョロキョロと見まわし、隠れてバレないように脱ぐことが出来る場所はないか探す事にした。
 後ろの自動販売機の横でなら、こちらから死角となって出来る気がする。向こう側の駅に電車はまだ来ていないし、待っている人もかなり少ない。

 即座に、脱いでいる事がばれないような脱ぎ方をシュミレーションしてみた。腰の辺りから少しづつおろし、ワンピースから見える所に来たら、するっと足元に落として、素早くバックへ入れる。
 待って、靴にからまったらどうしよう!

 そのうち、私は前回のエッセイで書いた、Tシャツを脱いだ露出狂の時を思い出した。   
 危険な香りがする。当時はまだ19歳だったけど、今や私は、40歳。

 そう、私はもう、多分に大人だ。
 社会的責任があり過ぎる。地下鉄で毛糸のパンツを脱いでいたら、変人過ぎやしないか?ましてや、前回みたいに通常パンツも一緒に脱げたら、もう本当にお仕舞いだ。 

 地下鉄員さんに、「お客様、何してるんですか?!」私「あ、いや、これは、、、」
「え?パンツ脱いでるじゃないですか!」
私「ち、ち、違うの!」

 ピーポーピーポー。変態の極み。

 そうこうしていたら、電車がやって来た。
 仕方がない、我慢する事にした。

 暑い地下鉄の中で、再び朦朧としながら降車駅まで耐え忍んでいた。
 いつもなら、出ない所に汗が滲んでくる。
 まるで、クールビズなのに、間違えて長いシャツにネクタイで仕事の出来ないおじさんの気分・・・。

 降車駅の大通り駅へつくと、ダッシュで降りて、階段を駆け上がり、トイレへ駆け込んだ。

 以来、もうあの毛糸のパンツは夏には封印する事にした。
 夏には、もう見たくない。


 冬には活躍するに違いない、パンツ君。
 当分、おあずけだ!!

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